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015 懐柔作戦
しおりを挟む夜時間の狩りから『ピタ』に戻ってきた頃にはすでに時刻は22時を過ぎようとしていた。
とはいってもゲーム内時間の話であって、現実では1時間も過ぎていないくらいだ。
でもボクにとっては初めての戦闘ということもあって、ちょっと疲れたかも。
双子コンビが夜でもやっているプレイヤーの露店でちょっとした軽食を購入してきてくれたので近場のベンチに座って休憩ついでに食べることにした。
普段はアキの作ったお菓子で空腹ゲージを回復させているけれど、アキは基本的にお菓子しか作らない。いや正確にいえば作れない。
お菓子はプロ顔負けの腕前なのだが、なぜだかお菓子以外の料理になると途端におかしくなるのだ。
よく鍋を爆発させる漫画的表現があるけれど、あれに近い。さすがに爆発はさせないけれどね。
そういった理由もあり、アキが作る料理はお菓子限定。
でもゲーム内でもたまにはお菓子以外も食べたくなるのが人情というもの。
それは当然ボクだけじゃなく、双子コンビも同様だったようで特にボクが何も言わなくても2人は軽食を買ってきてくれたのだ。通じ合ってるよね、ボク達。
ゲーム内で食事を楽しめるのは『クロノス』の新機能――味覚と嗅覚のおかげだ。
現実とほとんど変わらないレベルで再現されているこの2つのおかげで焼きそばもたこ焼きもお好み焼きもなかなか美味しかった。
結構頑張って『スキル』Lvを上げている人の料理だったみたいで、3人で1人前を分け合って食べたのにも関わらず空腹ゲージは大分回復している。
『鑑定証』を確認しておけばよかったかな。もしかしたら何かしらのバフ効果がついているレベルの料理だったのかもしれない。
料理アイテムには空腹ゲージを回復させる以外にもバフ効果がつく場合がある。
意外と手軽にバフ効果を得られるので『スキル』Lvの高いプレイヤーの作った料理は人気が高い。
料理には使用回数なども存在せず、食べたら終わりだ。その代わりバフの効果時間が比較的長めであったりもする。
狩りの前に食べてブーストをかけるにはちょうどいい。
ただ狩場でバフ効果が切れたら再度食べるというのはお菓子などの手軽な物じゃないと厳しいかもしれない。
いずれアキの【調理】も派生進化してバフ効果のつくものが作れるだろうが、ボク達は多分バフ効果よりも空腹ゲージの回復と味を楽しむためにしか食べないと思う。
だってバフならボク製のアイテムが火を噴くからね!
6個入りのたこ焼きの2個目をハフハフしながら食べていたら、視界上にメールのアイコンが現れ軽快な音と共にメールが届いたことを知らせてくれた。
この辺の設定はかなり好みにカスタマイズ可能だが、ボクは基本的にデフォルトのままだ。
双子コンビもそういうところはあまり気にしない方なので多分デフォルトのままだと思う。
そもそもメールってそんなに使わないからね。双子コンビとは常に行動を共にしてるし、必要ならコールを使えばいい話しだし。
「あ、アリシーからメールだ」
「あら、もう出来たんですの?」
「もう、というか、頼んでからすでに5時間以上経ってるから出来てても不思議じゃないと思うぞ?」
「そういえばそうですわね」
「うん、そうみたいだね」
メールはアリシーからで、ボクが頼んだちょっとした注文が完成した事を知らせるものだった。
アリシーに頼んだのは何れオーダーメイドの『グラフィックシード』を作ってもらうための試金石というか段階を踏むためのものというか、まぁそれほど難しいものじゃない。
それでも初めての注文ということで、彼の方でも色々と頑張った結果結構な時間がかかってしまったらしく、その辺もメールで謝っていた。
まぁボクとしては別に急いでないし、アリシーの腕は『ミスティックブルーローズ』や『ファレノプシスシールド』を見てもわかるくらいに素晴らしい。
それにタイミングとしてもちょうどいいのもあったので、さっそくボク達はアリシーの隠れた名店のある路地まで行くことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
相変わらず大通りと比べるとがくっと人の数が減るどころかまったくいない路地に、さらに隠れるようにしてアリシーの露店は開かれていた。
ちなみに今の時刻はゲーム内時間では深夜に近いが、プレイヤー達は元気に活動中だ。
なのでアリシーが露店をしていても特におかしいことはない。
……もちろん場所の問題は置いておいて。
「やっほー、アリシーさん」
「あ、ハルさん! ナツさん、アキさんもいらっしゃいませ!」
「「こんばんわ(ですわ)」」
路地に入ってからはすぐに『うさたんキグルミパジャマ』のフードを取っていたのでアリシーもすぐにボク達に気づいてくれた。
最初出会った時のようなビクビクしているような感じはなくなっていて、小動物系の可愛らしさが溢れている。
こんな路地じゃなかったらもっとよかったのに。
「メール見てくれたんですね。あ、あの時間がかかってしまってすみません……。
初めての注文だったので、その……気合が空回りしちゃって……」
「いえいえ、むしろちょうどいいくらいでしたよ。狩りに行ってましたし」
「夜に狩りですか? さすがですねぇ~」
「攻撃パターンとか色々変わっていてなかなか面白かったですよ」
「ボクもいつかは夜時間に狩りとか行けるようになりたいです」
「アリシーさんならすぐですよ、応援してます」
「ありがとうございます。頑張ります!」
アリシーとは良い関係を築きたいとは思っているけれど、だからといって一緒に狩りにいったりしたいとは思わない。
むしろボク達の装備と彼の装備では性能に差がありすぎて両者共に良い思いをしない結果になりそうな気がする。寄生とか寄生とか寄生とか。
なら、アリシー用の装備を作ってあげれば、と思うかもしれないが、それはまた別の話だ。
何よりまだアリシーとは出会ったばかりなんだしね。今すぐどうこうっていうのはちょっと早計すぎる。
「それで、これが注文の品です。ど、どうでしょうか……?」
「どれどれ」
オドオドモードが戻ってきてしまったアリシーだったが、レンタルトレードモードで渡されたアイテムは実に素晴らしい出来だった。
ボクが注文したのは『初級ヒーリングポーション』などのカテゴリーで使えるポーション系アイテムの『グラフィックシード』だ。
アリシーは植物系の装飾が好きなようで、今回のポーションの『グラフィックシード』でも瓶に絡みつく蔦と蓋の部分に描かれた花がとても美しい。
予想よりもずっと出来がよかったのでボクとしては大満足だ。
「素晴らしいですわ」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ、瓶に描かれた蔦の装飾も緻密で、多すぎず少なすぎずちょうどいいバランスですし、蓋の花もとても素晴らしいですわ」
「ありがとうございます!」
「うん、とっても綺麗でボクも大満足だよ」
「よかった、気に入ってもらえて安心しました」
アキの手放しの称賛にとても嬉しそうな笑顔で応えるアリシー。
ナツもアキの言葉に頷いているので2人共気に入ったみたいだ。
双子コンビが気に入っているんだから、そこは当然ボクも気に入っている。
注文した『グラフィックシード』の出来に満足したなら次は代金とポーション系アイテムの『グラフィックシード』をトレードだ。
こちらも特に問題なく終えると、次はプレゼント的な販売アイテムをアリシーに見せる番だ。
「かなり満足のいくものを作ってもらったから、というわけでもないんだけど、実はアリシーにちょっとみてほしいものがあるんです」
「え、えっとなんでしょう?」
「これなんだけど」
レンタルトレードモードで提示したアイテムは夜時間の狩りに行く前にちょちょいと作っておいた『グラフィックシード(空)』だ。
だが店売りの『グラフィックシード(空)』とは全然違う。
店売りの『グラフィックシード(空)』は最低ランクの容量のしょぼいものだ。当然ボクが用意した『グラフィックシード(空)』は最低ランクなどではない。
だがランクの高い『グラフィックシード(空)』の使用には相応の『スキル』Lvが必要となるのであまり高すぎるランクでは宝の持ち腐れになってしまう。
だからボクとしてもステージ数を抑えて作ってみた。あんまり面白くない生産ではあったけれどこれも必要なことだ。割り切るのはとても大事なのです。
「こ、これ!? あ、あの『鑑定証』に総合品質Dって!」
「うん。あ、でもほらちゃんと総合品質GとFのも用意してあるよ」
「あ、ほんとだ。まだボクの『スキル』LvではGまでしか使えないんですけど……D……さすがはハルさん……」
掲示板でも総合品質Dが出来れば称賛されるような状況なので、アリシーの驚きは一般プレイヤーからすれば当然のことだ。
双子コンビは総合品質AとかBの装備やアイテムを使っているから、今更Dなんてランクではがっかりするだけだが、アリシーにとっては高嶺の花のようだ。
一応みせた総合品質GとFの『グラフィックシード(空)』よりも、ずっと総合品質Dの『グラフィックシード(空)』を凝視しているし。
「もしよかったらなんだけど、ボクが作った空グラを買わない?」
「……え……?」
「あぁ、もちろんお馴染みの露店とかあったら無理にとはいわないですけど」
「ありません! たまに露店でも空グラは売ってますけど、ほとんどGばかりで! こんな、こんなDなんて見たことないですよ!
あ、あのあの! いいんですか!? ほんとうに!? あ、でも僕に買える値段じゃないかも……だって……Dなんてそんな……」
一気にテンションが上がって興奮気味に捲くし立てるアリシーだったが、掲示板でも総合品質Dのアイテムの取引価格は結構いい値段になっている。それを思い出したのだろう。
興奮気味だったテンションが一気に下がり、萎んだ風船みたいに力が抜けて俯いてしまった。
まぁそんなことは当然予想の範囲内なのでボクとしては用意していた台詞を言うだけだ。
「Dの空グラは無料で差し上げます」
「ぇ……」
「ただし! アリシーさんがボクの作った空グラでボク達に優先的に色々と作る、という条件が付きますけどね」
「そ、それは全然構いません……っていうかボクに注文してくれた人なんてハルさんが初めてだし……あ、あの……その、ほんとうにいいんですか?」
「えぇ、アリシーさんならすぐにLvも上がってDの空グラも使えるようになるでしょう?
そうしたら容量いっぱいまで使って今までのよりもずっと綺麗で素晴らしいアリシーさんだけの作品をボク達のために作って欲しいんです。
それだけボク達はアリシーさんの作品をとても気に入っているんですからね」
「ぁ……あ、ありがとうございます! 僕、その……こんなに期待してもらったことなんてなくて……本当に、本当にありがとうございます!
絶対このDの……ハルさんの空グラに恥じないのを作ってみせます!」
ボクの言葉に感動して声が上ずっているアリシーだったが、残念ながら『ラビリンス・シード』では涙は未実装だ。
それでも彼のやる気が急上昇しているというのはよくわかる。
勢いが消えないうちにアリシーに追加の注文を伝え、総合品質Dの『グラフィックシード(空)』をいくつか無料で渡し、総合品質GとFは相場通りの値段で取引を済ませる。
GとFくらいなら別にDと一緒に無料でもよかったんだけど、あまり施しを与えすぎるのは返って良くない。
すでに天秤はボクの方にかなり傾いているとはいえ、それでもある程度対等な関係は維持しておきたいものだからね。
「期待していてくださいね! 気合を入れて頑張りますから!」
「わかりました。期待してます。でもあんまり根を詰めすぎないでくださいね。
急ぎというわけでもないですから。アリシーさんのペースでお願いします」
「はい!」
興奮状態がまだまだ抜けないアリシーに一応釘を刺しておくけれど、あんまり効果はなさそうだ。
まぁその辺は彼の問題だ。これ以上ボクが口を挟むことでもないだろう。
ボクは彼の作品が出来上がるのも双子達と一緒にゆっくりと待っていればいいだけだ。
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