踊り子転生。中の人は喪女で腐女子で廃ゲーマー?

氷狐

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プロローグ

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 黒い壁面に金や赤のやや禍々しい装飾の施された、豪奢で重厚だが全体的に見る者全てに畏怖の念を抱かせる薄暗い玉座の間。
 夥しい数の魔物の骸が散乱するその中心部に、魔王と対峙する四人パーティの姿があった。
 ひと目見るだけで、秘めたる力とその性能の高さが解る超絶レア装備で身を固めたパーティメンバー。対する魔王は、もはや満身創痍だ。

「これで決める! 聖光斬波オーラブレードォォっ!」

 パーティの先頭に立つ戦士風の男が両手剣を頭上に振りかぶると辺りを眩く白い光が埋め尽くし、剣を振り下ろすのに合わせて光は巨大な斬撃となって魔王を切り裂いた。

『わ、我が人如きに……ぐぅ、がああぁぁぁぁーーっ!』

 魔王の身体の中から無数の光がその身を食い破るように輝き出し次いで激しい爆発のエフェクトを残すと、魔王は完全に消え去った。
 魔王がいた空間に花火のようなエフェクトと同時に『STAGE CLEAR』の文字が浮かび上がる。

「ミヤちゃん、タイムはっ?」
「もうっ名前!だからアランだって言って……まあいいわ。残念、10分03秒よ」
「だあぁぁぁっ!10分の壁厚いぃぃ」

 先ほど魔王に止めを刺した戦士がややコミカルな動きで悔しがり悶える。

「いや、団長感覚おかしくなってるっすけど、魔王城エリア攻略は普通一時間でも厳しいかんね」

 そう言ってユラユラと意味不明な動きをするのは様々な暗器を使い熟すハイアサシンのライゾウ。先ほど攻略タイムを読み上げたアランは魔法使いの最上級職、大賢者である。

「もう一回!ねっ、もう一回しよ!」
「次で10回目よ?……って言っても無駄ね」
「にゃは!団長は言い出したらクリアするまで止めないかんね。それに付き合える私らもヤバめな廃ゲーマーだけど」

 そう言って四人の姿は鈴の音のような効果音と共に掻き消えた。再び魔王城攻略に挑むため城門前へと転移したのだ。

◆◆◆

 二時間後、先ほどのパーティの姿は魔王城エリア直前のセーフティエリアの中にあった。
 
「もう、次で本当にラストだからね!」
「わかってるって、だって後一秒だったじゃん!もうイケたも同然!」
「団長テンション変わんないっすね~。言っとくけどもう夜明けかけてんからね」

 チャットでの会話に反して、その場にいるのは長身で屈強な男性達。
 ここは、VRMMO『レジェンダリィ バトル オンライン』の中であり、彼らは全て彼女達が作って育て上げたキャラなのだ。
 彼女達は、このゲーム内で圧倒的な戦力と狂信的な信者を持つトップクラン『天下☆腐武』の主メンバー。
 団長の聖騎士ジーク、副団長の大賢者アラン、ハイアサシンのライゾウのキャラ構成は何れ劣らぬイケメン揃いであった。もう察しているだろうがこのクラン、廃ゲーマーの腐女子が集まり好みのイケメンをキャラメイクしてそのイケメン同士の絡みを見ながら楽しむという……やや残念な集団なのだ。

「まあ、ここまでの縛りプレイじゃなきゃ楽勝なんっすけどね」
「そこがいいんじゃん!最大パーティで十分切りなんて楽勝すぎるしぃ」

 再度補足するが、この魔王城エリアの通常クリア時間は上級者が最大数の六人・・パーティで挑んで大体一時間を切るかどうかである。

「そこに四人パーティ、しかも一人はついてくるだけのサブ垢ですもんね……」

 アランがそう呟くと、その場の全員の視線がパーティ最後の一人に注がれた。
 そこにいたのはこのクラン唯一の女性キャラ『アヤメ』。扇情的で露出の多い衣装や装備は、このイケメン揃いのパーティに於いて完全に異質であり、浮いている。

「ええ、いいじゃんいいじゃんアヤメっち。なんかこう姫は俺達が守るぜ!的な?」
「ま、まあ王道だけど、クランの理念からすれば些か邪道よ」
「そーなんだけどさー、いいじゃんぶーぶー!」
「にゃは、団長らしいっすね。……っと、そういえばそのアヤメちゃんさっきカンストしてたっすよ?」
「あ、マジ?あちゃー、これで踊り子系統の全職コンプだぁ、どうすんべか~」
「はあ、縛りプレイ用の戦闘無参加。ただ『トレース』でついて来てただけのキャラがカンストしちゃうなんて、私達も大概ね……」
「それでいて暇潰しに隠れを含めたイベント全て消化して隠れから派生までの系統全職コンプ。さらには装備だって考え得る最高のものだってんだから……そんじょそこらの上級プレイヤーならまず負けないかんね、このコ」
「ふーん、そうなんだ」
「はあ、貴女にとってはついてくるアイテムボックス程度の興味なのね。アヤメちゃんに何だか同情しちゃうわ」

「そんなことより、行くよラストアタック!」
「はいはい」
「これで最後にして眠りたいっす」

 そう言って彼らと彼女の姿は、再び魔王城エリアへと消えて行った……。

◆◆◆

「ふわぁ~ぁぁ、もう外明るいんだ」

 団長ジークの所謂中の人『中城鈴音』。
 今年で二十九歳になる彼女はゲーム用のヘッドギアを外してカーテン越しに射し込む陽の光に眩しそうに目を細めている。女性の部屋とは思えぬほどに散らかり放題の部屋。ボサボサの髪にいつから着たままなのかわからないヨレヨレのスウェット上下。まさに絵に描いたような『喪女』である。

「そう言えば、アヤメっちカンストって言ってたな。どうしよ?」

 普通であればログアウトしたらば食事や風呂などへ向かおうというものだろう。だが、彼女の残念なゲーム脳は、たった今仲間と別れてログアウトしたばかりだというのにそのゲームのことしか考えられないようだ。
 ゴミの中から食べかけのパンを拾って咀嚼し、キャップが開いたままのペットボトルからすっかりぬるくなったジュースを飲み干すと、再びヘッドギアを装着してログインした。

「やっぱりカンストか。これ以上は装備もイベントも無さそうだなー」

 サブ垢、所謂サブのアカウントであるアヤメとしてログインした鈴音は、ブツブツと呟きながらアヤメの状態や装備を確認する。彼女が操作するたびにアヤメが様々な踊り子の派生職へと目まぐるしく変化し、その装備も専用装備へと次々換装されていく。

「んんー、やり尽くしちゃった感があるね。ミヤちゃんが言うように天下☆腐武うちじゃあ完全に浮いてるし……やっぱ消しちゃうかな」

 彼女にとってのサブ垢は、ネタキャラや職種、イベント等のデータ検証などの用途でしかなく、これまでも様々なキャラを育てては消去してきた。一般プレイヤーからすれば勿体無い話だが、彼女ほどやり込んだ廃ゲーマーになればキャラのカンストなどそう珍しくも無い。今回は各エリアの縛りを付けての最短突破という遊びの中でネタとして、これまで検証した事のない女性キャラ限定職の踊り子を作ってみた。ただそれだけなのだ。

「じゃあ、ポチッとな」

 呆気ないほど簡単にキャラの消去を決めた彼女は、何の迷いもなく『本当に消去しますか?』の問いに『はい』を押した……。

◆◆◆

『……次のニュースです。市内で隣の部屋から異臭がするとの通報があり警察が駆けつけたところ、室内で女性が亡くなっているのが発見されました。亡くなったのは中城鈴音さん二十九歳、死因は脳梗塞で死後約二週間が経過していました。オンラインゲーム中に亡くなったものと見られており室内ではゲームの電源が入ったままになっていたそうです。高性能なVR機器の普及に伴い、こういった現実内での症状に対してゲーム内を現実と認識している脳による判断の遅れが社会問題と…………』
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