幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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崩壊までのタイムリミット

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「ジェゼーモフが支えている間に雪をどうにかするほかないだろうな。」

「どこか穴を開けてそこから手を付けていくしか」

「う~ん、それがね~」

スアレスとマイクが地上帰還へ向けて相談していると、その内容を耳にしたジェゼーモフが申し訳なさそうに割って入った。

「何か問題なの?」

「この泥岩要塞は細部のコントロールは難しいの。」

「ん?・・・うん。」

どういう事なんだろう。いまいち何を言っているのかわからん。あれじゃあ質問したティナも生返事にならざるを得ないよなぁ。

微妙な空気が漂っていることに気が付いたジェゼーモフが言葉を継ぐ。

「まぁ、そんなこと言われても想像つかないわよね。えーと・・・つまりは開口部を設けた段階で周囲の重さに耐えきれず、まるごと崩れる怖れがあるってことね。」

「そりゃマズいな。」

「もちろん私だって崩壊させるつもりなんて無いのよ。高耐圧下の危険なメタモルフォーゼだけど、アンタたちがやるってんなら私もいっちょ腹をくくるわ。」

「他に方法っても上に上に掘り進めるしかねーし・・・いや、待てよ?」

何かいい考えが思いついたようだ。みんなの視線が一斉にシンディーに集まる。できればそれが起死回生の一手であってほしい。

「どうしたシンディー?」

「そうだよ下だ。土魔術が使えるんだったらアイツら西方審問騎士団みたくトンネルを掘っちまえば良いじゃねえか!」

「そうか。それだ!」

アイツらって誰のことなんでしょ?まぁそんなことより確認しておかなきゃならないことがあるのよね。

「ちょっと良いかしら?」

「どうしたおっさん?」

「ぶっ飛ばすぞ小娘。まさかそのトンネル作るのって私じゃないわよね?」

「あっはっはっは、何言ってやがんだ」

おお!シンディーにはちゃんと考えがあるみたいだ。何だ~、頼りになるじゃないか~。

「私じゃないのね、安心した。」

「そのまさかだ。土魔術を使えるのはアンタだけだろ。」

「バカ言ってんじゃないわよ、おブス!土魔術だからって何でもできるわけないじゃないの。」

「え、できないの?」

まぁそんなもんか。期待?いや別に最初っからシンディーになんて期待してなかったしー。

「同じ土魔術でも私は操作系統だから。採掘を生業として来たドワーフでもあるまいし、私が掘削系統を行使しても数ヤードで魔力が枯渇するわ。アンタも魔術師なら属性系統論の魔力効率式くらい知ってるでしょ。」

ジェゼーモフの言う通り、土魔術を使えると言って無理やり系統の違う魔術を行使したら魔力を無駄にしてしまう。西方審問騎士団もじつのところ何十人も使いつぶしてあの地下トンネルを強引に通したのだった。

「あー・・・あれね。はいはい」

「あの様子だと絶対知らないんだよ。」

私は魔術を使えないからわからんけど、後で聞いて見よう。ん?よくよく考えてみると幻術も魔力を使ってるのかな。

「それに土魔術って言うなら、泥岩武闘を貫通して攻撃した坊やも扱えるでしょうが。あれは間違いなく掘削系統に違いないわ。」

思いがけず話を振られたマイクはあわててジェゼーモフの勘違いに対して弁明する。

「アレは知り合いのドワーフの協力を得てこさえた呪符がたまたま2枚残ってただけで、俺自身は土魔術は使えないんだ。」

ジェゼーモフへの一撃が通ったことを確認したマイクは彼を戦闘不能にするための一枚を残していた。ジェゼーモフの注意を引きつつ隙あらば行使する機をうかがっていたため、すぐにポケットから取り出して見せる。もう戦闘は終わったので今さら隠す必要もない。

「雪で屋根が落ちてくる、Iはshock!」

「こんな時にポエム?余裕だな。」

「こんな調子じゃ現実逃避もしたくなるわよ。アビムリンデとチェンジで。もうアンタたちじゃ話になんないわ。」

「面目ねえ。」

「失敬な。ここはイチかバチか大魔術師シンディーちゃんが雪を一挙に溶かして見るか。」

「呼吸ができなくなるのが先か雪解け水に溺れるのが先かの二択なんだよ~。」

「シャレにならん。」

上に積もっている雪がすぐさま襲いかかって崩壊も始まるから開けたら最期、開けなくとも結果は同じ。選択肢があって無いようなもんじゃん。何じゃコリャ?

「リーファさま」

ん?なぁにバトラー。

「押し寄せて来る雪はもうこの際、取り込んではいかがでしょう?」

取り込む・・・そうか!

「ねえ、たとえばなんだけど」

「何か策があるのかリーファ?」

「うん。私の空間収納を使えば」

「え?ちょっと待ちなさい。」

空間収納という言葉に何か引っかかることでもあるのかジェゼーモフが聞きとがめる。リーファは心底いやそうな雰囲気で口をとがらせる。

「え~何?何か気に入らないことでも?」

「そんな露骨に嫌な顔されると傷ついちゃうわ~、イヤよイヤイヤ。」

「だってみんなで協力しようって時に姿も見せないなんて信用できないし~」

「んまぁ、そうねぇ。じゃあこれで良いかしら?」

すると天井が開いた瞬間に背の高い男?が降り立った。言葉づかいからして異様だったけど、女装してるんだね。

「ふ~ん。言われてしぶしぶ出てきたってわけ?でもリアンを誘拐したヤツだし、そもそも信用なんてできっこ」

「うわ~ん、許して~ん!ねえお願~い、私を信じて~」

「ウギャー、頬ずりヤメレー!ギャ~、ジョリジョリするぅ」

忘れてた・・・コイツAランクだってこと。近接戦闘じゃ手も足も出ないよ。速い上に力も強い。

リーファはあっという間にジェゼーモフにとっつかまった挙句、なすすべなくジェゼーモフのやりたい放題にされてしまった。

すん

「私の魅力でメロメロのメロにしてやったわ。サキュバスも裸足で逃げ出すとはこのことよね。この私にとって美とはコミュニケーション手段の一つにすぎない。そう、美しいとは」

何やらジェゼーモフが自信たっぷりに美について講釈をたれはじめている。

「グロッキーなリーファなんてはじめて見たんだよ。」

「なかなかにおぞましいな。さすがのシンディーちゃんもリーファへの深い同情を禁じ得ない。ぷぎゃー」

「リーファは気の毒だが何にしても、これ以上ジェゼーモフをイビるのは得策じゃない。」

あぁ・・・精神力をジョリジョリ削られた気がする。とりあえず私を助けなかったお前らは後でミーティングな。

「あぁ、チクショー。時間が無いのにちっとも話が進まない。」

「話の腰を折っちゃってごめんなさい。でも私が雪の重みを支えているからわかるんだけど、ちょっとやそっとの量じゃないのよ?空間収納に生命を預けるって言っているのと同じじゃない。」

「そうだよ、私はそう言ったんだ。」

私の言葉にジェゼーモフが絶句している。困りはてているのは何となくわかるが、いったい何故こんなにもうろたえているのか私にはさっぱりわからん。

「え?いや、あのね。う~ん~・・・たとえばアナタのお家よりもっともーっと、こぉーんなに大きーい量の雪がのっかっている状態な」

まるで幼い子供にもわかるように両腕をを目いっぱい大きく拡げて説明するジェゼーモフに、リーファがブチキレる。

「わかっとるわー!小っこいからって馬鹿にすんなっ。アイツ、私をアホの子あつかいしとるぞ。お前らも何か言え!」

「コホン、では」

「待て待てシンディー。ここは多分・・・というか絶対お前じゃない。」

それっぽくせき払いをして何かを言おうとしたシンディーの肩をスアレスがつかんで制止する。

「どうせロクでもないことを言って紛糾させる気マンマンだったんだよ~」

「たしかにジェゼーモフが耳を疑うのも無理はない。」

イイぞマイク。私のためにガツンと言ってやれ。

「こういう事を他人に漏らすのは絶対にやっちゃならないんだが、リーファの空間収納はそんじょそこらのモノとはケタ違いにデカいんだ。俺たちは生命を預けるに申し分ないと思っている。」

上出来だ。マイクは特別にお説教を短くしてやろう。

「本当にアンタたちもそうなの?」

そうは言ってもにわかに信じられるものでもない。ジェゼーモフはスアレスたちにも確認をとった。

「ああ!」

「もちろんなんだよ~。」

「リーファがそう言ってんだ。アタシもイケると思うね。」

「そう・・・なら私もリーファの空間収納に賭けて見るわ!」

まぁしょうがない、他のヤツらもお説教を短くしてやるか。そんでもって、なんとも聞き捨てならないことがある。そう、お前だ。

「馴れ馴れしく名前で呼ばないでね。そもそも一時休戦ってだけなん」

「うわ~ん、私も友だちの輪ん中に入れて~ん!リーファお願い~ん、え~ん。え~んえ~んやこ~ら」

「ウギャー、ジョリジョリやめれー!」

「リーファも学ばんやっちゃな。ジェゼーモフをイビるのはやめとけ。」

遠巻きに助けに入らない彼らを見て、お説教の時間を増やそうと固く心に誓ったリーファだった。
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