カエル転生からのゲコゲコ下克上!踏まれたカエルが目指すのは……魔王!?

氷狐

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第二十一話

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「……ふう」

 部屋に入って扉を閉め、マリネちゃんの足音が階下に去ったのを確認すると、俺は室内に結界を張った。
 ベッドに腰かけると、『擬態』を解いて本来・・の姿に戻る。

「……ああああー、緊張したぁぁーっ!」

 部屋に張ったのは、音や魔力の波動などの一切を遮断することが出来る強力な結界なので、多少大声を出したところで誰にも聞かれることはない。

「つか、何あれ? 嘘を見抜く水晶とかって、めちゃめちゃ焦ったよ、ほんと。まあ、バレなかったからいいけどね」

 そう言いながら、ベッドに腰かけてリアクションに忙しい謎の生物……ま、俺だけどね。

 身長は百七十センチ。これは死ぬ前の俺と同じだ。
 やや細身だが、かなり筋肉質ないわゆる細マッチョな体型。手と足は人よりやや大きく、指の間には水掻きがある。
 全体に濃い灰色でヌメっとした光沢のある体表は、下唇から胸、そして腹筋と股関の部分にかけてが白くなっていて、マッチョに擬人化したカエルマンみたいな感じだ。
 微妙に尖った鼻の部分や、人よりやや離れた目の位置は、カエルというよりどこか顔つきがサメっぽい。

「それにやっぱり……これだよなぁ……」

 ヴァサアッ! と開いた大きな翼は、右側は黒で左側が白。これにはあるとんでもない力が宿っているんだけど、それはまた別の機会に……。ちなみにこの翼、普段は体の中に隠すことが出来て、最大では三対六枚の翼が出せる。

「何か、羽根のあるバットマン……いや、それは言い過ぎか。正体はカエルだしね」

 まあ、あちらは超マッチョだから、そこからすでに違うのだが……。
 あの日、果てしない進化の奔流による耐え難い激痛で意識を失い、およそ一週間後に目覚めると、俺はこんな姿になっていたのだ。

「……しかし、さすがに『スーツ』は目立ち過ぎだったかな」

 先ほどまでの姿。あれは擬態である。
 人型のイメージなど生前のものしかないので、俺はクローラクレーンに踏まれて死んだ、あの日の姿や服装を参考にしたのだ。それは、濃紺のサマースーツの上下に革靴、中にはワイシャツと水色系のバーバリーチェックのネクタイといった感じ。
 
 しかし、顔立ちはまるで高校生の頃みたいに若くなってしまった。
 とは言っても俺は、高校の頃は老けてる、落ち着いている、とよく言われてたし、それからは逆に歳を取らないねと言われていたので、はっきり言って大差ないと思う。この微妙な違いは俺本人しかわからないのだろうな……。
 それでも、十七才設定は少し無理があったかなと今更ながら多少の後悔はある。もっと上かと思ったと言われてしまったのは正直ショックだったし……。

 ちなみにマーティンの所で読み取らせたステータスは、あくまでこの擬態のものだ。鑑定水晶といえど、ある一定のレベルまでしか読み取れないのだろう。俺の今のレベルでなら、何一つ引っ掛かることなく誤魔化せたみたいだ。
 王都というくらいだから警備は厳重なはず。そこに置かれた水晶を騙せたのだ。これなら他の街へ行っても問題あるまい。

 ◆◇

「おたくさんおたくさん、ごはんですよーっ!」

 本来の姿でくつろいでいると部屋の扉がノックされ、マリネちゃんの元気な声がした。
 すぐに擬態に戻り、一緒に階段を下りながら今後はハルオキかハルと呼んで欲しいとお願いしたら……

「じゃあ、ハルお兄ちゃん!」

 ……だそうだ。
 宿泊客は俺ひとり、それにお兄ちゃんか……宿屋というより、まるで親戚の家に泊まりにきた気分だな。

「いらっしゃいませ。この度は妙なお願いをして申し訳ありません」
「はじめまして。いえいえ、こちらこそ何だか申し訳なくて……」

 うわー、旦那さんもめっちゃイケメンだ。美男美女の夫婦で可愛いひとり娘まで……ひょっとして周りの妬みとかも客足に関係してるんじゃないだろうか?

 夕食の準備が整い、食堂のテーブルにみんなで座る。自然と全員一緒に座ってくるあたり、やっぱり親戚の家感が半端ない。
 この食堂、外にある戸板を外せば、通りまでのちょっとしたオープンスペースが出来る。将来的にはそこにもテーブルを置いて、夜には酒場としても利用してもらえるようにと考えているらしい。

 さてさて、新築だから当然施設は清潔。造りも色々と考えてあるようだし、では問題は……。

「ご挨拶が遅れました。私が当宿屋の主人でフランツと申します。こっちは妻のアメリア、そして娘のマリネです」
「ハルオキです。ハルとお呼びください。しばらくお世話になります」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。誰かに食べていただくのは久しぶりなので気合いを入れました。おかわりもありますのでどんどん召し上がってくださいね」

 ……ん? また何か不吉なキーワードが……久しぶり?

 ◇◆

「あれはアカン。……あれはアカンやつや!」

 二時間後。部屋のベッドで横になっている俺は、さっきまでの悪夢のような光景を思い出し、目眩を感じていた。

 見た目と香りは食べ物。だが……

「……まさか、完全に毒物だったとは。完全に想定外だった」

 フランツはある意味『料理の魔術師』だ。普通の食材を買ってきて、それを使って調理したらしいのに、どうやったらあんな凶悪なものが出来上がるんだ……。
 それに、あの進化以降、より優秀になった俺の鑑定で見てみたら食べ物とすら表示されず、そこには『毒』の文字が……。

 それに、あの親子……。

 目を閉じると甦る、あのカオスな食卓。
「あはははは、今日もまずーい!」などと言いながら、出される料理を機械的に平らげるマリネ。
 口の端から一筋の血を吐き流しながら、笑顔でおかわりを薦めてくるアメリア。
 フランツにいたっては、幻覚を見だしたのか室内を裸で駆け回り始める始末。

「しかも、まさかの一家全員『毒耐性』持ちって……」

 身体は『毒』って認めてるじゃん。みんな気づいてあげて! まったく……。
 俺も当然、毒には耐性があるのでHPが削られるようなことはないのだが、精神的にごっそり削られた気分だ。

「はあ、これでは客は無理だ。つか、俺も毎食アレなのか……」

 せっかくタダで泊まれる宿屋をゲットしたのに、俺はいきなり根本的な大問題に直面してしまったようだ。
 アメリアさんやマリネちゃんは、せっかくパパが腕によりをかけて作ってくれるのだからと、毒耐性を身に付けてまで無理して食べているんだろう。

 ……こりゃ、何とかするしかないな。
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