幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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果たすべき務め

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城壁の外では魔術の応酬が繰り返されて来たが、西方審問騎士団から歓声が上がる。何故かと言えば、今まで閉ざされ続けたグラムス城門がとうとう動き出したからだ。

「突入部隊がついにやったぞ!」

「全員で一斉になだれ込め!グズグズしてたら正体不明の防御壁無効狙撃で殺られ、がへっ!」

全体に指示を与える指揮官クラスの人間の頭が正確に撃ち抜かれた。
戦闘の当初からグラムスの狙撃手は軍隊の統制を喪失させる明確な意志を示し続けている。その執拗な攻撃の前に、次から次へと部隊長がたおれていった。
タチが悪いことに一切の弾道が見えないため、貫通弾を避けることすらできないことに同胞団の兵士も歯噛みする。

「クソ!前へーっ!」

<ウォォォー>

しかし城壁が重々しく開かれたその先には同胞団の想定とは異なる事態が展開していた。城門から顔をのぞかせたのは装備もマチマチな冒険者の群れではないか。

「・・・同胞団ではないぞ!まさか全滅したのか?」

「構うな、我らだけで制圧すれば良いのだ!」

先に突入した部隊が全滅したであろうことが明らかとなったにも関わらず、西方審問騎士団は勢いを緩めることなく城門へと突進して来る。これには勢いに乗るグラムスの冒険者たちにも驚きをもって受け止められた。

「西方審問騎士団のヤツら、まだ向かって来るぞ?主力が根こそぎ返り討ちに会ったってのに狂ってんのか?」

「躊躇なく自爆するようなヤツらだ。劣勢だと悟ろうが今さら撤退する道理が無えさ。」

「グラムスを攻めるヤツはもれなく悪夢の内に滅びる。また自滅してもらうだけだ、行くぞ!」

そう言うとガウスは誰よりも先駆けて西方審問騎士団へと突進していく。残りの冒険者も猛牛のごとく駆けて行くガウスに続いた。

その頃のリーファはと言うと、城壁の監視台へと歩みを進めていた。階段を上りきったその先にはシンディーとリアンの姿があった。

「おっ、いたいた。よぅ!」

「ん?リーファじゃねーか。良いのか、お前がこんなとこに来てて?」

「リーファさまぁ!」

一際大きい声は妖精の姿をしたロードチャンセラーのものだ。主人を見つけた子犬のように目を輝かせてこちらにすっ飛んで来る。

「ご苦労さま、ロードチャンセラー。アイツら相手によく持ちこたえてくれたよ。」

「ありがたきお言葉ですの!」

「わぁっ」

ロードチャンセラーはリーファにピッタリと寄り添うバトラーを突き飛ばして満面の笑みを浮かべている。蜂たちにも複雑な関係性があるのだろうか?

すると監視台から狙撃を続けていたリアンがリーファに声をかける。

「こちらにかかりきりで見ることは叶わなかったが、モンスターによる撹乱が上手く行ったようだなリーファ。」

「リアンの防御貫通の方がすごいよ。私たちだったらお手上げだもん。」

「そうは言っても連射はできない、やはりリーファの能力が決定打だろう。さぁリーファ、あともう一息だ。」

「うん、頑張るよー!」

「おーい、そろそろガウスたちがアイツらとぶつかるぞ?」

シンディーの言うとおり、監視台から地上を見ると冒険者たちが城壁外へ飛び出して西方審問騎士団に襲いかかって行く。統制の取れた動きをしている西方審問騎士団と比較すればどうしても冒険者たちは烏合の衆同然に見えた。
素人の私から見てもこのままぶつかるのは危険だって感じるよ。地上から同じ目線の高さで見たって全然わからないけど、見下ろす位置から全体を把握するとよくわかるんだ。

「おっと、そうだった。アイツらを分断してやらなきゃ。やるよ、バトラー!」

「かしこまりました、リーファさま。」

「ワーウルフだ、囲まれた!」

リーファの幻術とバトラーのダンジョンコアによって西方審問騎士団は大混乱の内に全滅してしまった。

***

「困ります・・・お引取りを!」

「どけっ!さもなくば、お前たちを拘束するぞ」

<バンッ!>

大きな扉がノックも無く乱暴に開かれた。騒がしい訪問者に対してその部屋の主が眉をひそめる。

「何かね、騒々しい。」

「ルメルト=ベクスタル司教、お迎えに上がりました。ご同行いただけますか?」

「市当局の者かね?」

「いかにも。ご返答はいかに?」

「・・・ふふふ、問うまでもなかったな。わかった、どこへなりと連れて行くが良い。」

目の前の衛兵連中が身柄を拘束しに来たというのは詳しい事情を聞くまでもない。あの同胞団不届き者どもが巻き起こした騒擾の件であろう。

ベクスタルは自嘲気味に笑うとやおら座席から立ち上がる。実に威風堂々たるその立ち居振る舞いに、取り囲む衛兵たちもいくばくかの威圧感を覚えるほどだった。

「司教さま・・・」

「私が戻らなければ、ターグ司祭の指示に従うように。では、後は頼んだぞ。」

駆け寄る側近にそう告げるとベクスタルは衛兵隊の馬車に乗って行ってしまった。

馬車に乗らなければならないほどの距離でもないので数分あまりで市庁舎へと到着すると、ベクスタルはそのまま大会議室へと通された。
普段であればグラムス及びマルトリス同盟の最高意志決定機関である二十三人会が執り行われる場所だ。こんな場所に連れて来られたということだけでも自身に重大な処分が下されると容易に想像がつく。

「ベクスタル司教、ようこそ戦時執行部戦後処理部会へ。」

「ケストン君か。私に聞きたいことは何かね?」

グラムスにおける世俗的権力と霊的権威が対峙する。ベクスタルはへりくだることなく己の役目にふさわしい態度をもって市長に接した。

「まぁ、席におかけください。」

「あぁ、そうさせてもらうよ。」

少し硬めだが案外座り心地の良い座席にベクスタルがゆっくりと腰掛けると、ケストンが話を切り出した。

「率直にうかがいますが・・・西方審問騎士団の襲来の目的は何でしょうな?もちろんグラムスにおける彼らの所業はご存知でしょう?」

「・・・それについては我が教会も遺憾に思う。だが我らとてあの者どもについて何も聞かされておらぬのだ。」

「仮にもあなたは司教だ。このままハイそうですかと帰すとでも?」

「知らぬものは知らぬ。これについては神に誓って言おう。だが・・・誰かが責任を取らねば事態が収拾しない。ワシも司教座のトップ、ケストン君の立場についてわからぬワケでもないさ。ワシの首で良ければ持って行くが良い。」

伊達や酔狂で首を差し出すと言うような人間ではないことは私も承知している。ならば今度はコレで顔色をうかがって見ようじゃないか。

「ふむ・・・、入りなさい。」

「ん?・・・き、貴様は!」

ケストンの指示で現れた男を見たベクスタルが愕然としている。しばらくベクスタルは絶句していたものの、その男が会釈するのを見るや思い出したかのように叫び始めた。

「おのれ、どのツラさげてこの場に!ど、どういうことだ?もしや・・・貴様、二重スパイダブルクロスかっ!」

「まだ言い逃れできるとでも?彼はあなたの関与も洗いざらい話してくれましたが・・・」

「な・・・馬鹿なことを!あのろくでもない粗暴漢どもの足を引っ張ってやったのが関与と言うならば関与だろうよ。だがあんなのと一緒くたにされるのだけは我慢ならんぞ!よく覚えておけ!」

屈辱のあまりベクスタルの顔が真っ赤になっている。西方審問騎士団と何があったのかはわからないが、血管が切れそうなほどの凄まじい剣幕にケストンも納得せざるを得なかった。

「どうやら本当に君の言うとおり司教は何も知らされておらんようだね。」
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