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第1章
16,やってきました、ラッシュの街
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真っ赤に染まった平原に巨大な石壁が唐突にそそり立っている。
石壁も2つの太陽の光を浴びて、赤く染まってその威容をさらに際立たせていた。
平原は今まで通ってきた草原に比べると格段に歩きやすく、少し先には街道のような草の生えていない道が石壁に向かって続いている。
その道が石壁とぶつかる位置に大きくアーチ状に口を開いた場所がある。あそこが門だろうか。
とりあえずの目的地を見定めると、完全に太陽が落ちきる前に到着するため転移をしようとするが、MPが足りなかったからか不発に終わってしまった。
慌てて出しっぱなしのステータスに目を向けると、MP:15/132#(+2)の表示が目に入った。
複数転移Lv1の消費MPは25だから、15では当然使えない。
MPが十分にあり、スキルが正常に発動すると、そのスキルが開始されたのが明確にわかる。
だが、MPが足りなければ発動せず、開始された感覚も感じられないのがわかった。
残りMPを全部消費して、注意されていた激しい嘔吐や眩暈が発生するわけではないようだ。
転移できないので、少し小走りで街道まで行きそのまま道に沿って歩き始める。
回復したら、すぐに転移して距離を縮めたいところだ。もう門は遠めにだが視認できる位置に来ている。
遠目から見てもかなり大きかった石壁は、近づくに連れてその威容を益々大きくしていく。
これだけの大きさの壁が必要なほど危険なところなのだろうか。
それともこれは所謂示威行動の結果なのだろうか。
創造神はこの世界は平和だと言っていた。つまりここは歴史のある街なのだろう。
大昔の戦争の名残として残った石壁は住民からは信頼を、外からの脅威には堅固な盾として機能しているのかもしれない。
まぁ……予想だけど。
適当に想像しながら街道を歩いていく。ずいぶん傾いた2つの太陽は地平線に沈みかけている。
赤かった世界が、ゆっくりと黒に塗りつぶされんとしている様は、急いでいなければゆっくりと楽しみたいほどの光景だ。
だが、今は急いでいる。のんびり歩いている場合ではなくなってきた。
ステータスウィンドウを見れば、すでにMPは40を超えている。
さっさと距離を詰めるとするか。
複数転移Lv1を念じて限界距離をターゲッティング。ターゲットされた場所は門から少し離れている。まだ距離があるようだ。
だが、十分距離を詰めることができることには変わらない。
さっそく転移すると門を閉め始めようとしていた、長槍を持った兵士のような格好をした人がこちらに気づいたようだ。
「おーい、おまえら! もう門を閉めるから入るなら早くこーい!」
「あ、はーい。今行きまーす」
かなりの大声で兵士がこちらに声をかけてくるので、こちらも出せるだけの大声で返答する。
大声で返したので聞こえたのだろう。門を閉めようとしている兵士の動きが止まり、待ってくれている。気配察知の範囲外なのか気配は感じられない。
視界に入る位置にいても気配がわからないっていうのは、なんだか不思議な感じがする。
獣の窟では相手を視認できる位置で気配が感じられないなんてことはなかったからだろう。元々気配なんて感じられないのが普通なのに……慣れって怖い。
小走りで門まで近寄ると、兵士は1人ではなく3人居た。
全員簡単な鎧で武装し、長槍を持っている。
ぱっと見、ちょっと凝ったコスプレ集団のように見えなくもない。
だが、その鎧には細かな傷がいくつもついている。
暗くなり始めた世界でも、門で焚かれている篝火がその歴史が刻まれている鎧の勇猛な姿をありありと見せ付けていた。
「おまえ達見ない顔だな。こんな時間まで子供だけで外にいるのは危ないぞ。さっさと中に入れ」
3人居る兵士の中でも、髭を生やした大柄な兵士がこちらを見てすぐに中に入れと、ジェスチャーも交えて言ってくる。
身分証とか提示しなくてもいいのだろうか。この街の警備はずいぶんとざるなようだ。
「ぶ、分隊長……だめですよ、子供でもちゃんと身分証ださせないと。
そっちの少年なんてどこからどうみても貴族仕えの執事じゃないですか」
「あ? あぁ……確かにそうだな。おいおまえ、身分証はあるか?」
「すみません、旅の途中で魔物に襲われた際に荷物事身分証を落としてしまったようで、出来れば冒険者ギルドで再発行してもらおうかと」
「あーそりゃ災難だったな。まぁこれも一応仕事なんでな。
とりあえず荷物はー……身に着けてるのだけか、ほんとに災難だったな」
「はい、よろしいですか?」
「あぁ、ちょっと待ってろ。おいアレ持って来い」
「へーい」
事前に門で身分証の提示を要求された際の言い訳を、話し合っておいて正解だった。
幼女の自分が前に出るのではなく、アルが前に出て話すというのも事前の打ち合わせ通りだ。
魔物に襲われるのと盗賊に襲われるのではどっちがいいかと思ったが、平和な世界で盗賊がいなかったら怪しまれると思って、存在が確定している魔物にしたのだ。
問題は身分証が提示できない理由があっても街に入れてくれるかどうかだったが、分隊長と呼ばれた兵士が残った兵士の方に窘められる前にすぐ入れようとしていた。
そこまでガチガチな検査やチェックがあるようには思えない。
「ロウハ分隊長ーもってきやしたよー」
「おう、ご苦労」
何か板のような物をもって戻ってきたチャラい喋りの兵士から、その板を受け取ったロウハと呼ばれた分隊長は板をこっちに差し出してくる。
「この板に手の平を乗せてくれ。まぁ所謂犯罪者チェックってやつだ。
あんまり気張らんでも問題ないだろう。ちゃちゃっとやっちまえ」
なんとも適当な分隊長だ。オレ達のような子供が犯罪をするとは思ってもいないような感じだな。
この世界はよっぽど平和なんだろうか……。
まずはアルが板に手を置くと、板が青く光った。分隊長がよし、と頷くと次は屈んでオレに目線を合わせようとするが、如何せんでかいので目線は合わなかった。
「よし、嬢ちゃんの番だ。この板に手を載せるだけだ、ほれ」
どうやら青く光ると問題ないようだ。まだこの世界に来て1日経ってない。犯罪なんて犯した覚えもないので別段緊張することもなく板に手を乗せる。
スキルを使った時のようなMPが抜けていく感じがして、板が青く光る。量的に1だろうか。
MPを吸ってそれを動力にしているんだろうか。それともMPで犯罪を判定しているのか。
「よし、2人とも問題なしだ。ようこそラッシュの街へ。
もう日が落ちてるからな。次はもう少し余裕を持って来るといい。
身分証もギルドですぐに再発行してもらえるだろう。冒険者ギルドはこの道をまっすぐ行った突き当りのでかい建物だ。わかりやすいから迷う心配もないぞ
だが、急ぎじゃないなら役所の方にしたほうがいいぞ。役所なら冒険者ギルドから左にまっすぐ行った大きな建物だ。もう閉まってるから明日になっちまうが、今冒険者ギルドなんかに行くよりはマシだ」
「わかりました。それでは失礼します」
軽く頭を下げるアルに手を引かれて門を潜って行く。
分隊長達3人の横を通る時にぺこりとお辞儀をすると、3人とも笑顔で手を振ってくれた。
「今冒険者ギルドに行くのはやめた方がいいぜー」
「身分証なしでも泊まれる宿はあるから、明日役所に行くのが賢明だよ」
笑顔で他の2人も助言してくれる。
幼女ってのは便利なもんだ。あっさりと好感度がプラス方向だよ。
門番はそういう助言を全員にするっていう決まりでもあるなら別だけど。
ちなみにアルと手を繋いでいるのも、事前の打ち合わせ通りだ。
これも微笑ましさに拍車をかけているのだろう。計画通りッ!
彼はオレの保護者という設定になっている。兄にしてもよかったんだが、見た目が完全に執事だ。兵士の人も貴族仕えの執事っていってたし、これで兄ではちょっと変だったかもしれない。危ない危ない。
ラッシュの街は石壁に負けないほどかなり大きい街のようだ。
日も落ちて辺りは暗くなっているが、そこら中で焚かれている篝火で昼間とは行かないまでも割と明るい。
門から伸びる道も結構な広さで、人が並んで10人くらいは余裕で通れそうだ。
門に入る前から感じていたが、門の向こう側――街中では気配察知が機能しないようだ。すぐ傍にいるアルすら気配が感じられない。Lvが低いからなのか、それともそういう物なのか……。
実際のところ人出はかなりあり、気配察知が機能していたところであまり意味がないようにも感じられる。
街に入ってすぐに門は大きな音を立てて閉じられる。
ほんとぎりぎりだった。まぁあの様子だったら、多少暗くなってから着いても入れてくれた感じだったがな。
篝火の照らす道には、獣の耳が付いた人、まんまエルフな感じの人、髭もじゃのこれぞドワーフって感じの人、背は小さいけど顔が成人男性のホビットのような人など、様々なファンタジーな人達がわいわい言いながら歩いている。
日が落ちて生前のネオンの人工的な光ではなく、篝火の煌々とした光の中で見る彼らは、なんとも幻想的だった。
創造神は言っていた。
" 楽しめるだろう "
と。
今まさにオレの心はワクワクとドキドキで占められていた。
アルに手を引かれながら辺りをきょろきょろきょろきょろ。完全に御登りさんだ。
そんなオレの様子を綺麗なエルフの女の人が微笑ましそうに見ていたり、ビキニアーマー装備の筋肉なお姉さんがにっこり笑ってくれたり、髪の長いドワーフの女性版のような子が手を振ってくれたりしている。
幼女の見た目は大人気のようだ。これは確かにメリットがでかいかもしれない。
「ワタリ様、予定通りに冒険者ギルドで登録をしてから、お奨めの宿を聞いてチェックインでよろしいですか?」
「……ん? あぁ、うん。予定通りで。
さっさと身分証手に入れちゃおう。役所だと明日にならないとだめっぽいし、宿とかどこにあるのかわからないし。
冒険者ギルドで斡旋とかしてそうだし、斡旋してなかったらお奨め聞けばいいしな」
これも事前に話してある。
ラッシュの街についたら、まず冒険者ギルドに行って加入する。すると身分証を発行してもらえるのだ。身分証は他にも各種ギルドや役所なんかの行政施設なんかでも発行してくれるらしいが、オレ達は冒険者ギルドでクエストをこなす予定もあるので、冒険者ギルドで発行してもらうことにしている。
この身分証があると、さっきの門でも見せるだけで通ることができるようになる。
今回は持ち物も身につけている分しかないから検査も簡単だったが、荷物があるとその辺も全部調べるんだろう。
アイテムボックスの中身はどうするのかと思うが、ウィンドウは他人に見せることができない。
多分さっきの板でアイテムボックスにやばいもんでもあったら判定されるんだろう。
アルもその辺までは知らなかった。基礎の基礎の教本というのは、身分証の入手方法やその身分証の利用方法は載っていても、危険物の判定方法までは載せていないようだ。
というわけで、分隊長が教えてくれた通りの場所まで手を引かれていく。
結構人出もあり、手を繋いでいないと迷子になりそうだ。
こんな知らない街で、いきなり迷子はさすがに勘弁だ。
男と手を繋ぐなんてちょっとどうかと思うが、不思議と嫌な感じはしなかった。やはりアルは従者だからだろうか。
そんなことを考えながら辺りをきょろきょろ眺めつつ歩いていくと、行き止まりになったかと思うとT字路になっていて、真正面にはかなり大きな建物が見えてきた。
どうやらアレが冒険者ギルドのようだ。確かにわかりやすいでかい建物だ。
ここまで見てきたラッシュの街の建物は全体的に石造りの建物が多い。
少ないながら木造りの建物もあったが、ほとんどが石造りだ。
だが、冒険者ギルドは木造りの建物だった。冒険者が中で暴れたりしたら、直し易いように木製で作っているのだろうか。
筋力増加スキルのすごさを知っているので、石造りの壁程度ならその気になればぶち抜けるのだろう。
だから敢えて壊れても直し易い木製なのだろうか。
まぁオレが直すわけじゃないので、割とどうでもいい。
ギルドの入り口は所謂ウェスタンスタイルの自動で元の位置に戻るあのドアだ。
ちょうど中から鎧を着たごつい数人の男がドアを押して出てきた。
するとちりんちりーん、というなんとも似合わない感じの音が鳴る。
来客を知らせる為のベル代わりなのだろうか。冒険者ギルドという荒くれ者の巣窟といった感じからは、到底思えない音だった。
そんな音に癒されながら、アルが押し開いてくれたドアを潜った。
石壁も2つの太陽の光を浴びて、赤く染まってその威容をさらに際立たせていた。
平原は今まで通ってきた草原に比べると格段に歩きやすく、少し先には街道のような草の生えていない道が石壁に向かって続いている。
その道が石壁とぶつかる位置に大きくアーチ状に口を開いた場所がある。あそこが門だろうか。
とりあえずの目的地を見定めると、完全に太陽が落ちきる前に到着するため転移をしようとするが、MPが足りなかったからか不発に終わってしまった。
慌てて出しっぱなしのステータスに目を向けると、MP:15/132#(+2)の表示が目に入った。
複数転移Lv1の消費MPは25だから、15では当然使えない。
MPが十分にあり、スキルが正常に発動すると、そのスキルが開始されたのが明確にわかる。
だが、MPが足りなければ発動せず、開始された感覚も感じられないのがわかった。
残りMPを全部消費して、注意されていた激しい嘔吐や眩暈が発生するわけではないようだ。
転移できないので、少し小走りで街道まで行きそのまま道に沿って歩き始める。
回復したら、すぐに転移して距離を縮めたいところだ。もう門は遠めにだが視認できる位置に来ている。
遠目から見てもかなり大きかった石壁は、近づくに連れてその威容を益々大きくしていく。
これだけの大きさの壁が必要なほど危険なところなのだろうか。
それともこれは所謂示威行動の結果なのだろうか。
創造神はこの世界は平和だと言っていた。つまりここは歴史のある街なのだろう。
大昔の戦争の名残として残った石壁は住民からは信頼を、外からの脅威には堅固な盾として機能しているのかもしれない。
まぁ……予想だけど。
適当に想像しながら街道を歩いていく。ずいぶん傾いた2つの太陽は地平線に沈みかけている。
赤かった世界が、ゆっくりと黒に塗りつぶされんとしている様は、急いでいなければゆっくりと楽しみたいほどの光景だ。
だが、今は急いでいる。のんびり歩いている場合ではなくなってきた。
ステータスウィンドウを見れば、すでにMPは40を超えている。
さっさと距離を詰めるとするか。
複数転移Lv1を念じて限界距離をターゲッティング。ターゲットされた場所は門から少し離れている。まだ距離があるようだ。
だが、十分距離を詰めることができることには変わらない。
さっそく転移すると門を閉め始めようとしていた、長槍を持った兵士のような格好をした人がこちらに気づいたようだ。
「おーい、おまえら! もう門を閉めるから入るなら早くこーい!」
「あ、はーい。今行きまーす」
かなりの大声で兵士がこちらに声をかけてくるので、こちらも出せるだけの大声で返答する。
大声で返したので聞こえたのだろう。門を閉めようとしている兵士の動きが止まり、待ってくれている。気配察知の範囲外なのか気配は感じられない。
視界に入る位置にいても気配がわからないっていうのは、なんだか不思議な感じがする。
獣の窟では相手を視認できる位置で気配が感じられないなんてことはなかったからだろう。元々気配なんて感じられないのが普通なのに……慣れって怖い。
小走りで門まで近寄ると、兵士は1人ではなく3人居た。
全員簡単な鎧で武装し、長槍を持っている。
ぱっと見、ちょっと凝ったコスプレ集団のように見えなくもない。
だが、その鎧には細かな傷がいくつもついている。
暗くなり始めた世界でも、門で焚かれている篝火がその歴史が刻まれている鎧の勇猛な姿をありありと見せ付けていた。
「おまえ達見ない顔だな。こんな時間まで子供だけで外にいるのは危ないぞ。さっさと中に入れ」
3人居る兵士の中でも、髭を生やした大柄な兵士がこちらを見てすぐに中に入れと、ジェスチャーも交えて言ってくる。
身分証とか提示しなくてもいいのだろうか。この街の警備はずいぶんとざるなようだ。
「ぶ、分隊長……だめですよ、子供でもちゃんと身分証ださせないと。
そっちの少年なんてどこからどうみても貴族仕えの執事じゃないですか」
「あ? あぁ……確かにそうだな。おいおまえ、身分証はあるか?」
「すみません、旅の途中で魔物に襲われた際に荷物事身分証を落としてしまったようで、出来れば冒険者ギルドで再発行してもらおうかと」
「あーそりゃ災難だったな。まぁこれも一応仕事なんでな。
とりあえず荷物はー……身に着けてるのだけか、ほんとに災難だったな」
「はい、よろしいですか?」
「あぁ、ちょっと待ってろ。おいアレ持って来い」
「へーい」
事前に門で身分証の提示を要求された際の言い訳を、話し合っておいて正解だった。
幼女の自分が前に出るのではなく、アルが前に出て話すというのも事前の打ち合わせ通りだ。
魔物に襲われるのと盗賊に襲われるのではどっちがいいかと思ったが、平和な世界で盗賊がいなかったら怪しまれると思って、存在が確定している魔物にしたのだ。
問題は身分証が提示できない理由があっても街に入れてくれるかどうかだったが、分隊長と呼ばれた兵士が残った兵士の方に窘められる前にすぐ入れようとしていた。
そこまでガチガチな検査やチェックがあるようには思えない。
「ロウハ分隊長ーもってきやしたよー」
「おう、ご苦労」
何か板のような物をもって戻ってきたチャラい喋りの兵士から、その板を受け取ったロウハと呼ばれた分隊長は板をこっちに差し出してくる。
「この板に手の平を乗せてくれ。まぁ所謂犯罪者チェックってやつだ。
あんまり気張らんでも問題ないだろう。ちゃちゃっとやっちまえ」
なんとも適当な分隊長だ。オレ達のような子供が犯罪をするとは思ってもいないような感じだな。
この世界はよっぽど平和なんだろうか……。
まずはアルが板に手を置くと、板が青く光った。分隊長がよし、と頷くと次は屈んでオレに目線を合わせようとするが、如何せんでかいので目線は合わなかった。
「よし、嬢ちゃんの番だ。この板に手を載せるだけだ、ほれ」
どうやら青く光ると問題ないようだ。まだこの世界に来て1日経ってない。犯罪なんて犯した覚えもないので別段緊張することもなく板に手を乗せる。
スキルを使った時のようなMPが抜けていく感じがして、板が青く光る。量的に1だろうか。
MPを吸ってそれを動力にしているんだろうか。それともMPで犯罪を判定しているのか。
「よし、2人とも問題なしだ。ようこそラッシュの街へ。
もう日が落ちてるからな。次はもう少し余裕を持って来るといい。
身分証もギルドですぐに再発行してもらえるだろう。冒険者ギルドはこの道をまっすぐ行った突き当りのでかい建物だ。わかりやすいから迷う心配もないぞ
だが、急ぎじゃないなら役所の方にしたほうがいいぞ。役所なら冒険者ギルドから左にまっすぐ行った大きな建物だ。もう閉まってるから明日になっちまうが、今冒険者ギルドなんかに行くよりはマシだ」
「わかりました。それでは失礼します」
軽く頭を下げるアルに手を引かれて門を潜って行く。
分隊長達3人の横を通る時にぺこりとお辞儀をすると、3人とも笑顔で手を振ってくれた。
「今冒険者ギルドに行くのはやめた方がいいぜー」
「身分証なしでも泊まれる宿はあるから、明日役所に行くのが賢明だよ」
笑顔で他の2人も助言してくれる。
幼女ってのは便利なもんだ。あっさりと好感度がプラス方向だよ。
門番はそういう助言を全員にするっていう決まりでもあるなら別だけど。
ちなみにアルと手を繋いでいるのも、事前の打ち合わせ通りだ。
これも微笑ましさに拍車をかけているのだろう。計画通りッ!
彼はオレの保護者という設定になっている。兄にしてもよかったんだが、見た目が完全に執事だ。兵士の人も貴族仕えの執事っていってたし、これで兄ではちょっと変だったかもしれない。危ない危ない。
ラッシュの街は石壁に負けないほどかなり大きい街のようだ。
日も落ちて辺りは暗くなっているが、そこら中で焚かれている篝火で昼間とは行かないまでも割と明るい。
門から伸びる道も結構な広さで、人が並んで10人くらいは余裕で通れそうだ。
門に入る前から感じていたが、門の向こう側――街中では気配察知が機能しないようだ。すぐ傍にいるアルすら気配が感じられない。Lvが低いからなのか、それともそういう物なのか……。
実際のところ人出はかなりあり、気配察知が機能していたところであまり意味がないようにも感じられる。
街に入ってすぐに門は大きな音を立てて閉じられる。
ほんとぎりぎりだった。まぁあの様子だったら、多少暗くなってから着いても入れてくれた感じだったがな。
篝火の照らす道には、獣の耳が付いた人、まんまエルフな感じの人、髭もじゃのこれぞドワーフって感じの人、背は小さいけど顔が成人男性のホビットのような人など、様々なファンタジーな人達がわいわい言いながら歩いている。
日が落ちて生前のネオンの人工的な光ではなく、篝火の煌々とした光の中で見る彼らは、なんとも幻想的だった。
創造神は言っていた。
" 楽しめるだろう "
と。
今まさにオレの心はワクワクとドキドキで占められていた。
アルに手を引かれながら辺りをきょろきょろきょろきょろ。完全に御登りさんだ。
そんなオレの様子を綺麗なエルフの女の人が微笑ましそうに見ていたり、ビキニアーマー装備の筋肉なお姉さんがにっこり笑ってくれたり、髪の長いドワーフの女性版のような子が手を振ってくれたりしている。
幼女の見た目は大人気のようだ。これは確かにメリットがでかいかもしれない。
「ワタリ様、予定通りに冒険者ギルドで登録をしてから、お奨めの宿を聞いてチェックインでよろしいですか?」
「……ん? あぁ、うん。予定通りで。
さっさと身分証手に入れちゃおう。役所だと明日にならないとだめっぽいし、宿とかどこにあるのかわからないし。
冒険者ギルドで斡旋とかしてそうだし、斡旋してなかったらお奨め聞けばいいしな」
これも事前に話してある。
ラッシュの街についたら、まず冒険者ギルドに行って加入する。すると身分証を発行してもらえるのだ。身分証は他にも各種ギルドや役所なんかの行政施設なんかでも発行してくれるらしいが、オレ達は冒険者ギルドでクエストをこなす予定もあるので、冒険者ギルドで発行してもらうことにしている。
この身分証があると、さっきの門でも見せるだけで通ることができるようになる。
今回は持ち物も身につけている分しかないから検査も簡単だったが、荷物があるとその辺も全部調べるんだろう。
アイテムボックスの中身はどうするのかと思うが、ウィンドウは他人に見せることができない。
多分さっきの板でアイテムボックスにやばいもんでもあったら判定されるんだろう。
アルもその辺までは知らなかった。基礎の基礎の教本というのは、身分証の入手方法やその身分証の利用方法は載っていても、危険物の判定方法までは載せていないようだ。
というわけで、分隊長が教えてくれた通りの場所まで手を引かれていく。
結構人出もあり、手を繋いでいないと迷子になりそうだ。
こんな知らない街で、いきなり迷子はさすがに勘弁だ。
男と手を繋ぐなんてちょっとどうかと思うが、不思議と嫌な感じはしなかった。やはりアルは従者だからだろうか。
そんなことを考えながら辺りをきょろきょろ眺めつつ歩いていくと、行き止まりになったかと思うとT字路になっていて、真正面にはかなり大きな建物が見えてきた。
どうやらアレが冒険者ギルドのようだ。確かにわかりやすいでかい建物だ。
ここまで見てきたラッシュの街の建物は全体的に石造りの建物が多い。
少ないながら木造りの建物もあったが、ほとんどが石造りだ。
だが、冒険者ギルドは木造りの建物だった。冒険者が中で暴れたりしたら、直し易いように木製で作っているのだろうか。
筋力増加スキルのすごさを知っているので、石造りの壁程度ならその気になればぶち抜けるのだろう。
だから敢えて壊れても直し易い木製なのだろうか。
まぁオレが直すわけじゃないので、割とどうでもいい。
ギルドの入り口は所謂ウェスタンスタイルの自動で元の位置に戻るあのドアだ。
ちょうど中から鎧を着たごつい数人の男がドアを押して出てきた。
するとちりんちりーん、というなんとも似合わない感じの音が鳴る。
来客を知らせる為のベル代わりなのだろうか。冒険者ギルドという荒くれ者の巣窟といった感じからは、到底思えない音だった。
そんな音に癒されながら、アルが押し開いてくれたドアを潜った。
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