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第十六話
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今度は、アクセサリーみたいなのを眺めて……ナルくんは結局何がしたいんだ?
目の前には地面から生えた状態の白銀の聖剣。
それに上半身裸の自分を映し、髪を水で濡らしてかき上げてみたり、頬にちょっぴり泥を塗ってみたりしながらポーズをとっていたナルくんは、魔法袋から銀のブローチみたいな物を取り出し、ニヤニヤしながら眺めている。
早くどっかに行ってくれないかな……正直気持ち悪いから。
「お前、さっきからうぜえよ!」
……え?
突然のナルくんの言葉。あまりのタイミングに反応しちゃったけど、俺の心の声が聞こえるとかないよね?
周りに誰か隠れてるってこと?俺の視界には誰も映らないんだけど……。
「俺の鏡に映り込んでんじゃねえよ、カエルの分際で!」
カエルさーん呼ばれてますよ……って俺だったーっ!
上から、本当にゴミでも見るかのような視線が俺を見下ろしている。やはりレベル差? それともスキル?
ともかく俺の存在ははっきりとバレているらしい。
相手は勇者だよな。戦うのは論外で逃走も不可能……。
「邪魔なんだよカエル野郎!俺のタイガーショットで消し飛びやがれ!」
ひい!それ知ってる。日向的な人のゴールネット破っちゃう系のシュートだよね? いやいや、俺はボールでもトモダチでもないから……。
そんな俺の願いが通じるはずはない。すでにナルくんの左足は俺のすぐそばに踏み出され、右足が後ろに高々と持ち上げられる。あとはそれを一気に振り下ろせば……あのサッカー漫画のボールのようにパンと弾けてしまうのは確実……。
……ああ、今度こそ終わったわ……俺。
◇◆
日向ぼっこを楽しむハルオキさんを見ながら癒されていると、変態な男が現れて意味不明な行動を取り出した。
邪魔だなと、嫌悪感を感じて見てみれば……
個体名 ハラガ・タツヒコ
種族 人間
レベル 444
称号 勇者 神殺し 無慈悲なる者 破壊の使徒 蹂躙せし者 強姦魔 女の敵 殺戮者 魔族の敵
装備 聖光剣クラウ・ソラス 聖光盾イージス 精霊の白銀鎧 竜血染めのマント
エクストラスキル 女神の祝福 勇者
通常スキル 言語理解(人語) 剣聖 白魔法 黒魔法 風魔法 火魔法 水魔法 土魔法 鑑定 索敵 並列思考……
いやいや。いやいやいやいや……ちょっと待って。
何コレ? 主人公最強系? チート?
スキルで見た変態男の、そのステータス画面のあまりに無茶苦茶な内容にしばらく脳がフリーズする。
でも確かにとんでもない存在なのだろう。私もさっきから全く動けないし、先ほどから周囲では虫の鳴き声ひとつしない。
とにかく、ハルオキさんの無事だけを祈りながら状況を注視していると、突然変態男がハルオキさんがいる地面を怒鳴りつけ、足を上げて蹴りのモーションに入った……。
私のハルオキさんが……いやあぁぁぁー!
◆◇
さっきから、鏡にしている聖剣に緑のドロドロが映り込んで俺をイラつかせている。身を隠しているつもりだろうが『策敵』で周囲一キロ圏内の状況は手に取るようにわかるし、『鑑定』で見れば……ちっ、カエルかよ。
「邪魔なんだよカエル野郎!俺のタイガーショットで消し飛びやがれ!」
俺は古本屋で見た漫画の主人公のライバルを真似て、そのカエルを蹴り飛ばそうと踏み込んで右足を上げる。
「しまっ……!」
だが次の瞬間、力み過ぎたのか踏み出した足をぬかるみに取られ、俺は大きく体勢を崩す。だが、すでに振り下ろし始めた右足は止まらない。
「な、滑る……うわぁ!」
右足がカエルの背に触れた瞬間、ドロドロによって靴底が滑り、さらに加速された右足はそのまま一気に天を振り抜いていく。
ぬかるんだ軸足にはすでに力は入らず、レベル四百オーバーの基礎体力で蹴った力に引かれるまま身体はふわりと浮き上がったかと思うとオーバーヘッドキックのようにくるりと回って背中から落ち……。
「だっ、ここはダメだ!……うひぃっ!……あっ!」
背中から落下する先には地面から生えた聖剣が……それが背中に刺さる寸前、光る盾が現れて一瞬防いだのだが……。
『矛盾』という言葉がある。
最強の盾と最強の矛、どちらも同程度の最強同士が衝突したならどうなるのか?
……答えは、両方壊れるだった。
光る盾はパリンと砕け、同時に聖剣も中ほどからポキリと折れる。
そして俺の身体は……
「ぐぼはぁっ!」
折れた聖剣に指し貫かれた……。
◇◆
……なんという光景なのだろう。
ハルオキさんを蹴り飛ばそうとした変態男が、くるりと空中に舞い上がり、そのまま自分が立てた剣に指し貫かれている。
はっ!そんなことよりハルオキさんは……あらいけない。よいしょよいしょ……。慌てるとつい正面に移動しようとしてしまう。カニだから横歩きが基本なのに……。
こ、こんなことって……ハルオキさん!
近づいたハルオキさんは、口から内臓のようなものを飛び出させて倒れていた。大量の滑液の表面を僅かに擦っただけでこれなのだ。直撃していたらと思うとゾッとする。
ほっ、まだハルオキさんは生きてる。でもこのままじゃ……。
擦っただけとはいえ、レベル四百オーバーに踏まれたのだ。ハルオキさんのHPは限りなく0に近い……。
いや、レベル……そうだ!
カエルは自分で胃袋を外に出すことが可能らしい。だとすれば押し出されたのもそれの可能性が高い。
私は、近くの石に自らの硬い甲殻をぶつけて何ヵ所も割った。それから、鋭利なハサミも同様にぶつけて割り、尖った部分がないようにする。
……待っててねハルオキさん。マトイがきっと貴方を助けるから。
甲殻があちこち割れたことで、思うように動かない身体。私は必死でハルオキさんのもとまで行くと、口から出ていた胃袋を抱えそれを被るようにしながら彼の口へと入っていく。
決して破らぬように、傷付けぬように……注意を払いながらそれを押し込んでいき、体内のある位置まで来るとそこが定位置であるかのようにはまり込んだ。
熱い……ううん、温かい……だよね。私、やっと貴方とひとつになるんだもの……。
ハルオキさんは現在レベル19。間もなく20になり進化が可能になる。
進化をすれば、欠損部位さえ修復されて完全な状態の進化個体となるのだ。
私は殻を割って消化しやすくした自分自身で、彼にレベルアップをしてもらい、その先の進化を促そうと考えた。胃はその中に私が入ったのを認識し、胃酸を分泌して私の身体を溶かし始める……。
急いで、もっと、もっとよ! 死なせはしない。絶対に、愛する貴方を死なせるものですか……。
常に危険と隣り合わせの生態系において、補食しそれを消化している状態は危険極まりない。そのため、この世界の生物の消化活動は驚くほど活発で早いのだ。
ものの一分とかからぬうちに、私の身体は原形を留めぬほどぐじゃぐじゃになっている。とはいえ、身体から飛び出ていた目は真っ先に酸によって見えなくなり、体にももう感覚などありはしない。思考が続いているのは、歪な転生をした特殊な個体だからだろうか。
……でも、それもじきに消えるでしょうね。
ハルオキさん、貴方とのファーストキスはディープ過ぎるものになったわね。でもね、私の中に後悔なんて全くないの。この命で愛する貴方を救い、本当の意味で貴方とひとつになる。
私は今、とても満たされた気分よ。
外からお手伝いすることは出来なくなるけど、マトイはこれからもハルオキさんを守ります。何が貴方に襲いかかろうとも、もう貴方を誰にも傷付けさせはしない……。
……どうやら、ここまでみたいね。
ハルオキさん……
叶うなら
貴方ともう一度
話してみた
かっ…………た。
目の前には地面から生えた状態の白銀の聖剣。
それに上半身裸の自分を映し、髪を水で濡らしてかき上げてみたり、頬にちょっぴり泥を塗ってみたりしながらポーズをとっていたナルくんは、魔法袋から銀のブローチみたいな物を取り出し、ニヤニヤしながら眺めている。
早くどっかに行ってくれないかな……正直気持ち悪いから。
「お前、さっきからうぜえよ!」
……え?
突然のナルくんの言葉。あまりのタイミングに反応しちゃったけど、俺の心の声が聞こえるとかないよね?
周りに誰か隠れてるってこと?俺の視界には誰も映らないんだけど……。
「俺の鏡に映り込んでんじゃねえよ、カエルの分際で!」
カエルさーん呼ばれてますよ……って俺だったーっ!
上から、本当にゴミでも見るかのような視線が俺を見下ろしている。やはりレベル差? それともスキル?
ともかく俺の存在ははっきりとバレているらしい。
相手は勇者だよな。戦うのは論外で逃走も不可能……。
「邪魔なんだよカエル野郎!俺のタイガーショットで消し飛びやがれ!」
ひい!それ知ってる。日向的な人のゴールネット破っちゃう系のシュートだよね? いやいや、俺はボールでもトモダチでもないから……。
そんな俺の願いが通じるはずはない。すでにナルくんの左足は俺のすぐそばに踏み出され、右足が後ろに高々と持ち上げられる。あとはそれを一気に振り下ろせば……あのサッカー漫画のボールのようにパンと弾けてしまうのは確実……。
……ああ、今度こそ終わったわ……俺。
◇◆
日向ぼっこを楽しむハルオキさんを見ながら癒されていると、変態な男が現れて意味不明な行動を取り出した。
邪魔だなと、嫌悪感を感じて見てみれば……
個体名 ハラガ・タツヒコ
種族 人間
レベル 444
称号 勇者 神殺し 無慈悲なる者 破壊の使徒 蹂躙せし者 強姦魔 女の敵 殺戮者 魔族の敵
装備 聖光剣クラウ・ソラス 聖光盾イージス 精霊の白銀鎧 竜血染めのマント
エクストラスキル 女神の祝福 勇者
通常スキル 言語理解(人語) 剣聖 白魔法 黒魔法 風魔法 火魔法 水魔法 土魔法 鑑定 索敵 並列思考……
いやいや。いやいやいやいや……ちょっと待って。
何コレ? 主人公最強系? チート?
スキルで見た変態男の、そのステータス画面のあまりに無茶苦茶な内容にしばらく脳がフリーズする。
でも確かにとんでもない存在なのだろう。私もさっきから全く動けないし、先ほどから周囲では虫の鳴き声ひとつしない。
とにかく、ハルオキさんの無事だけを祈りながら状況を注視していると、突然変態男がハルオキさんがいる地面を怒鳴りつけ、足を上げて蹴りのモーションに入った……。
私のハルオキさんが……いやあぁぁぁー!
◆◇
さっきから、鏡にしている聖剣に緑のドロドロが映り込んで俺をイラつかせている。身を隠しているつもりだろうが『策敵』で周囲一キロ圏内の状況は手に取るようにわかるし、『鑑定』で見れば……ちっ、カエルかよ。
「邪魔なんだよカエル野郎!俺のタイガーショットで消し飛びやがれ!」
俺は古本屋で見た漫画の主人公のライバルを真似て、そのカエルを蹴り飛ばそうと踏み込んで右足を上げる。
「しまっ……!」
だが次の瞬間、力み過ぎたのか踏み出した足をぬかるみに取られ、俺は大きく体勢を崩す。だが、すでに振り下ろし始めた右足は止まらない。
「な、滑る……うわぁ!」
右足がカエルの背に触れた瞬間、ドロドロによって靴底が滑り、さらに加速された右足はそのまま一気に天を振り抜いていく。
ぬかるんだ軸足にはすでに力は入らず、レベル四百オーバーの基礎体力で蹴った力に引かれるまま身体はふわりと浮き上がったかと思うとオーバーヘッドキックのようにくるりと回って背中から落ち……。
「だっ、ここはダメだ!……うひぃっ!……あっ!」
背中から落下する先には地面から生えた聖剣が……それが背中に刺さる寸前、光る盾が現れて一瞬防いだのだが……。
『矛盾』という言葉がある。
最強の盾と最強の矛、どちらも同程度の最強同士が衝突したならどうなるのか?
……答えは、両方壊れるだった。
光る盾はパリンと砕け、同時に聖剣も中ほどからポキリと折れる。
そして俺の身体は……
「ぐぼはぁっ!」
折れた聖剣に指し貫かれた……。
◇◆
……なんという光景なのだろう。
ハルオキさんを蹴り飛ばそうとした変態男が、くるりと空中に舞い上がり、そのまま自分が立てた剣に指し貫かれている。
はっ!そんなことよりハルオキさんは……あらいけない。よいしょよいしょ……。慌てるとつい正面に移動しようとしてしまう。カニだから横歩きが基本なのに……。
こ、こんなことって……ハルオキさん!
近づいたハルオキさんは、口から内臓のようなものを飛び出させて倒れていた。大量の滑液の表面を僅かに擦っただけでこれなのだ。直撃していたらと思うとゾッとする。
ほっ、まだハルオキさんは生きてる。でもこのままじゃ……。
擦っただけとはいえ、レベル四百オーバーに踏まれたのだ。ハルオキさんのHPは限りなく0に近い……。
いや、レベル……そうだ!
カエルは自分で胃袋を外に出すことが可能らしい。だとすれば押し出されたのもそれの可能性が高い。
私は、近くの石に自らの硬い甲殻をぶつけて何ヵ所も割った。それから、鋭利なハサミも同様にぶつけて割り、尖った部分がないようにする。
……待っててねハルオキさん。マトイがきっと貴方を助けるから。
甲殻があちこち割れたことで、思うように動かない身体。私は必死でハルオキさんのもとまで行くと、口から出ていた胃袋を抱えそれを被るようにしながら彼の口へと入っていく。
決して破らぬように、傷付けぬように……注意を払いながらそれを押し込んでいき、体内のある位置まで来るとそこが定位置であるかのようにはまり込んだ。
熱い……ううん、温かい……だよね。私、やっと貴方とひとつになるんだもの……。
ハルオキさんは現在レベル19。間もなく20になり進化が可能になる。
進化をすれば、欠損部位さえ修復されて完全な状態の進化個体となるのだ。
私は殻を割って消化しやすくした自分自身で、彼にレベルアップをしてもらい、その先の進化を促そうと考えた。胃はその中に私が入ったのを認識し、胃酸を分泌して私の身体を溶かし始める……。
急いで、もっと、もっとよ! 死なせはしない。絶対に、愛する貴方を死なせるものですか……。
常に危険と隣り合わせの生態系において、補食しそれを消化している状態は危険極まりない。そのため、この世界の生物の消化活動は驚くほど活発で早いのだ。
ものの一分とかからぬうちに、私の身体は原形を留めぬほどぐじゃぐじゃになっている。とはいえ、身体から飛び出ていた目は真っ先に酸によって見えなくなり、体にももう感覚などありはしない。思考が続いているのは、歪な転生をした特殊な個体だからだろうか。
……でも、それもじきに消えるでしょうね。
ハルオキさん、貴方とのファーストキスはディープ過ぎるものになったわね。でもね、私の中に後悔なんて全くないの。この命で愛する貴方を救い、本当の意味で貴方とひとつになる。
私は今、とても満たされた気分よ。
外からお手伝いすることは出来なくなるけど、マトイはこれからもハルオキさんを守ります。何が貴方に襲いかかろうとも、もう貴方を誰にも傷付けさせはしない……。
……どうやら、ここまでみたいね。
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叶うなら
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