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第二章:路地裏の邂逅
第十五話:苦しい設計図
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アルフレッド先生とロンド先生から訓練を禁じられ、私は数日間の休息をとることになった。 動かない右肩、そして師たちの心配の眼差し。その二つが、鉛のように重く私の心にのしかかる。
清楽亭の自室。その静寂が、かえって私の焦りを掻き立てた。 休んでいる暇などないのに。壁は、まだこんなにも高いのに。
「ソラちゃん、お昼、食べられそう?」
ドアの隙間から、ミーアさんが心配そうに顔を覗かせる。
「…はい、ありがとうございます」
笑顔を作ろうとしたが、上手く笑えているかは分からなかった。
師たちの目は誤魔化せない。昼間の訓練も、夜の授業もなくなった今、私がこの部屋でできることは限られている。 しかし、それは同時に、誰にも邪魔されずに私の「実験」に没頭できる時間を与えられたということでもあった。
夜、ミーアさんが眠りについたのを確認すると、私はベッドから起き上がり、机の引き出しの奥から、例の解剖図を取り出した。
前回、左腕に魔力を流し込んだ時の、身を灼くような激痛と強烈な拒絶反応。 あれは、私の身体が本来持つ生命維持の本能だ。ならば、その本能を騙す必要がある。
私はロンド先生に教わった治癒魔法の理論を応用することにした。 傷ついた細胞が自らを修復しようとする流れに、魔力をそっと寄り添わせる。あれと同じだ。 変化させるのではなく、「これが本来あるべき姿なのだ」と、細胞の一つ一つに語りかけ、納得させるように、ゆっくりと魔力を浸透させていく。
右肩はまだ動かせない。私は再び、左腕に意識を集中させた。 脳内に男性の腕の設計図を完璧に描き出し、自らの骨格と筋肉の配置を、寸分の狂いなく重ね合わせる。
「…っ…く…!」
やはり、激痛が走る。 けれど、前回のような身体そのものが引き裂かれるような拒絶反応ではない。筋肉の繊維一本一本が、無理やり引き伸ばされていくような、より具体的で、生々しい痛み。
私は歯を食いしばり、痛覚緩和の魔法を併用しながら、その作業を続けた。 ほんの数秒、左腕の骨密度が僅かに増し、筋肉の質が変わる。その確かな手応えを感じ取ると、私は限界が来る前にすぐに術を解いた。
術後の疲労感は凄まじく、左腕は熱を持ってジンジンと痺れている。 けれど、鏡に映る自分の顔は、不思議と嬉しそうな顔をしていた。
痛い。苦しい。 でも、私は確かに、前に進んでいる。
それからの日々、私はこの地味で、狂気じみた作業を毎夜繰り返した。 数秒だった変化の維持時間は、数十秒になり、やがて数分になった。 肩の怪我が癒え、アルフレッド先生との基礎訓練が再開される頃には、私は左腕だけなら、完全に男性のものへと再構築し、それを数分間維持できるようになっていた。
もちろん、そのことは誰にも言っていない。 アルフレッド先生は、私の動きに以前のような精彩が戻ったことに安堵したようだったが、その裏で私がどんな領域に足を踏み入れているかなど、知る由もなかった。
私の孤独な実験は、次の段階へと移行する。 腕一本ではない。全身を、同時に。 その先に待つのが栄光か破滅か、私自身にも分からなかった。
清楽亭の自室。その静寂が、かえって私の焦りを掻き立てた。 休んでいる暇などないのに。壁は、まだこんなにも高いのに。
「ソラちゃん、お昼、食べられそう?」
ドアの隙間から、ミーアさんが心配そうに顔を覗かせる。
「…はい、ありがとうございます」
笑顔を作ろうとしたが、上手く笑えているかは分からなかった。
師たちの目は誤魔化せない。昼間の訓練も、夜の授業もなくなった今、私がこの部屋でできることは限られている。 しかし、それは同時に、誰にも邪魔されずに私の「実験」に没頭できる時間を与えられたということでもあった。
夜、ミーアさんが眠りについたのを確認すると、私はベッドから起き上がり、机の引き出しの奥から、例の解剖図を取り出した。
前回、左腕に魔力を流し込んだ時の、身を灼くような激痛と強烈な拒絶反応。 あれは、私の身体が本来持つ生命維持の本能だ。ならば、その本能を騙す必要がある。
私はロンド先生に教わった治癒魔法の理論を応用することにした。 傷ついた細胞が自らを修復しようとする流れに、魔力をそっと寄り添わせる。あれと同じだ。 変化させるのではなく、「これが本来あるべき姿なのだ」と、細胞の一つ一つに語りかけ、納得させるように、ゆっくりと魔力を浸透させていく。
右肩はまだ動かせない。私は再び、左腕に意識を集中させた。 脳内に男性の腕の設計図を完璧に描き出し、自らの骨格と筋肉の配置を、寸分の狂いなく重ね合わせる。
「…っ…く…!」
やはり、激痛が走る。 けれど、前回のような身体そのものが引き裂かれるような拒絶反応ではない。筋肉の繊維一本一本が、無理やり引き伸ばされていくような、より具体的で、生々しい痛み。
私は歯を食いしばり、痛覚緩和の魔法を併用しながら、その作業を続けた。 ほんの数秒、左腕の骨密度が僅かに増し、筋肉の質が変わる。その確かな手応えを感じ取ると、私は限界が来る前にすぐに術を解いた。
術後の疲労感は凄まじく、左腕は熱を持ってジンジンと痺れている。 けれど、鏡に映る自分の顔は、不思議と嬉しそうな顔をしていた。
痛い。苦しい。 でも、私は確かに、前に進んでいる。
それからの日々、私はこの地味で、狂気じみた作業を毎夜繰り返した。 数秒だった変化の維持時間は、数十秒になり、やがて数分になった。 肩の怪我が癒え、アルフレッド先生との基礎訓練が再開される頃には、私は左腕だけなら、完全に男性のものへと再構築し、それを数分間維持できるようになっていた。
もちろん、そのことは誰にも言っていない。 アルフレッド先生は、私の動きに以前のような精彩が戻ったことに安堵したようだったが、その裏で私がどんな領域に足を踏み入れているかなど、知る由もなかった。
私の孤独な実験は、次の段階へと移行する。 腕一本ではない。全身を、同時に。 その先に待つのが栄光か破滅か、私自身にも分からなかった。
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