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線路は故郷へ続かない
第五話「知らない親友」
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見慣れた街並みを歩きながら、私は大きく息を吸い込んだ。
ほんの少し前まで、心臓を鷲掴みにされるような恐怖を感じていたのが嘘のようだ。駅の向こう側に広がっていた異国の光景は、きっと何かの見間違いだったのだろう。そうに違いない。
すっかり日も暮れた道を、家路へと急ぐ。知っている道、知っている景色。それだけで、涙が出そうなほど安心した。
あと少しで家に帰れる。温かいご飯を食べて、お風呂に入って、ふかふかのベッドで眠るんだ。そうすればきっと、今日の奇妙な出来事も全て忘れてしまえる。
そんなことを考えていた、その時だった。
前方から歩いてくる、見慣れた後ろ姿に、私の足がぴたりと止まった。
肩にかかるくらいの、柔らかな髪。地元の中学で指定されていた、今はもう着ていないはずの懐かしいジャージ。
間違えるはずがない。
「――彩花!」
気づけば私は、その名前を叫びながら駆け出していた。
佐々木彩花。中学時代、クラスが離れても毎日一緒に帰っていた、私の親友だ。
高校は、私が都内の私立に進学し、彩花はご両親の都合で中学卒業と同時に地方へ引っ越してしまった。それ以来、一度も会えていなかった。
そんな彼女が、どうしてここに?
喜びと混乱で胸がいっぱいになりながら、私は彩花の腕を掴もうと手を伸ばした。聞きたいことが山ほどある。今日の出来事を、この不可解な状況を、全部彼女に聞いてほしかった。
「彩花! ねぇ、一体どうなってるの? ていうか、こっちに戻ってきてたの!?」
しかし、私の伸ばした手は、空を切った。
彩花は、私の声に驚いたように振り返ると、咄嗟に一歩後ろへ下がり、私の手を避けたのだ。
「え……?」
予想外の反応に、言葉が詰まる。
彩花は、怪訝そうな顔で私をじっと見ていた。その瞳には、親友との再会を喜ぶ色はどこにもない。あるのは、見知らぬ人間に突然話しかけられたことに対する、戸惑いと警戒心だけだった。
「……あの」
やがて、彼女はおずおずと口を開いた。
「どちら様、ですか?」
その一言が、私の頭に鈍器で殴られたような衝撃を与えた。
何を、言っているの? 彩花が、私を忘れるはずがない。冗談……? でも、そんな冗談を言うような子じゃない。
「な、何言ってるの……? 私だよ、美緒だよ! 中学で、毎日一緒にいたじゃん!」
必死の形相で訴える私に、彩花はますます困惑した表情を浮かべるだけだった。
「人違いでは……ありませんか? すみませんが、あなたのことを知りません」
その丁寧で、他人行儀な言葉が、私の最後の希望を粉々に打ち砕いた。
駅の出口が三つに分かれていたのも、腕で開く改札も、全てが現実だったのだ。
そして、目の前にいる彼女は、私の知っている「彩花」ではない。
この世界に生きる、私を知らない、ただの他人なのだ。
親友に拒絶されたという事実が、異世界に迷い込んだという恐怖以上に、私の心を深く抉った。
もう、どこにも私の居場所なんてない。
私はその場に立ち尽くしたまま、声もなく、ただ震えることしかできなかった。
ほんの少し前まで、心臓を鷲掴みにされるような恐怖を感じていたのが嘘のようだ。駅の向こう側に広がっていた異国の光景は、きっと何かの見間違いだったのだろう。そうに違いない。
すっかり日も暮れた道を、家路へと急ぐ。知っている道、知っている景色。それだけで、涙が出そうなほど安心した。
あと少しで家に帰れる。温かいご飯を食べて、お風呂に入って、ふかふかのベッドで眠るんだ。そうすればきっと、今日の奇妙な出来事も全て忘れてしまえる。
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間違えるはずがない。
「――彩花!」
気づけば私は、その名前を叫びながら駆け出していた。
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「彩花! ねぇ、一体どうなってるの? ていうか、こっちに戻ってきてたの!?」
しかし、私の伸ばした手は、空を切った。
彩花は、私の声に驚いたように振り返ると、咄嗟に一歩後ろへ下がり、私の手を避けたのだ。
「え……?」
予想外の反応に、言葉が詰まる。
彩花は、怪訝そうな顔で私をじっと見ていた。その瞳には、親友との再会を喜ぶ色はどこにもない。あるのは、見知らぬ人間に突然話しかけられたことに対する、戸惑いと警戒心だけだった。
「……あの」
やがて、彼女はおずおずと口を開いた。
「どちら様、ですか?」
その一言が、私の頭に鈍器で殴られたような衝撃を与えた。
何を、言っているの? 彩花が、私を忘れるはずがない。冗談……? でも、そんな冗談を言うような子じゃない。
「な、何言ってるの……? 私だよ、美緒だよ! 中学で、毎日一緒にいたじゃん!」
必死の形相で訴える私に、彩花はますます困惑した表情を浮かべるだけだった。
「人違いでは……ありませんか? すみませんが、あなたのことを知りません」
その丁寧で、他人行儀な言葉が、私の最後の希望を粉々に打ち砕いた。
駅の出口が三つに分かれていたのも、腕で開く改札も、全てが現実だったのだ。
そして、目の前にいる彼女は、私の知っている「彩花」ではない。
この世界に生きる、私を知らない、ただの他人なのだ。
親友に拒絶されたという事実が、異世界に迷い込んだという恐怖以上に、私の心を深く抉った。
もう、どこにも私の居場所なんてない。
私はその場に立ち尽くしたまま、声もなく、ただ震えることしかできなかった。
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