幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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おいらはレンジャー、知らない人は覚えてね

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「何はなくとも進軍は妨害されるもんなのよ・・・」

「うぎゃあー」

マイクがつぶやいた数秒後に轟いた叫び声は帝国兵のものだった。どうやら突然地面から飛び出してきた杭で足を貫かれたらしい。罠にかかった哀れな兵士は足を押さえて今も泣き叫んでいる。

「またやられたのか?しょうもない嫌がらせばかりしやがって!あー・・・クソ、もうウンザリだ!魔術部隊で進軍経路を掃射しろ!」

<ズドドドドド>

指揮官の指示通り魔術部隊が前面に展開するや、前方の進路に向けて魔術をぶち込んで行くではないか。派手に魔術が炸裂した後に残されたのは言うまでもなくデコボコになった地面だ。あちこち掘り返されたように黒い土がむき出しとなり、進みにくそうなことこの上ない状態だ。まして雨が降ろうものならたちまちにして人馬の足を取るに違いない。

「こんなに経路を荒らしては輸送の馬車が通れないではないか!やりすぎだ貴様ら!」

「何をっ!トラップを破壊するために掃射を命じた指揮官に文句を言うんだな。馬車が無理だと?そんなものお前ら脳筋どもが自ら担いで行け。」

「何だと?もう一回言ってみろ!」

何度もこのようなことが続いているのでさすがに仲間内でのいさかいまで生じ始めている。ただでさえセンダルタまで距離があるのに余計な緊張と疲労も重なって気が立っているようだ。

一方の私は今なにをしているのかというと・・・既に準備万端整っているのでトラップの成果を確認するべく、こうやって隠れて観察しているんだよね~。蜂たちを偵察に出しているおかげで敵の動きもまるわかり。バッチリ安全距離も保てるし、進軍経路の予想もつくんだよ。

じつは数日前にガウスがグラムスの冒険者やその他志願兵を引き連れてセンダルタ城に到着したんだ。それによって人手を確保した私たちはマイク班とティナ班に分かれて経路上のトラップを設置する作業をしたんだよ。
人手と言っても一人だけどね。誰だと思う?それは百人力のハイデルンなんだ。
トラップの穴は全てドワーフのハイデルンが土魔術で掘ってくれたんで、作業は思ったよりも早かったよ。設置後は元通りの地面に戻してくれたのは圧巻だった。どこに罠が埋まってるのか全くわからないもんね。

でもハイデルン本人は「根性のねじ曲がったエルフのド腐れは本当に人使いが荒い」ってボヤいてたっけ?ダンジョン救難や西方審問騎士団との戦闘でも大活躍だったけど、グラムス城門の戦闘後は数日寝込んだって話だもんなぁ。まぁ有能な人の下に困難な仕事が集まるのは仕方がないよ。

「俺たちの仕掛けた罠はちょっとやそっとじゃ見つけられねえ。本当は数もそれほど多くは無いのに、これだけコンスタントに引っかかるもんだからヤツらも相当ビビってるはずだ。」

「へー、やるじゃんマイク。たった二日であんな凶悪な罠を大量に作るなんて意外な特技だね。」

マイクはティナと一緒にトラップを作ってたんだけど、あの二人って本当に手先が器用で羨ましいよ。談笑しながらあっという間に作っちゃうんだもん、どうなってんの?

「ぶへっ・・・おいリーファ、俺はレンジャーなの!ひょっとして忘れてるのか?」

「ごめん、レンジャーって言われても何する人なのかあんまりピンと来てなくて・・・。」

「まぁ華々しさはねーって自覚はあるんだ。まぁこういうことが俺の得意分野ってことだけでも今日覚えて帰ってね。」

「は~い」

とかやってるとまたまた叫び声が聞こえてきた。

「ぐはぁっ!」

「あっ、またかかった。え?でもあそこは・・・さっき魔術掃射してたところだよ!何で?」

声の方向を見るとやっぱりのたうち回っているねぇ。でもあんなにほじくり返されてんのにどういうこった?ここは私の冴え渡る推理で・・・いや、わからん。

「なんせ俺の血と汗の結晶だからなぁ。この罠の仕組みはリーファでも教えられねーんだなー。」

「そうなんだ~、手の内は明かさないってやつだね。ふぅ~、冒険者ぁ!」

まぁ詳しく説明されても理解できない自信が、このリーファ=クルーンには・・・あるっ!敢えて大げさに言ってみたけど、ああいう複雑な仕掛けを見てても何もピンとくるものが無いのさ。

「そうそうそういうこと。でもアイツらは進軍経路をあらかじめ偵察して安全を確かめる斥候なんだが、まるでなっちゃいねーなぁ。こういう場面にこそ罠の設置や解除、探知を行えるレンジャーが活きるんだよ。意外に大事なんだぜ、俺やティナみたいな存在ってばさぁ。」

「確かに。マイク隊長、何であの人たちの中にレンジャーやシーフっていないの?帝国の軍隊なんでしょ?」

「良い質問だぜ、リーファ隊員。一言で言やぁお貴族さまたちはレンジャーやシーフなんて眼中にねーのさ。俺たちみたいなのをハナから見下していて、その重要性を理解できないんだ。」

そもそもあんな適当な罠探知で見つけられるほど甘かねーのよ。圧倒的な兵力差だから自分たちが負けるなんて夢にも思っちゃいないんだろうぜ。何一つ真剣味の感じられない形だけの斥候部隊だ。マジでナメてかかってるな。

「ふーん、あんな目に会ってるのに頭固いんだね。」

「だからこそどんどん痛い目に会ってもらおう。なんちゃって斥候のアイツらが見逃した罠に後ろの本隊も引っかかってくれるはずだ。レンジャーの恐ろしさを骨の髄まで味あわせてやるぜ。」

「痛えーっ!」

「クソがぁ!もう一度辺りを魔術で掃射しろ!徹底的に・・・根こそぎだ、根こそぎにしろ」

「良いんですか隊長?これ以上やったら速やかな進軍に支障を来すことになりますよ?」

「たかが斥候ごときも満足にできんのかと馬鹿にされるなど私には我慢できん。お前らも目を凝らしてトラップを見つけ出せ!漫然と歩くなど、これは決して散歩ではないのだぞ!」

先ほど魔術掃射したにも関わらずトラップの餌食になるのを目撃した兵士たちに衝撃が走る。あまりの体たらくに斥候部隊長も怒鳴り散らさずにはいられなかったのだが・・・

「がっ、助けてー!」

「おのれぇ~・・・」

トラップにかかる度に大騒ぎの部隊は一向にセンダルタまで到着できずにいた。どうにも怪我人の処置が増えるばかりで進もうにも進まないのだ。そうかと言ってアンダシルヴァによる襲撃の気配も無い。何とも薄気味悪い状況だけが続いて、斥候部隊は気が触れそうになっていた。

その一方で彼らの様子を遠目に眺めているマイクに疑問符が浮かぶ。先ほどからどこをどう考えても絶好の襲撃場面にしか思えない。

「リーファに一つ聞いてもいいか?」

「なぁに~マイク?」

「まぁこうやって嫌がらせしてるんだが、リーファがアイツらを襲っちゃえば手っ取り早いんじゃねーの?」

俺が聞いてるのって、罠は相手を殺害するような手の込んだものじゃなくていいってんだ。でもさぁ、どうにもやってることが中途半端すぎると思うんだよ。一応これって戦争のはずなのに変じゃねえか?

「うん、私もそう思ったりするんだけどね~。」

「しねえの?」

「しないよ?帝国の軍隊を必ずセンダルタ城にぶつけないといけないんだってさ。」

「え、何だそりゃ?」

「あ、これ言っちゃいけないんだった!ここだけの秘密だよマイク。」

あぁ・・・秘密なんだ。そうか、おそらくはモーゼルト議長から何か指示されているってことなんだろうなぁ。そりゃ納得のスルー案件だ。

「何かよくわからんけど・・・秘密ってことな。了解!」
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