カエル転生からのゲコゲコ下克上!踏まれたカエルが目指すのは……魔王!?

氷狐

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第二十二話

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「……うーん、やっぱりそういう物はないか。使えん勇者だ……」
  
 あの勇者が持っていた魔法袋は、俺がそれを食べてしまった事で性質が変化し、スキルの『無限収納』になってしまっていた。
 その中には、勇者が国から与えられていたであろう金品や財宝をはじめ、夥しい数のレアアイテム。さらには魔剣から日常品までと、ありとあらゆる物が詰め込まれており、それらの一部は進化の過程において様々な形で俺の身体に取り込まれたのだが、それ以外は俺のスキル内に保管された状態になっていて、今でも出し入れして使うことが可能だ。
 俺は取り敢えずその中身を調べ、宿の食生活改善に役立つ書物や魔道具などが入ってないか調べているのだが、どうにも文化的に役に立つ物というのが出てこない。

「食事の用意はもとより、ろくにこの世界の知識を学ぶこともしなかったんだろう。だからあんなバカ勇者になるんだよ。誰だ、そんなに甘やかした奴は!」

 ◆◇

「……へっくち!」
「姫様、まだ万全ではないのですから、ご無理はなさらないでくださいね」

 ここは、城にあるアルテイシア姫の執務室。
 彼女の父親である現国王は体が弱く、国の執政はほぼアルテイシア姫によって執り行われていると言っていい。
 そんな中で、彼女が体調を崩して数日寝込んでしまったために、その間に溜まってしまった数々の書類や案件の対応に、ここ数日は追われていたのだ。

「そうは言っても、のんびりしていては書類は増える一方です。まあ、これがかつてのような勇者への苦情の山でないことは救いですが……」

 あれから、幾度も勇者の捜索隊を出したのだが、結局何の手掛かりも見付からなかった。神殿に姿を見せたのは多くの兵士が目撃しているので、そこからの道のりを間違うとは考え難いのだが……。

「あんな勇者……どこかで魔物にでも食べられちゃえばいいんですよ!」
「サリア、それは不謹慎ですよ!」
「……でも! いえ、すみませんでした」

 情報ではあれ以降、魔族の軍勢の目撃情報はない。魔物の活動も以前に比べれば落ち着いてきたようだ。
 いかな人物とはいえ、恐らく彼が魔王を倒して人類を救ったのもまた事実。迂闊は発言は、国内に余計な波風を起こしかねない。

「それでも……クス、ウフフフ」
「姫様?」

 アルテイシア姫は先ほどの侍女サリアの言葉から、何故か巨大なカエルの魔物に泣きながら食べられる勇者タツヒコの間抜けな姿を想像してしまい、込み上げる笑いをどうにも堪えきれなくなっていた……。

「ウフフフ……カエルはあんまりですわね。ウフフフ」
「……カエル? 姫様大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ウフフ」

 ひとしきり笑うと、彼女は少しすっきりした表情で再び書類の山に向き直り、次の案件に手を伸ばしていった……。

 ◇◆


「……ええぇぇぇっ!」

 翌朝、調べ物なら図書館があるとのアメリアの助言に従い、朝食もそこそこに図書館へと向かった。
 到着した石造りの頑丈そうな立派な建物の中に入り、受付らしい所で利用したい旨を伝えたのだが……。

「ですので……申し訳ありませんが、身分証明書の提示をしていただかないと、これより中には入れません。規則ですので」

 しまった……。
 そういえば、俺はまだ仮の滞在許可証を持っているだけで、明日までに身元保証をしてくれる就労先を探さなければいけなかったんだった。
 図書館を出た俺は、街の人に道を尋ねながら冒険者ギルドを目指すことにする。
 宿屋で雇ってもらうという手も考えたが、客が来ない宿屋に人を雇う余裕はないだろう。
 目的がおかしな気もするが、とにかく図書館を利用するためには、冒険者ギルドに行って冒険者になり、その登録証を身分証明書にするしかないのだ。

 冒険者ギルドは、これまた石造りの堅牢な建物。王都の中でも主要な施設に関しては、全てこうした頑丈な造りに統一されているのかも知れない。
 ギルドの一階部分は、まるで銀行や役場の窓口のようになっていた。長いカウンターには幾つかの受付があり、その向こうではギルドの職員たちが忙しそうに事務仕事などを行っている。
 その中のひとつに登録を頼みに行くと、受付の女性から登録用の用紙を渡された。

「あの、冒険者登録をしたいんですが……」
「あ、はい。ではこちらの書類にご記入いただけますか」

 名前 ハルオキ
 年齢 17
 ホーム なし
 特殊依頼受注 可
 武器能力等 短剣 魔法

「これでいいですか」
「はい。先ほども説明しましたが、特殊依頼とは対人又は対魔物に対する殺傷や捕縛の依頼となります。ランクが上がると、これらの特殊依頼が指名で来ることがあります。全て受けなければならないわけではないですが、頻繁に断れば罰金や、最悪は冒険者資格の停止も有り得ます。これらはご理解いただけますね?」
「ええ、大丈夫です」
「わかりました。ではこちらの水晶に手を乗せていただけますか?」

 予想はしていたが、ここでも来たな鑑定水晶。
 だが、無論疑われることは何もなく、あとはギルドカードが出来上がるまで一階のフロアをうろつきながら待つことになった。

「ごろつきが屯した溜まり場みたいなのはないんだな……」

 かつて愛読していたラノベなら、ここは併設された酒場があり酔ったごろつきに絡まれるテンプレが発生する場面。だが、ここには職員用のスペース以外は、依頼書が貼られた大きなボードと長椅子が何脚かあるだけだ。
 お、ボードの前の厳つい男たちがこっちを見た。来るか……来ちゃうのか。

「ハルオキさーん、お待たせしました」
「……来ないか」
「……え、何か?」
「ああ、いえ、こちらの話です。お気になさらず……」

 テンプレも何も起こらぬうちに、実にあっさりとカードが出来上がってしまった。
 まあ、元々は図書館に入るのが目的だし、これでいいのか。
 さっきの水晶で魔力を認識し登録したので、カードは俺以外は使えないとか、ランクがFだとか、ややテンプレ的な説明をざっと聞き流し、俺はギルドを出て図書館へと向かった。

「はい。身分証、確かに確認いたしました」

 図書館に戻った俺は、朝と同じ受付の女性に出来たばかりのギルドカードを提示し、鍵付きの格子戸を開けてもらって中に入った。ずいぶん厳重なものだと思ったが、現代のように印刷技術が発達しているわけではないので、本は基本手書きの一点もの。もしくは誰かが書き写して数冊作った程度なので、かなりの高額なのだ。だから、持ち出しはもちろん厳禁で、帰りにはボディチェックを受けないと出してもらえない。

「奥にある第二区画からは、冒険者ならAランク以上。もしくは王家や一部貴族が発行する許可証をお持ちでないと入れませんので、ご注意を」

 そう言われると確かに、正面通路の奥には再び格子戸があり、二人の兵士が両側に立っているのが見える。

 ……まあ、見たいのは料理に関する本だ。別に魔導書とか機密文書を見に来たわけではないし大丈夫だろう。
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