ラビリンス・シード

天界

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016 生産、生産、また生産!

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 アリシーの露店のある路地から大通りに戻ってきた。
 まだまだ他のプレイヤー達は元気に活動中だが、ゲーム内時間はすでに深夜を回っておりNPCのほとんどは眠りについている。
 大通りなどの大きな通りはあちらこちらに光源が置いてあるので、昼ほどとはいかなくてもかなり明るい。
 夜空を見上げれば星が瞬いているが、光源の量が量なので埋め尽くすほどは見えない。
 だが現代ではほとんど見ることも出来ない美しい夜空なのは間違いない。
 それでも夜時間の狩りも用事も終わったので一先ずログアウトして休憩だ。星空の鑑賞会はまた今度かな。

 ログアウトして部屋に戻ってくればいつも通りに双子コンビがやってくる。
 ゲーム内でもリアルでも可能なら双子はボクの傍に居たいと思っている、というか本人達もそういっている。ボクとしても別に嫌じゃない。
 さすがに四六時中だとちょっと煩わしく感じるときもあるけれど、それでもやっぱり血の繋がった家族だし、もうボクもいい大人だ。
 まだまだ子供な双子ちゃん達が甘えたいというなら甘えさせるくらいの度量というものは持ち合わせている。
 外見のせいもあって基本的にボクに甘えてくるような人は少ない。
 だからこそ双子コンビが甘えてくるのはボクにとっては嬉しいものでもあったりするのだ。






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 甘えてくる双子コンビに好きなだけ甘えさせてあげてから再ログイン。
 安定の暗転と浮遊感のあとにはすでに夜空はなくなり、今日も晴れ晴れとした青空が広がる『ピタ』に到着だ。
 現実時間で1時間ほどの休憩だったのでゲーム内時間では6時間くらいは経過している。
 ログアウトしたのが深夜すぎだったのですでに朝日と共に活動を始めるNPC達はしっかりと動き始めている。
 プレイヤーの露店だけではなく、NPCの露店や店舗も開かれており、ログアウトする前と比べてずいぶん活気が増しているようだ。
 人通りもずいぶん増え、装備を身につけていない――簡素な服を着たNPC達の営みを見ることが出来る。
 あのNPC達は決まった行動パターンや台詞を繰り返すような存在ではなく、1人1人が高度なAIを搭載しており、現実の人間とほとんど変わりない生活を営んでいる、と公式には書かれている。
 きっと観察すれば本当に普通に生活している光景が拝めるのだろう。
 まぁそんなことすればストーカーとして兵士さん呼ばれちゃうだろうけど。

「兄上、足りない素材を購入、要らない素材の売却をして生産でよろしいですか?」
「うん。休憩中にも言ったけど、今日はちょっと長めに生産するよー」
「「はい、兄上(兄様)」」

 そろそろボクも本腰を入れて生産に取り組みたい。
 1つのアイテムを気合を入れて作ると20分以上かかるようになってしまっている現状ではしっかりと時間を取らないと研究どころか、装備の更新や新規アイテムの作成なんかもままならない。

 双子コンビはボクと長時間別行動を取ることを嫌がる。
 リアルではどうしても活動範囲が違っているから仕方ないが、『ラビリンス・シード』をプレイしている最中くらいはずっと一緒に居たいというのが2人の意見だ。
 なので長時間の生産の場合、ちゃんと2人にその旨を伝えておいた方がいい。
 もちろん双子コンビがボクの提案に否を唱えることなどないのだけれど、それはソレ。親しき仲にも礼儀ありってやつだ。ちょっと違うかな?

 まぁとにかく今日はがっつり生産タイムなのである。






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 街の中では様々な場所で露店を開くことが出来る。
 だがもちろんルールがあり、道のド真ん中や他人の敷地内、すでに露店が開かれているスペースなどには当然開くことはできない。
 それとセーフティエリアにしか露店は開くことができない。つまりは狩場で露店を開くことは出来ないのだ。
 まぁ狩場近くのセーフティエリア――休憩所には出張所感覚で開いている人もいるみたいだけど。

 そんな露店では販売だけでなく、買取を行っているところもある。
 買取はプレイヤーNPC問わずにやっている店とやっていない店があるのは当然として、買取専門だったりする露店もあったりする。
 もちろん店毎に買取額も多少上下したりするし、買取限界量も違う。
 金額を1桁少なくして騙す様な店もあったりするので、急いでいる時などは要注意だろう。

 でもボク達は特に急いでいないのでそういう店には引っかかったりしない。
 すでに【初級人物鑑定術】などを取得して、プレイヤーの名前なんかを盗み見することができるようになったプレイヤーもそれなりの数いるようで、さっそくそういった詐欺師のプレイヤーの名前が掲示板に上がっていたりもする。
 ただ【初級人物鑑定術】を取得して、且つ専用の『アーツ』を使わなければ名前は見れないので取得していてもいちいち確認するのは面倒ということもあり、詐欺師はそれほど減らないみたいだけどね。
 『ラビリンス・シード』は現状では1アカウント1キャラクターまでだし、作り直しも早々簡単にはできない。
 掲示板に詐欺師として名前を晒されたら後々まで響きそうなものだけど、割り切ってプレイしているプレイヤーには効果はあまりないようだ。
 それに現状ではまだ未実装扱いの課金要素で、キャラクター枠を増やす課金があるのはすでに発表されている。
 恐らくそちらでメインキャラクターを作るのだろう。
 ただまぁ、外見はそれほど大きく変えられないのだから解析班、検証班と掲示板で呼ばれているプレイヤー達が調べればバレる可能性は高いと思うけどね。

「兄様、あそこの露店が『クマのシッポ』を1番高く買い取っているようですわ。
 数もかなり買い取っているみたいですし、あそこがいいと思いますわ」
「じゃあそうしようか」
「兄上、『木の根』はあちらが最高買取価格のようです」
「オッケー、じゃあ順番に行こう」

 総合ギルドで売れば最低価格だけど時間はかからない。だが露店で高く売ればそれだけ懐を潤すことが出来る。
 露店で買い物するついで、ということもあるので今回は買取している露店でドロップ品などを売却することにした。

 いつも一緒に行動しているといってもたくさんある露店を3人で一緒に回って値段を調べるのは非効率的すぎる。
 3人いるんだから3人で分けて調べた方が3倍早い。
 長時間調べるならまだしも、少しの時間だったら双子コンビも快く引き受けてくれる。
 子供子供といっても2人共すでに高校生だからね。まぁボクからしたらまだまだ子供だけど。






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 必要素材の買い足しと売却を済ませて懐が大分潤ったところで近くのレンタル生産施設で個別スペースをレンタルする。
 今回は長時間の予定なので最初から長めの時間を借りておいた。

 まずは消耗品の補充からだ。
 投擲するバフデバフアイテムから回復アイテムまでなくなった分をガンガン作っていく。
 ちなみに消耗品系アイテムはそれぞれに対応する『スキル』のLvが大体15か30になった辺りで『一括生産』という『アーツ』を取得する。
 『一括生産』を使うと『スキル』Lvを3で割った分の数まで一度の生産工程で作れてしまう便利な『アーツ』だ。
 ただし発生する追加効果は同じだし、消費する素材の数も制作数分必要になる。
 その上失敗したら制作数分の素材を一度にロストしてしまうというデメリットもある。
 経験値も1つ1つ作るより、少なくなってしまうが必要な時間を考えるとそれくらいは仕方ない。

 ちなみに消耗品系アイテム限定なので装備などには使えない『アーツ』だ。

 『一括生産』を取得していない『スキル』も少しあるのでそちらは1個ずつ作っていくしかない。
 でも『スキル』Lvもガンガン上がっていくのですぐに『一括生産』を取得できるだろう。

 『アーツ』をガンガン使っているとどうしてもMPの消費が問題になってくる。
 とはいっても個別スペースでは自然回復力が高まるからまだマシなんだけどね。
 それでも使い続ければ休憩は必要になる。
 そこで登場するのがこのアイテムだ――

 ====

 初級マナポーション/20

 総合品質:A-

 追加効果:
 使用回数増加/B 回復量増加/A+ 光魔法補正増加/A+ 刺突耐性増加/A HP自然回復増加/A+
 持続時間増加/B- ポーションディレイ低下/A

 ====

 前回の生産時に作っておいたMPを回復させるポーションだ。
 安定の総合品質と追加効果で、ボクのMP量なら1回の使用で完全回復してくれる。
 【MP】系統の『スキル』を取ってもっと最大MP量を増やした方が効率はいいんだが、育てるのが地味に大変だし、生産で使う『アーツ』は基本的に今のボクの最大MP以上を使うなんてことはない。
 なので『初級マナポーション』があれば十分なのだ。

 ちなみに『初級マナポーション』は北のフィールドで取れる素材だけでは作ることが出来ない。
 なのでボクが作る場合は他のフィールドで採取してくるか、露店などで売っているのを買うしかない。
 こういうときに露店は便利で大変よろしい。全然上がっていない【採取】のLv上げも兼ねて取ってくるのもいいかもしれないがやっぱり露店で売ってるとつい、ね。

 そんなわけでMP休憩というタイムロスをごっそり省くことに成功しているのでガンガン作っていく。
 『魔法の鞄』の枠の問題もあるので作りすぎても持ち運べないからある程度は『倉庫』に寝かせることになるけれど、肥やしになるわけじゃないんだから別に問題ないだろう。
 投擲用の消耗品アイテムはボクだけが持っていくわけじゃないしね。
 対応する『スキル』がなくても使えるので双子コンビにもそれぞれいくつか持たせてある。
 特にバフ系アイテムをメインに。デバフ系アイテムは保険の保険程度だ。

 1時間半くらいかけて消耗品の補充を終えると、次は双子コンビの装備の更新だ。
 アリシーの『グラフィックシード』は部位、カテゴリー別に色々と購入してある。
 なのでその中から『ミスティックブルーローズ』や『ファレノプシスシールド』のデザインに合う物を選んでバランスよく更新していく。

 いくら双子コンビが見た目が合ってなくても戦闘できるといってもやっぱりオシャレはしたいじゃない。
 特にアキは女の子なんだし、そういうところには気を配ってあげないといけない。
 もちろんナツも同じだ。男だからといってそういう部分をないがしろにするのはよくない。
 ただまぁ、どうしてもこういった部分での比重は女の子に傾いてしまうのだけどね。これは仕方ないことだ。ちゃんとナツも納得しているので問題もない。

 蒼を基調とした『グラフィックシード』を使ってアキの装備を整えていく。
 『ミスティックブルーローズ』は足先から膝までを完全に覆ってしまう見た目重装備なので他の部分もそれに合わせると完全に重装プレイになってしまう。
 重そうな外見でも高速で動いて敵を打ち倒す、というのは浪漫があっていいけれどボクのアキにはちょっと微妙。
 なので急所をしっかりと保護してある軽装な『グラフィックシード』を使って作ることにした。
 とはいっても装備の外見と防御力は当然比例しない。
 ただの布が頑丈な鎧部分よりも防御力が高いなんてことはよくあることだ。
 つまりはビキニアーマー理論が成り立つということである。まぁボクのアキにそんなものは絶対着せないけどね。

 ナツの装備は白と黒を基調した『グラフィックシード』を使う。
 軽装のアキとは違って、タンカーであるナツにはどっしりとした完全武装な重装備だ。
 まるでどこぞの全身甲冑の騎士のような『グラフィックシード』一式を使っているので統一感は完璧だ。
 これに『ファレノプシスシールド』を持たせればもうどこからどうみても一端の聖騎士である。
 ナツが目指すパラディンプレイを外見から踏襲していて本人もすごく喜んでくれている。






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 個別スペースレンタル開始からおよそ5時間ほどで消耗品の補充や装備の更新が漸く終わりを迎えそうだ。
 ここまでボクはほぼノンストップで生産し続けている。
 第3世代遊戯用没入型仮想現実機器――『ヴィーナス』で音ゲーをプレイしていた時もこれくらいは連続プレイしていたので特に問題ない。やっていることは同じだしね。

 双子の装備も全てアリシーの『グラフィックシード』で一新したし、性能もそれに伴って向上している。
 アキの装備は蒼を基調とした――『マリンシリーズ』と『ブルースカイシリーズ』の一部を使い、ナツの装備は白と黒を基調とした――『アークシリーズ』を使っている。
 一新した装備をつけた可愛い双子達を見ているとボクも自分の新しい装備を作りたくなるけれど、『うさたんキグルミパジャマ』の性能がとてもいいので『認識阻害/C+』以上の追加効果が発生するまではお預けだろう。
 この辺は有用すぎる追加効果が発生してしまった場合の弊害だろう。

 まぁボクの戦闘方法なら装備は今のままでも問題はない。
 ボクの役目は基本的に補助だからね。

 レンタル時間はまだもうちょっとあるので新装備の慣らしも兼ねた狩りについて話し合っておこう。

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