3 / 26
第二話
しおりを挟む
オタマジャクシになって、どれくらいの時間が経ったのだろう。
人間だった時の感覚だと、すでに半日ほど経過しているはずなのだが、何かがおかしい。
カエルは水辺や池などの水の豊富な場所に産卵するはず。
だってオタマジャクシの俺たちは、エラ呼吸だしね。土の中とかに産まれたら、すぐに窒息して死んじゃうわけさ。
……というかすでに息苦しい。しかもめちゃくちゃお腹が空いた。
みんなが食べてるのを真似て、俺たちが産まれてきたらしい卵の残骸みたいなゼリー状のを食べたけど、全然足りない。
……だいたい俺は何を食べるんだ? 藻とか水草……いや、そもそもカエルって一応肉食……ジュル。
ハッ! いかんいかん。
カエルが肉食であることを思い出すと、激しい空腹にも刺激されて、周りのオタマジャクシが美味しそうだという感情が沸き上がる。さすがに共食いなんてと、人間だった頃の倫理観で自分を抑えたのだが、他の連中は本能さんに忠実だったらしく……。
いてぇっ!……てめえ、何てことしやがる。
考えることは皆同じだったのだろう……ぬるぬるしたオタマジャクシ達に押されたり、ぶつかられるのはずっとなので、その辺の感覚は麻痺してきていて痛いとは感じないのだが、突然尾びれにそれとは異なる痛みが走る。
身体をひねって見てみれば……おいおい、一匹かじりついてやがるよ。
……このまま喰われるなんて冗談じゃねえ!先に手を……いや、口か。まあいい。
仕掛けて来たのはそっちだからな。覚悟してもらうぜ俺の餌共!
自分が喰われるという人間の時にはあり得なかった状況が自らに襲いかかってきたことで、俺の中の倫理観さんがそっと目を閉じる。
俺は身体を懸命にくねらせて尾びれの一部をちぎって脱出。追撃してきた個体の目を目掛けて尾びれを振るい、隙を見せたそいつの腹目掛けて喰らいついた。
産まれたての柔らかい皮膚はすぐに破け、渦巻き状に収まっていた内臓がドプリと流れ出る。躊躇うことなくそれを喰い、そのままその身体の内側に潜り込んで中からそいつを食べ尽くした。
……美味いかって? いや、味覚がないのかそれはよくわからないな。だが、快感とも言える満足感が全身を駆け巡ったのは確かだ。これはいい! もっとだ、もっと欲しいぃぃっ!
『エクストラスキル大食漢を獲得しました』
ピコンという間の抜けた通知音に続いて、無機質な女性の声がした。まるでゲームみたいだと感じたのも束の間、心の底から沸き上がってくる飢餓感に襲われ、たった今自分と同じ大きさの獲物を食べたばかりだというのに腹が減って腹が減って、空腹で気が狂いそうだ。
……お前らも喰わせろぉぉぉぉっ!
そんな欲望のおもむくままに、すぐ近くの個体に喰らいついたところで、俺は正気を失った……。
◆◇
えっと、なんだ。……その、何かすみません。
さっきの謎のアナウンスも無関係とは思えないが、ともかく我に戻った俺は重なりあった同族の亡骸の山の頂きにいた。
周囲に動く者がいない以上、これをやらかしたのは俺で間違いないだろう。
文字通り、喰い散らかされた亡骸はズタズタでまともな原型を留めた者は一匹もいない。しかし、満腹感はあるのだが、これだけの量を食べて腹が異常に膨らんだりしていないのはおかしな話だ。これもさっきのスキルとかが関係してるのかな……。
ん、あれは……。
幸運だったとしか言いようがない。
高く積み上げた亡骸のおかげで遠くが見え、自分の置かれている状況がやっとわかったのだ。
どうやら俺は、沼地が少し干上がったために切り離されてしまった小さな水溜まりで産まれたらしい。だから仲間たちもそこから離れられず、結果息苦しさと空腹から共食いが始まったというわけだ。こうして見れば、ほんの少し我慢して移動すれば沼地の本体に辿り着けるはずだったのに、今は俺の腹の中か……南無……。
じゃあ、気を取り直して……よいしょっと!
俺は身体をくねらせ、反動をつけて亡骸の山の斜面を勢いよく下り始めた。目標は目の前の沼地、適度に湿った泥もよく滑る滑る。そして……
ゴォォォール!
両手を上げて歓喜を表したいが、そんなの生えて無いので心の中でそう叫んでおくことにする。
とにかく俺は、こうして何とか沼地に到着することに成功したのだった。やったね。
人間だった時の感覚だと、すでに半日ほど経過しているはずなのだが、何かがおかしい。
カエルは水辺や池などの水の豊富な場所に産卵するはず。
だってオタマジャクシの俺たちは、エラ呼吸だしね。土の中とかに産まれたら、すぐに窒息して死んじゃうわけさ。
……というかすでに息苦しい。しかもめちゃくちゃお腹が空いた。
みんなが食べてるのを真似て、俺たちが産まれてきたらしい卵の残骸みたいなゼリー状のを食べたけど、全然足りない。
……だいたい俺は何を食べるんだ? 藻とか水草……いや、そもそもカエルって一応肉食……ジュル。
ハッ! いかんいかん。
カエルが肉食であることを思い出すと、激しい空腹にも刺激されて、周りのオタマジャクシが美味しそうだという感情が沸き上がる。さすがに共食いなんてと、人間だった頃の倫理観で自分を抑えたのだが、他の連中は本能さんに忠実だったらしく……。
いてぇっ!……てめえ、何てことしやがる。
考えることは皆同じだったのだろう……ぬるぬるしたオタマジャクシ達に押されたり、ぶつかられるのはずっとなので、その辺の感覚は麻痺してきていて痛いとは感じないのだが、突然尾びれにそれとは異なる痛みが走る。
身体をひねって見てみれば……おいおい、一匹かじりついてやがるよ。
……このまま喰われるなんて冗談じゃねえ!先に手を……いや、口か。まあいい。
仕掛けて来たのはそっちだからな。覚悟してもらうぜ俺の餌共!
自分が喰われるという人間の時にはあり得なかった状況が自らに襲いかかってきたことで、俺の中の倫理観さんがそっと目を閉じる。
俺は身体を懸命にくねらせて尾びれの一部をちぎって脱出。追撃してきた個体の目を目掛けて尾びれを振るい、隙を見せたそいつの腹目掛けて喰らいついた。
産まれたての柔らかい皮膚はすぐに破け、渦巻き状に収まっていた内臓がドプリと流れ出る。躊躇うことなくそれを喰い、そのままその身体の内側に潜り込んで中からそいつを食べ尽くした。
……美味いかって? いや、味覚がないのかそれはよくわからないな。だが、快感とも言える満足感が全身を駆け巡ったのは確かだ。これはいい! もっとだ、もっと欲しいぃぃっ!
『エクストラスキル大食漢を獲得しました』
ピコンという間の抜けた通知音に続いて、無機質な女性の声がした。まるでゲームみたいだと感じたのも束の間、心の底から沸き上がってくる飢餓感に襲われ、たった今自分と同じ大きさの獲物を食べたばかりだというのに腹が減って腹が減って、空腹で気が狂いそうだ。
……お前らも喰わせろぉぉぉぉっ!
そんな欲望のおもむくままに、すぐ近くの個体に喰らいついたところで、俺は正気を失った……。
◆◇
えっと、なんだ。……その、何かすみません。
さっきの謎のアナウンスも無関係とは思えないが、ともかく我に戻った俺は重なりあった同族の亡骸の山の頂きにいた。
周囲に動く者がいない以上、これをやらかしたのは俺で間違いないだろう。
文字通り、喰い散らかされた亡骸はズタズタでまともな原型を留めた者は一匹もいない。しかし、満腹感はあるのだが、これだけの量を食べて腹が異常に膨らんだりしていないのはおかしな話だ。これもさっきのスキルとかが関係してるのかな……。
ん、あれは……。
幸運だったとしか言いようがない。
高く積み上げた亡骸のおかげで遠くが見え、自分の置かれている状況がやっとわかったのだ。
どうやら俺は、沼地が少し干上がったために切り離されてしまった小さな水溜まりで産まれたらしい。だから仲間たちもそこから離れられず、結果息苦しさと空腹から共食いが始まったというわけだ。こうして見れば、ほんの少し我慢して移動すれば沼地の本体に辿り着けるはずだったのに、今は俺の腹の中か……南無……。
じゃあ、気を取り直して……よいしょっと!
俺は身体をくねらせ、反動をつけて亡骸の山の斜面を勢いよく下り始めた。目標は目の前の沼地、適度に湿った泥もよく滑る滑る。そして……
ゴォォォール!
両手を上げて歓喜を表したいが、そんなの生えて無いので心の中でそう叫んでおくことにする。
とにかく俺は、こうして何とか沼地に到着することに成功したのだった。やったね。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる