カエル転生からのゲコゲコ下克上!踏まれたカエルが目指すのは……魔王!?

氷狐

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第三話

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 沼地の水の中に入れた喜びを噛み締めていると、ふと自分が妙な姿勢であることに気がついた。

 ……さっきも、少し距離が届かないかもと感じて無意識で蹴って・・・いたが……。蹴ってって、何で?

 あ…………!

 浅い水の中でその底に当たっているのは、間違いなく『足』である。尾びれを挟むようにして付け根の両側からは、カエルらしい足が生えていたのだ。
 ここでも脳裏をよぎるのは先ほどのスキルとやらの存在と、兄弟たちを皆殺しにして喰い散らかしたという現実。

 それにしても……成長早すぎだろ……。

 尾びれはやや欠けていたので、泳ぎ回るのに支障が出るだろうと心配してはいたのだが、水掻きのついたこの足のおかげで不自由せずに済みそうだ。
 だが、それから僅か十分ほどで何故こんなに早く成長する必要があるのかを実感することになる……。

 ◆◇

 ……たあぁぁぁーすけてえぇぇぇーっ!

 なりふり構わず必死で逃げ惑う俺の背後には一匹の成体のカエル。無論、親子の感動の再開などではなく、彼はひたすらに俺の身体が目当てなのだ……うん、エサ的な意味でね。

 次の瞬間、背後の気配に変化を感じて後ろを見れば……。

 ……うそーん。

 半透明な緑色のゼリー状の何かに、さっきまで俺を追いかけていた成体のカエルが絡め捕られ、動きを封じられている。よく見れば、そのゼリー状の何かに触れている部分が徐々に溶けてしまっているようだ。

 これってまさか、ファンタジー的なあの……ん?
 そんな俺の疑問は、思わぬところから払拭されることとなった。じっとそのゼリー状の化け物を見ていたら、突然そいつのすぐ近くにそう書かれたプラカードのようなものが浮かび上がったのだ。

 ……何なに『グリーンスライム』……ってゲームかっ!

 まるでゲームのキャラ名表示のようなノリに思わずツッコミを入れてしまったが、この世界、ゲームや夢にしては何もかもがリアル過ぎるし、第一主人公がオタマジャクシとかあり得ないだろう。

 ……これはやはり……そういうことになるのか。

 俺の頭に浮かんだのは愛読書で何度も目にしてきた『異世界転生』のキーワード。そう考えれば全てつじつまが合う、いや……何故かオタマジャクシなのは納得出来んが……。
 ともあれ、俺やスライムそして周りに見える生物たちもファンタジー的な思考に基づくならば『魔物』という存在なのだろう。あまりに危険が多いこの世界の生態系で種を存続させるため、異常とも思えるほどの成長をするのだ。
 ただ、その成長にもある条件や法則といったものがありそうだが……。

 ……!

 目の前のスライムが突然食事を止め、消化中のカエルを放置して動き出した。なんだか沼地の雰囲気というか、空気のようなものが変わった気がする……。
 ドスンドスンと近づいて来る振動が、まるで激しい地震のように感じられるほど近付くと、その巨大過ぎる化け物の正体が理解出来た。

 ……これは……人間。

 オタマジャクシに転生したのだと理解してから、なんとなく予感めいたものはあったのだが、こうしていざ現実を突き付けられると……。

 いやいや、もうこれ巨人さんでしょ。進撃しちゃう方の……。

 ファンタジー小説に出てくる冒険者風な衣装の彼らが狙う獲物は、どうやらさっきのグリーンスライムだったらしい。しゃがみこんだ一人が食べかけのカエルの死体をつまみ上げ、舌打ちしながら投げ捨てた。
 一人が……そうだ、もう一人は今どこに……そう思って振り返った時……

 あ……今度こそ終わったわ、俺。

 不注意だった。グリーンスライムの補食風景を眺めていたのもそうだが、俺は食物連鎖の下層に落ちたということをすっかり失念してしまっていた。
 周囲に気を張り巡らせ、状況には常に敏感でなければならなかったのだ。今の俺にとっては絶対的強者なあのスライムでさえ、彼ら人間にかかれば弱者へと転落する。それを理解しているが故に、彼は迷うことなく食事を止めて逃げ出した。

 生き残るために必要な情報ヒントは、すぐ目の前にあったじゃないか。それを活かせなかった俺自身の責任……。

 ……そうしてこれが……その代償か。

 俺の真上に……もう一人の人間の靴底が降りてきた……。
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