幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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敗者復活の道行き

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「結構登って来たけどまだこんなもんか・・・」

遠くに見えるワオルーペを一望しつつシンディーがボヤく。目線を前に戻すと山道は気の遠くなるほど先まで続いているように見えた。

「走るのキツネ!」

「無茶言うなよ、アタシを殺す気か?」

「早く追いつかないと逃げられるの!」

何かさっきからロードチャンセラーに急かされてばっかだぜ。一生懸命に先を急いでいるのはロードチャンセラーも知らないはずはねーし・・・一体どうしちまったんだ?

「んなこたぁわかってんだよ。でもスアレスたちのことだって昨日の話だってんだろ。これだって猛烈な追い上げだっつーの。ここまでどんだけぶっ飛ばして来たのか覚えてねーのか?」

ロミアとマリンは商人だけあって欲しい情報を何の苦も無くさらってくる。これだけ猛追できたのも彼女らの手助けがあってこその話だ。

しかし、それをもってしてもなおロードチャンセラーには焦らずにはいられない事情があった。

「それはそれ、もう済んだことなの。今も遠ざかってるのだけは間違いないの。」

むぅ~、せっかくリーファさまに居場所をリークしたのにここでグズグズしてたら下手をすると計画がポシャるの。ここは何としても・・・

「ん、何か動かなかったか?」

「何なのキツネ、ロードチャンセラーは今忙しいの」

「気のせいじゃねーな。ありゃ人だ、降りて来てる。」

シンディーの発見した遠くの人影は二つ、たしかにロードチャンセラーにもそれは確認できた。だがこんな寒い時期に山に入る人間にしてはヨロヨロと不自然な動きをしている。

「ムムム!いっちょ見て来るの。」

「おーい、アタシを置いてくな~・・・」

ロードチャンセラーは上り坂など存在しないかのように軽やかに飛び去ってしまった。

「くっ・・・はぁ、はぁ」

「しっかりしろ、町まではもうすぐだ。」

肩を貸している男は苦痛に顔を歪ませて片足を引きずっている相棒を励ましながら坂道を共に降っていた。だが自らも片腕を骨折しており、脂汗をにじませながら苦痛に耐えている。

「すまない・・・」

「人間」

仲間の苦労に対する申し訳なさから口をついて出た言葉にかぶせるように、何か別の言葉が発せられた。思わず男は相棒に確認する。

「いま何か言ったか?」

「いや、何も。だが俺にも聞こえたぞ。」

男たちは立ち止まり辺りを見渡す。だが声の届く範囲には何者の姿も確認できなかった。

「お前たちは見たことがあるの」

「誰だ!誰かいるのか?」

<ポンッ!>

立て続けに聞こえた声の方向に顔を向けると、派手な音とともに目の前に妖精が姿を現したではないか。これにはたまらず男も驚きの声を上げる。

「うわぁっ!」

「バトラーじゃないか!」

「誰がバトラーなのっ!」

「へ?」

妖精には見覚えがあるんだが、どうやらバトラーではないらしい。確かにグラムスの診療所で出会ったバトラーに似てはいるんだが・・・なんだか微妙に雰囲気が違うような

「あれ?・・・本当だ、よく見りゃ違うな。」

「あんな三下と一緒くたにされては迷惑千万ババババンなの。」

腕を組んでご機嫌ななめな様子だなぁ・・・何か地雷でも踏んじまったか?これ以上刺激しないためにも話題を変えねーと

「バトラーを知ってるってことは・・・リーファも近くにいるんだな?」

「ここにはまだいらっしゃらないの。それにしてもお前たち、ズタボロなの。」

防具の損傷具合からかんがみて、相当な勢いで叩きつけられたのが一目でわかる有様だ。下手をすると命を落としていても不思議はないのだろう。

「面目ない。こっ酷くやられちまってこのザマだ。」

「頼む、スアレスだけでも良い。折られた脚を治してやってくれねーか?」

「ロードチャンセラーの言うことを聞くなら治してやっても良いの。」

スアレスも思いつめた様子で目の前の妖精にすがる。

「頼む、ロートルマンパワー。何度ぶちのめされても大事な仲間を救い出さなきゃいけないんだ。」

「・・・ロードチャンセラーなの。だがその意気や良し。キラめけ、ハチミツの輝きぃっ!」

スアレスとマイクの周囲を光の粒子が包み込むと次の瞬間、強烈な閃光がほとばしる。

「くっ!・・・ん?まったく痛くないな。」

「お、俺も治してくれたのか?重症であるほど治癒に激痛が伴うもんじゃなかったっけ?」

あまりの眩しさに閉じていた目を開くと、不思議なことに骨折など無かったかのように元通りになっていた。今までリーファに施された治療でも重傷であればある程度の痛みは伴うはずだったのだが、どういうわけか全く何も感じないではないか。

「それが偉大なるロードチャンセラーの力なの。ひれ伏せ人間、そして讃えよなの。」

「何かわからんが、ここはひれ伏しておこうぜスアレス。」

「そうだなマイク。」

「「ははぁ~」」

「ぬわぁ~っはっは」

シンディーがようやくたどり着くとそこにはロードチャンセラーにひれ伏している二人の男たちが並んでいた。

「何やってんだお前ら?」

***

「おいおい、A級ってそんなケタ違いなのかよ?」

スアレスとマイクに合流したシンディーは山道を進みながら彼らの戦闘について状況を聞いていた。どうにもグレンの言う通り、A級冒険者は桁違いの強さを誇っているらしい。

「あぁ・・・とても真正面からぶつかって勝てる相手じゃなかった。」

スアレスとマイクは苦々しい面持ちで話を続けた。
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