幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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司教座を訪う者

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「ニーメラー助祭はいらっしゃいますか?」

「・・・。助祭は先約がございまして、失礼ながらどなたともお会いになれません。」

聖職者は訪問者を値踏みするように眺めると門前払いすることに決めた。

「直近で都合がつく日時は」

「申し訳ございません、私は別の用件がございますのでこれにて」

「どうしても?」

「失礼」

「では・・・」

「ふんっ」

しつこい小童だったがようやく諦めたかと聖職者は嘲笑うかのごとく息を吐き、その場を後にする。
だがその少年は諦めたわけではなかった。最後の悪あがきのように聖職者の背中に言葉が投げかけられる。

「同胞団の者だとお伝えください。」

「何だと?」

少年が聖職者に応接室へと通されると、助祭が血相を変えて飛び込んで来る。

「お待たせしました。同胞団とうかがいましたが・・・」

「聖レクスティウスは神の栄光とともに」

少年が同胞団の符牒を唱えると、助祭は思わず息を飲む。

西方審問騎士団は外部からの呼称に過ぎず、同胞団こそが聖教会内部における公称だ。そして聖教会の内部において、この符牒は同胞団の人間にのみ認められる挨拶の言葉である。

「なるほど・・・あなたがいかなる素姓の方かもはや問うまでもありませんな。グラムスのような辺境に何の御用が?助祭に過ぎぬ私をご指名とは、もしや司教座の内偵でしょうか?」

「いいえ、それは私の仕事ではありません。・・・が、助祭は不正に心当たりでも?」

「いえいえ、とんでもない!ではどのようなご用向きでしょうか?」

「聖堂宮殿のご意志なのですが、お聞きになりますか?」

「と・・・とととんでもない!私ごときが聖堂宮殿のご意志に与ろうなどと毫も考えておりませぬ故」

「それは良かった。私の仕事が増えなくてなによりです。」

助祭は先ほどから何度も卒倒しそうになる。同胞団は内外問わず苛烈で鳴らしている。聖教会の助祭の立場であろうと安全が保障されてなどいないのだ。
言葉の選択を誤るとロクなことにならない、何も考えることなく目の前の少年に従うのが最善だと助祭は判断した。

「私に何なりとお申し付けください。」

「失礼するよ。」

「これは司教さま、このような場所においでいただけるとは。」

どうやら同胞団の人間が訪れたということが上に報告されたらしい。たかだか助祭の客に過ぎないにも関わらず、司教座のトップがお出ましとは。

「あぁ、同胞団の訪問があったと聞いたのであいさつしておかねばと思ってね。ニーメラー助祭、君は席を外したまえ。」

「よ・・・よろしいので?」

「司教の私が命ずるんだ。誰に憚ることがあろう。」

同胞団から指名を受けているのにこの場を離れてしまうことも恐ろしいが、司教と少年を天秤にかけている事実がベクスタルの不興を買うのも同様に恐ろしいことだ。板ばさみの助祭は覚悟を決める。

「申し訳ございません司教さま!失礼いたします。」

「で?同胞団が我が司教座にどのような用向きかな?」

「それは聖堂宮殿のご意志なのでベクスタル司教さまにお話するわけにもいかないのです。」

こ奴ぬけぬけと・・・。この司教座の主たる私の頭越しにこそこそとやりおって!どこの派閥の差し金で動いておるのか詰めてくれよう。

「若造、お前はどこのどいつだ?位階は?」

「これは申し遅れました、ベクスタル司教さま。私は同胞団所属のエクソシスト、ミハイル=グラドノフと申します。」

「これはしたり、ニーメラーよりも下ではないか。そのお前が私の言葉を聞けぬと言うのか?」

「お言葉ですが司教さま、誤解なきよう。」

「誤解だと?この私が?ふははは、何の冗談だ。」

「冗談を吐くつもりはまったくございません。ハッキリ申し上げて・・・位階などハナから関係が無いのですよ。」

「何だと?」

司教のいや増す威圧に対して少年はへりくだるどころか挑戦的な態度を見せ始める。

「私の主は司教のあなたさまでも更に上位の大司教でもございません。聖堂宮殿におわす教皇聖下ただお一人のみなのです。失礼ながら地上における神の代理人である聖下以外の命など塵芥に同じと心得ております。」

「この私を愚弄するか!」

「これは異なことを」

「何?」

「司教さまもまた聖下以外の命など塵芥とお考えではないので?もしそうでないとおっしゃるならば粛清が必要になりますが・・・まさか?」

ふいに首筋に冷たいものを感じ取ったベクスタルはガラリと態度を変える。目の前の狂犬は司教に対しても平然と牙をむくことに戦慄が走った。

「い・・・いや、少しばかり君を試させてもらっただけだ。この世に聖下のご意志より尊いものは無い。げに信徒の模範、さすが審問を司る同胞団よ。まことに頼もしい限りではないか。」

「私は勅命を奉じております。一切詮索せず、助力のみに努めていただけますね?」

「くっ!」

「ご不満でもございますか、ベクスタル司教さま?」

「まさか。我がグラムス司教座はいかなる助力も喜んで申し出る所存だ。」

***

リーファを置いて出てきた二人はそのまま帰宅の途についていた。

「ねぇ、いいのマルテ?久しぶりに会ったんでしょ?」

「いいのよ別に。それより何であなたたち記念会堂にいたの?」

「え?いやぁ~そりゃ~観劇に決まってるじゃ~ん、それ以外に何があるとでも?」

「ふ~ん。」

何やらティナはティナで企みがあるようだとマルティナも勘づいた。ティナはごまかしているのが丸分かりの表情だ。
一方のティナはマルティナを上手くごまかしたと安心して、気楽にふと思ったことを口走る。

「でも意外だったかも。」

「あら、何が意外だったのティナ?」

「マルテってば好きな幼なじみの前では面倒くさい女だってこ」

<ズドンッ!>

「わぎゃんっ!」

高速の物体Xがティナのおでこをメガヒットし、ティナの頭が後方にぶっ飛ぶ。

「うふふふふ」

「痛ぁ~い!!何、今の何っ?」

派手にのけ反ったティナが体勢を元に戻すと額を押さえて叫んだ。
物体Xを探すようにキョロキョロと辺りを見回すものの、視界に捉えたものと言えばにこやかに微笑んでいるマルティナだけだった。

「???ねぇ・・・マルテは私の頭にぶつかった何かを目撃したよね?何が飛んで来たの?」

「ただのデコピンなのに、ティナってば大げさね。」

「嘘でしょ?」

「いいえ、デコピンよ。」

「絶対デコピンの音じゃなかったよねマルテ?嘘だ!じゃあ、どうやったの?」

「こうよ。左手で中指を引っ張って・・・」

<ズバンッ!>

マルティナがデコピンと言い張る何かによって異質な音が響き渡る。ティナは首の関節がバカになる勢いで二度見してしまった。

「それデコピン?普通はそんな音鳴らないから。デコピンて親指で中指を止めて、こうやって弾くんだよ。」

「うふふ、やだわティナったら。そんなチマチマしたものがデコピンのはずないじゃない。」

「首ごと吹っ飛んだかと思ったんだよ。今も首が何だかムチ打ち気味なんだから。大丈夫?私の頭蓋骨ズレてない?」

「あはははは、相変わらずティナは面白いこと言うわね。だから私あなたのこと大好きなの。」
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