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004 狩りは前菜、メインは生産
しおりを挟む予定の2時間が経過する前に受けたギルドクエストが全て完了したので一度『ピタ』に戻ることにした。
この狩りだけで最終的にボクの『スキル』はこうなった。
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【観察/Lv5 ↑4UP】【鍛冶/Lv1】【裁縫/Lv1】【錬金/Lv1】【採取/Lv4 ↑3UP】
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まぁまぁの上がり具合といえるだろう。
ナツとアキも武器系統の『スキル』がLv6となり、ほぼ戦闘系『スキル』で固めているので他の『スキル』も軒並みLvアップしている。
戦闘系『スキル』の方が上がりがいいのはリスクをおかしているからだ。そのうち生産系『スキル』を上げるときには素材を使用するというリスクをおかすのだから同じくらいの速度であがってくれるだろう。
北門フィールドもボクの予想通りに時間が経つにつれ混雑具合が増してきていたが、それでもMOBを探すのに苦労するというほどではなかったのは幸いだ。
街に戻ってくるとすぐに北の総合ギルドでクエスト完了の報告と報酬を受け取る。
得た素材は今回は売らず、ボクの生産のために残しておくことにした。
それでも2時間もかかるクエストをこなしたので割と美味しい報酬を受けとることが出来た。
これで必要なアイテムを補充して今度はボクのターンだ。
『ラビリンス・シード』の生産で必須となるのは、素材、設備、『スキル』、『レシピ』、『グラフィックシード』の5つである。
素材はたっぷり狩ってきたので問題なし。
設備は初級携帯セットがあるがせっかく街にいるので生産用のレンタル施設を借りることにする。
『スキル』はもちろん取得しているので問題なし。
問題は残りの2つ。
『レシピ』と『グラフィックシード』だ。
だが序盤も序盤で躓くことがよくある他のVRMMORPGの生産とは違って、『ラビリンス・シード』の生産は高難易度ではない。
『レシピ』は各種生産ギルドで初級用の簡単なものが販売されており、『グラフィックシード』も同様に色んな店で売っている。
『グラフィックシード』というのは生産で必須となるアイテムで、最終的な外見を決定する重要なアイテムだ。
素材や作業工程を如何に工夫し、変化させても最終的な外見は『グラフィックシード』に依存するのが『ラビリンス・シード』の生産である。
美的センスが壊滅的であっても、どんなに不器用であっても外見を取り繕える。開かれた生産分野の一助となるのには間違いないアイテムだ。
もちろん自身で外見を設定したい従来の生産プレイヤー達のためにも『グラフィックシード』はカスタマイズが可能となっている。
というか、それが『ラビリンス・シード』の売りの1つでもあったりする。
自由に好きな見た目のアイテムを作れるのだ。
そのうち『グラフィックシード』専門の職人なんかも出てくるだろう。実際にβテストですでに何人か自身が作成した『グラフィックシード』を販売していたプレイヤーもいたくらいだ。
まぁまだ開始2時間ではさすがにそんなプレイヤーはいないみたいだけど。
「とりあえず必要な『レシピ』も購入したし、さっそく設備をレンタルしにいこうか」
「「お供します(わ)、兄上(兄様)!」」
生産では双子コンビは『スキル』的に役に立たない。生産は生産、戦闘は戦闘と分けて行動した方が効率的ではあるが、別にボク達はトッププレイヤーを目指しているわけでもない。
2人の目的はボクと一緒に『ラビリンス・シード』を楽しむこと。
だから非効率なプレイでも楽しければいいのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レンタルできる設備には共用スペースと個別スペースがある。
両方とも数に限りがあるが、レンタル施設は『ピタ』には無数に存在するので混んでいたら違う施設にいけばいいだけの話だ。
だが今回は序盤も序盤だけあり、北門近くのレンタル施設でスペースを借りることができた。
共用スペースは実は無料で使えるのでまだまだお金に余裕がないボク達は共有スペースで生産活動をすることにする。
共有スペースでは周りのプレイヤー達にもどんな生産をしているか筒抜けになってしまうというデメリットがある。
だが序盤も序盤の状況でその程度のデメリットはデメリットにもならないだろう。
『レシピ』だって店売りのものだし、素材だってレアな物は一切ないわけだし。
「さてまずはヒーリングポーションの補充から始めようかな」
仲良く並んで椅子に座っている双子コンビの熱い視線を受けながらボクは準備を進める。
双子の熱視線なんて慣れっこなボクとしては大した問題はない。
双子が熱い視線をボクに送っているのを覗いてくるプレイヤーがいるのはいつものことなので当然無視。
『初心者セット』に入っていた『初心者用ヒーリングポーション』と『初級ヒーリングポーション』はまったくの別物だが、『初心者用ヒーリングポーション』の『レシピ』は販売されていないのでこちらを作る。
すぐに『無印スキル』はLv10になるだろうし、どちらにしても『初級ヒーリングポーション』は必要だ。
そんな『レシピ/初級ヒーリングポーション』は錬金系の生産としては最低難易度のものだ。
『レシピ』には必要な素材と工程が書かれており、その通りに生産することでほとんどの場合は完成する。
難易度が高いアイテムになってくると『スキル』Lvなどや素材の品質なども絡んでくるので必ず成功するわけではない。
『レシピ』に書かれている素材や工程に改変を加えることにより、独自の『レシピ』を作り出すことも出来る。
個別スペースが存在するのは独自の秘密の『レシピ』を盗まれないようにするための配慮だったり、集中して生産したりしたいプレイヤーへの配慮だったりする。
『ラビリンス・シード』での初の生産ということもあり、最初は特に何も改変しないでやろうと思っていたのだが、やはり生産のシステムアシストを見てしまうと悪乗りしてしまうのがボクだ。
『ラビリンス・シード』は従来のVRMMORPGのようなリアル志向の生産も出来るが、システム的なアシストで補助することにより、ライトユーザーでも生産活動に気軽に参加できるようになっている。
そのシステムアシストというのが、ただの補助行為ではなく……なんと工程のミニゲーム化なのだ。
リアル志向の生産の場合、『初級ヒーリングポーション』の作業工程は素材となる『薬草』を乾燥させ、すりつぶし、霊水を適量加えて煮込み、最後に【錬金】の初期『アーツ』である『変質』を使用することで完成となる。
もちろんこれらを真面目にやっていては時間がかかりすぎるのでそれぞれの工程はかなり時間短縮の意味で簡略化されてはいる。
ちなみに『アーツ』とは『スキル』ごとにある必殺技的なものだ。使用時にMPを消費したりするが必殺技だけあり、非常に有用だ。
【錬金】だけではなく、戦闘系の『スキル』にも『アーツ』はたくさん存在している。
ただ初期段階から『アーツ』が使えるのは生産系の極一部だけだ。
リアル志向の生産ではこれだけの工程が必要だが、システムアシストを使って『初級ヒーリングポーション』の工程をミニゲーム化すると、たくさんあるミニゲームの中から3つのミニゲームを選んで一定以上のスコアを出すだけで『変質』を使う前までの工程が完了するという手軽さだ。
リアル志向の場合、工程で独自性を出すために様々な工夫を凝らすことが出来るが、システムアシストを利用する場合はそういった工夫は望めない。
その代わり、工程数、つまりミニゲームの量を増やし、各ミニゲームでのスコアを調整することによって独自性を出せるようになっている。
そのミニゲームこそがボクがこの『ラビリンス・シード』をプレイする理由の1つだ。
「むふふ……27thがある……IIIXもあるじゃないか。……おぉ! あのマイナー音ゲーのシャカシャカリズムまである! これは捗る!」
「兄様楽しそうですわ……!」
「さすがは兄上……よい笑顔です!」
ミニゲーム選択ウィンドウに表示される数多くのミニゲームの中からボクの大好きな大好きな大好きな! 音ゲーを次々と選び出していく。
音ゲー。
音楽ゲームと呼ばれるゲームには独自の筐体機を持つゲームが数多く存在する。
オーソドックスなところではパネルを足で踏んで操作するタイプや、白鍵と黒鍵とスクラッチディスクで構成されるタイプ。太鼓やドラム、ギターなど様々な筐体機が存在し、これら音ゲーは古い歴史を持っている。
基本的には流れてくるターゲットにタイミングを合わせて操作し、コンボ数やスコアを競うゲームだ。
だが難易度が高くなってくれば頭がおかしいという表現がぴったりの濁流のようなターゲットの嵐が普通になってくる。覚えゲーの一種でもあるが、慣れと反射でも似たようなことはできる。
数多くのアーティストとコラボし、一時期は有名アイドルやアーティストが専用の曲まで出すほどの黄金時代を築いたが昨今ではそこまでの勢いはなくなっている。それでも消えることなく、次々と新しいタイトルを打ち出し続けている。
ボクはこの音ゲーにはまりにはまり、はまりすぎて過去に登場し、あっという間に消えていった幻の筐体まで含めて全てプレイしている。まぁもちろんVR内だけどね。
VRのいいところはこういった幻の筐体も手軽にプレイできることだろう。何せデータさえあれば復元することは容易なのだ。クオリティを無視すればだけど。
『クロノス』が届いた時にプレイしていたゲームも音ゲーだ。
黄金時代に組まれた最凶の一角とされる超高難易度のエディット譜だが、ボクにとっては肩慣らし程度にしかならない。そのくらいやりこんでいるのだ。
ついつい懐かしのタイトルまで目にしてしまったので次々とミニゲームを選択してしまった。
本来は最低3つのミニゲームを選択するだけでいいのに悪乗りがすぎて、その数はなんと12まで増えてしまった。
だが後悔はない。だってプレイしたいもの。
さっそく選択したミニゲームが始まる。
だが最低難易度の『レシピ』ではミニゲームの難易度も知れたもの。
肩慣らしにもならない簡単すぎて欠伸が出るようなレベルだが、久しぶりに聞く曲と譜の構成のおかげで楽しめる。
『ラビリンス・シード』のミニゲームは規定のミニゲーム数までは生産対象と生産『スキル』の兼ね合いで難易度が決定される。
しかしそれ以上の改変行為となるミニゲーム数の増加は難易度を跳ね上げていく仕様となっている。
要するに『初級ヒーリングポーション』の規定ミニゲーム数である3を超えた途端に難易度は一気に跳ね上がるのだ。
数も少なくスローペースだったターゲットが急激に数を増し、曲調を無視した速さで舞い降りてくる。
これぞ難易度を上げれば上げるほど曲を無視するようになる音ゲーの真骨頂だ。
一部ハイテンポの曲にはマッチしたりもするがスローペースの曲だったりすると恐ろしいほどにターゲットと曲が合わず、そのミスマッチさに難易度がさらに跳ね上がったりするが、ボクにとってはその程度何の意味もない。
マラカス型の筐体を完璧なタイミングで振り、ターゲットを次々と消滅させれば、次は8つのフットパネルを操作する伝説の筐体機へと移り、足だけじゃなく両手までも駆使したまるでブレイクダンスのような操作方法で次々ターゲットを打ち崩していく。
最早それゲームじゃないよね、と言われるほどの実際のダンスのような曲芸のような動作も織り交ぜてミニゲームは進行していく。
そして最終ステージとなる12個目のミニゲームはオーソドックスな白鍵3、黒鍵2にスクラッチディスクの構成となる定番中の定番の音ゲーだ。
だが流れてくるターゲットはこれまで以上のまるで台風と竜巻が合体し、地震と火山噴火が同時に起こったかのような天変地異も斯くやというほどの凄まじいものだ。
従来の上から下へ流れてくるようなものではない、全方位から迫ってくるターゲットは息つく暇など決して与えてくれない。
だがボクにとってはまだまだ。こんなものでは満足できない。
しかして選んだミニゲームは12。
あっという間に全てのミニゲームは終わってしまった。
最後の狂乱の嵐のような譜は見るべきものが多少はあった。これなら十分楽しめそうだ。
自然と笑みが漏れるがそんなボクの高揚感は背後から上がった大歓声によって消し飛んでしまった。
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