幼女と執事が異世界で

天界

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第2章

24,路地裏の怪しい……

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 雑貨屋で買った物で大きく嵩張る物を選んでアイテムボックスに入れていく。
 もちろん見られないように路地裏に入ってしっかりと人目がない事を確認してからだ。
 まだ買い物をする予定なので、アルに大量の荷物を入れたままのリュックを背負わせておくのはよろしくない。
 アイテムボックスには空きが大量にあるのでぽんぽんと入れていく。
 皿や丼は木製が多く、鍋は鉄製だった。麻袋には各種料理器具が入っていて紙袋では破けてしまうから頑丈な麻袋なのだろう。料理用の各種雑貨も色んなものがあり、大きい物を中心にアイテムボックスに入れていったのですぐにリュックは萎んで軽くなる。
 皿や丼は一纏め扱いのようで、大量に入れたのにも関わらず1枠だ。
 鍋も大きな鍋2つと小さな鍋3つとフライパンが大中小で3つだったが、これも1枠。しかも調理器具のお玉やヘラなんかも一緒の扱いだ。もしかして調理器具の扱いなのだろうか。
 どこまで分類が適当なんだろう……。まぁ楽だからいいけど。
 店で見たランタンも2つ入っていた。火打石は2個セットのが3つ。これも突っ込んでおいた。でも2枠消費。本当に分類が適当すぎて困る。

 リュックにはまだ5分の1くらいは入っていそうだが、持ってみてもあまり重くない。中にはもう1つ別の麻製の袋と紙袋も入っていてその中にはごちゃごちゃと結構色んな物がまだまだ入っているようだ。
 雑貨屋で適当に見回していた時に見た用途のよくわからない道具なんかも入っている。
 どうやらアルにとってはこれも必要な物だったらしい。
 リュックの底の方にはもう1つ紙袋があったが、こちらはきっちりと封がされている。
 取り出してみるとあんまり重くないが砂のような物が入っている感じがする。破けても困るのでこれはアイテムボックスに入れておいた。これも1枠消費。なんなんだろうこれ。
 紙に包まれて梱包されている瓶っぽい何かもあるが、とりあえず軽かったのでそのままにしておいた。アルの音を立てない動きなら割れないだろう。


「アル、このごちゃごちゃ入ってる袋はアイテムボックスに入れなくてもいい?」

「答えは是。その程度の重量の物でしたら問題はないかと愚考致します」

「おっけー。じゃぁこれでよしっと……ん?」

「いかがなさいましたか?」


 麻袋と紙袋をリュックに戻して立ち上がろうとしたところで路地裏の奥の方にある物がチラッと視界に入る。
 店先や窓がすごく汚いけれど、どうやら何かのお店のようだ。
 さっき路地裏に入ったときに人が居ないか一応確かめた時にはなかったはずだ。


「アル……あんなところにお店あった?」

「答えは否。私が記憶している限りではあそこにあったのは廃屋です」

「……なんだろう、ちょっと気になるな……見てみない?」

「……では、私が先行致します。ワタリ様は後方に気を配っていただけますか?」

「おっけーって言っても街中だし、大丈夫じゃないかな?」

「答えは否。宿でも裏路地には気をつけろと忠告されています。警戒はしておくべきかと進言致します」

「おっと。それもそうだな」


 戦闘行為は出来ないって明言しているくせにこういうときは前に出ようとする困った従者君だ。
 でも街中だしいきなり魔物が襲ってくるようなことはないだろうから許可をする。それでもアルの言う通りに忠告された路地裏の悪いヤツラを一応警戒することにした。

 路地裏にあった薄汚い店は通りに面していた雑貨屋と比べても酷い有様だ。
 碌に掃除もされていないのが丸判りの軒先。窓も汚れまくっていて中が見えない。
 灯りも灯っていないのか真っ暗なのが拍車をかけている。この店やってるんだろうか。
 路地裏で建物に囲まれているせいか日光が入らず暗いが、これは決して曇りガラスではないと断言できる汚さだ。

 少し速度を落としてゆっくりとドアノブに手をかけるアル。
 周りはオレが警戒しているけど、狭い路地裏なので人が居たらすぐにわかる。どうして路地裏に入った時にこの店に気づかなかったのだろうか。不思議だ。
 アルも廃屋だと記憶していた。一体どういうことなんだろう。


「ワタリ様。ノブが回りません。鍵がかかっているとしても、まったくノブが回らないというのもおかしな点です」

「ぅん? ノブが回らない?」


 アルが何やらちょっとおかしな報告をしてくる。
 ノブが回らないってどういうことだよ。鍵がかかっていないのにノブが回らないってことは壊れてるのか?

 場所を空けてもらってノブに触れる。冷たいが普通のノブに思える。
 オレの頭の位置より少し上にあるので下から掴み上げるようにして回してみると、少しの抵抗のあとノブは回ってドアは少しだけ押し開けた。


「開いたけど?」

「さすがワタリ様です。このアル、感服致しました」

「いやいや、ほら立って……中入ろうよ」

「うむ。早く入るがいい」

「ッ!?」


 片膝立ちになって頭を垂れるアルにまたかと思いながら立ち上がるように促すと、誰もいないと思っていたドアのすぐ近くから声がしてびっくりしてしまった。
 聞こえた声は野太いしわがれた、年を経て培われた力強さを感じさせる声だった。


「ワタリ様、いかがなさいますか?」

「あ、うん……えっと入ろうか」


 驚いてすぐにアルを盾にするように後ろに回りこんで警戒していると、肉盾君が変わらぬ声音で聞いてくる。本当に盾扱いされても問題ないようだ。自分で言ってたしなぁ。
 でもちょっとは反応してほしいかも。

 少しだけ開いているドアからは、さっき開けた時にはこぼれていなかった光が少しだけ見える。
 先ほどの声の主が灯りでもつけたのだろう。


「失礼します」

「お邪魔しまーす」


 アルを先頭に小汚いドアを潜ると店内の壁には色取り取りの宝石や、それらに負けないような宝飾品が飾られていた。
 数々の煌びやかな宝石達の他にも、鞘の先から柄まで真っ黒な短剣。柄頭につけられた赤い宝石が見事な輝きを放っている長剣など、巨大な両刃の斧や片刃の曲刀など様々な見ただけで1級品と判る武器の数々も飾られている。
 その全てが雑におかれることはなく、全て手入れの行き届いた配置まで計算し尽されたかのような見る者に美しさと荘厳さを感じさせる完璧な配置が為されている。
 軒先とは比べ物にならないほどの綺麗な店内と飾られている煌びやかさと荘厳さを併せ持った品々。
 店の外観からは到底信じられないような光景が広がっていた。


「いらっしゃい。ドアを開けたのはそっちの坊主か?」


 目の前には皺の深く刻まれた強面に髭が顔の6割を占めるほどの老年のドワーフが居た。
 ドワーフの爺さんの質問にアルは首をゆっくり左右に振る。
 するとドワーフの爺さんの鋭い瞳がこちらを射抜く。なんだかものすごい怖い。
 値踏みするような、それでいて全てを見通しているような不思議な視線だった。


「ふむ……信じられんな……この嬢ちゃんがドアを開けたというのか」

「我が主は偉大な方ですので当然です」

「ほぅ……偉大な方ときたか。いいだろう、おい嬢ちゃん。今BaseLvはいくつだ?」

「え、な、なんで?」

「いいから答えんか」

「……お断りします」


 何やらものすごい目力の強い眼光に貫かれるが、ステータスはあまり口外しない方がいいと思っているのでもちろん答えない。身分証代わりのギルドカードには載っていないことだし、おいそれと聞かれて答えるものではないはずだ。
 眼光がさらに鋭さを増すが負けじと睨み返すと、そのまま火花が散りそうなほどのにらみ合いになってしまった。
 一体なぜこんなことになっているのか今ひとつ理解できないが、なんか目を逸らしたら負けの気がする。
 強化されたステータスの何が影響しているのかわからないが、射竦められる様な鋭く威圧感たっぷりの視線にも耐えることが出来る。きっと増加系スキルなしでは無理だったろう。


「……わしの威嚇に怯みもせず睨み返すか……なるほど……大したたまだ」


 しばらくにらみ合っていると突然ふっと視線が和らぐ。顎髭に手をあてて何やらさっきまでの緊迫した空気が一気に霧散してしまった。


「あ、あの……」

「いや、悪かったな。あのドアを開けた物はリピーターの連中以外は久しくいなかったのでな」

「……あのドアは一体なんだったんですか?」

「ふむ? わからんか?
 あのドアには一定以上のステータスを持つ物にしか開けられないように鍵がかかっておるのだ」

「へー……あ、だからアルには開けられなかったのか」

「そのようですね」

「坊主には開けられなかったのか。やはり壊れたわけではないようだな。
 まぁわしの威圧を食らって平然と睨み返してくるようなヤツなら資格も十分だ」


 顎鬚を撫でていた手を腰に当て、ニィっと極悪な笑みを浮かべる老ドワーフ。
 ドアにかかっていた一定以上のステータスが鍵という仕様。
 厳つい如何にも職人といったドワーフ。
 店内の光景。
 これらが導く答えは……。


「ようこそ、ランカスター魔道具店へ。
 わしの店にある品は全てランカスター家が作った特注品だ。そんじゃそこらじゃ手に入らない逸品揃いよ。好きなだけ見ていくがいい」


 極悪な笑みのまま言い放たれた言葉はやはり予想通りの物だった。
 つまりここは所謂隠れた名店ってやつなのだ。

 なんとなく気になったから来てみたら意外なところで意外な掘り出し物をしてしまった気分だ。
 ドワーフの爺さんの言い分が正しいならオレ達は久しぶりの新規の客というわけだ。街で聞いても恐らく情報は仕入れられない類の店だろう。
 なんともラッキーなことだ。


 ドワーフの爺さんがカウンターになっているところに座ってパイプを取り出して吹かし始めると2人で店内の煌びやかな品々を見始める。

 一番近い棚に飾られているネックレスを見てみたが、見る角度が違うと色が変わって見える不思議な石を使用しているようだ。
 その石1つ1つを取ってみても完璧なカッティングといっていいほどの美しさで、それら全てが合わさって出来ているネックレスはさらに豪華さを増幅している。ずっと見ていられるような引き込まれる美しさと魅力を持ち、つい手が伸びそうになってしまう。
 だが、こんな高そうな物は素手で触っちゃいけないような気がしてすぐに手を引っ込める。
 白磁の皿ではそう思わなかったが、この店に置いてある物は桁が違う気がする。


「それは身に着けているだけで魔法抵抗力とMPを大幅に増加させる魔法が組み込んであるタイプだが、おまえさんにはちょっと似合わんだろう」

「へー……」

「ワタリ様ならこちらの方がよろしいかと愚考致します」


 2人共に豪華なネックレスは似合わないといわれてしまった。
 片方はさり気無くだけど、こちらの方が~ってのは結局似合わんと言ってるのと同じだぞ、アル君。
 まぁ正直目に入ったのを見てただけだから別に似合う似合わないはいい。


 ……いいんだが、はっきり言われるとちょっとムッと来るものがある。


 半眼になって、アルが恭しい態度で指し示した物は放置して違うところを見に行く。
 反対側の棚には入った時に目に入った一際際立つ真っ黒な短剣があった。
 これも遠くからでもすごい逸品だっていうのはわかっていたが、近くで見るとよりわかる。
 なんというか、オーラのような物を発している。かなり近づいた時に街中では一部の例外を除いて機能していなかった気配察知に少しだけ反応もあった。
 魔物や人の反応ではない何か。やはり業物とかそういうすごい物は違うということだろうか。


「ほう……嬢ちゃん、それが気に入ったのか?」

「え、えーと……最初見たときから気になってはいたけど……」


 カウンターに腰掛けている老ドワーフが顎鬚を撫でながら感心したような声音で聞いてくる。やはり何かあるのだろうか?


「そいつは実はうちで売ってる中でも別格でな。所有者を選ぶという特殊な剣だ」

「選ぶ……? へー……伝説とかにありがちな設定だなぁ」

「ワタリ様ならば必ずや選ばれると確信しております」


 いつの間にか背後に居たアルがいつもの如く何を根拠にしてるのか不明な確信に満ちたことを言ってくる。
 君の主人はそんなすごい人じゃないよ、アル。


「どれ、ちょっと抜いてみるか? 選ばれれば抜けるが、選ばれなければどんなことをしても抜けん」

「はぁ……」


 軽快にカウンターから飛び降りて黒い短剣をひょいとこちらに渡してくる店主。
 そんな簡単に渡していい物なのかねぇ……。まぁ抜くだけなら別にいいか。どうせ抜けないだろうし。渡した本人もどうせ抜けないだろうという感じがありありと見て取れる。

 手渡された黒い短剣はものすごく軽い。腰に着けている銅の短剣より遥かに軽いが、力強い何かを感じる。まるで短剣自体が熱を発しているかのような温かみもあり、さすがは所有者を選ぶ短剣といったところだ。ファンタジーすぎて逆にワクワクする。

 短剣の柄と鞘を握って引き抜こうとした時だった。
 何か思考のような物が流れてきて、オレの中に確信が生まれる。


 それはこの短剣は抜ける、という確固たる確信。


 短剣がオレのことを所有者として認めたのがはっきりとわかった。


「んっ」


 大した力を加えることもなく、すんなりと抜ける短剣。
 その短剣の刃は柄や鞘同様の漆黒の闇のような黒。引き込まれるかのような魅惑的な黒さが全てを無に帰すかのような禍々しさを彷彿とさせる。


「……馬鹿な」

「さすがでございます、ワタリ様」

「抜けた」


 ポロリと咥えていたパイプを落として呆然としている老ドワーフに抜いた短剣を見せてみる。確信があって抜いたのだけど、ちょっと困ったことをしてしまったのかもしれない。
 彼の表情を見るとそんな気持ちが沸いてくる。
 どう見てもこの店の品の値段は桁がいくつか違うだろう。そんな物をもし買い取れなんて言われたら困る。所有者を選ぶ短剣だから、もしかしたら選んだら他の人を選ばないなんてこともあるかもしれない。
 ちょっと短絡的だったかもしれないな。


「あの……」

「ぁ、あぁ……まさか本当に抜いちまうとはな……その短剣は黒狼石で作った短剣なんだが、俺の作じゃねぇんだ。
 先代の……師匠の作でな。今まで来た誰にも抜けなかったんだが……そうか……おまえさんか」


 何やら懐かしげな柔らかい表情で短剣を見つめながら語りだした老ドワーフ。
 聞きたいのはそういうことじゃないんだがなぁ……。正直誰の作だろうと知ったことではない。今知りたいのはこれは買い取らないといけないかどうかだ。
 といっても買い取れなんていわれても、そんなに出せないぞ。まだ買い物残ってるんだし。


「えっと……これって買い取らないと……?」

「……ああ、その心配をしていたのか。それなら心配いらん。
 師匠も言っていたからな。もしこれを抜けるヤツが現れたらくれてやれってな」

「え、無料で?」

「あぁ、大事に使ってやってくれ。そいつは師匠の残した作品の中でも最高の逸品だからな。まだ俺もその域には達していない間違いなく最高の品だ」

「はぁ……確かにすごいっていうのはわかる……けど……いいんですか?」

「あぁ、師匠の遺言でもあるしな。ぜひ貰ってやってくれ。
 あぁそうだった。その短剣を抜けたらもう1つ渡すように言われてたんだ。ちょっと待っててくれ」

「ぁ、はい」


 そういうと慌てて店の奥に走っていく店主。店をほったらかしたままでいいのだろうか。まぁ何かくれるというのだから貰っておこう。
 無料より高い物はないというけれど、無料なら貰っておくべきだと思う。何か頼まれたら、無理難題だったらばっくれるという方法もあるわけだしな。


「さすがは我が主。このアル、ワタリ様のお力に言葉もございません」

「うーん……選んだのはこの剣だしなぁ……なんか持った時に認めるみたいな思考が流れこんできたんだよね。
 そしたら抜けるって確信してさー」

「ワタリ様は偉大なる方ですので、その短剣もワタリ様のお力を感じ取ったのかと愚考致します」

「……うーん。まぁいいかー無料でくれるっていうんだし。業物なのは見ただけでわかるくらいだしねぇ」


 引き込まれるような漆黒の刃を見ながら高々と翳してみる。
 いつの間にか点いていた天井のランタンからの光を受けても、その黒々とした刃は光を返さない。光を吸収し飲み込むほどの漆黒。震えるくらいの逸品だ。


「すごいよね、これ……」

「凄まじい逸品にございますが、ワタリ様が使う品としては少々足りないかと愚考致します」

「いやいやいや、どこまでオレはすごいやつなのよ」

「ワタリ様はこの世界に並ぶ者のない唯一無二の方にございますので」


 なんだかもうアルの価値観がわからない。そこまでオレに心酔しているとちょっと怖いぞ。ヤンデレ化とかまじでやめてくださいよ?


「待たせたな」


 ちょっと心配しながらアルの顔を見ていると老ドワーフが戻ってきた。そういえばこんな高価そうな短剣もらったのに名前も知らないな。


「いえ、あのそういえばこんなすごい物を貰うのに自己紹介もしてませんでした。
 私はワタリ・キリサキといいます。こっちのはアルです」

「おぉ、そうだったな。俺はゴーシュ・ランカスターという。このランカスター魔道具店の店主兼魔道具師だ」


 ぺこりと頭を下げて自己紹介をすると、快活に笑ってランカスターさんも自己紹介してくれる。
 アルもオレに続き優雅な仕草で軽く一礼している。くそうこいつのお辞儀ってすげぇ優雅だよなぁ、さすが執事だぜぇ。
 アルの動きは改めて見てみるとヤンデレ執事にはとても見えない。まぁまだヤンデレではないけどさ。まだ……ね……。


「それで、渡したいのはこれだ」

「わぁ綺麗ですね」

「あぁ……まぁだがな、こいつは黒狼石の短剣に比べると劣るが、この店に並べてる俺が作ったやつと比べても比較にならん物だ。
 ほれ、受け取ってくれ」

「ありがとうございます。でも本当にいいんですか?」

「なに、構わんさ。師匠の遺言だしな。
 それに……嬢ちゃんなら有効活用してくれそうな気がする」


 ランカスターさんが渡したのは三日月と太陽を象ったネックレスだった。チェーンにも細かな細工が施されている精緻な一品だ。
 受け取ってわかったのだが、これも黒狼石の短剣と同じような何かを感じる。作者が同じだからだろうか。


「あの……これ……」

「さすがはこいつの所有者に選ばれるだけはあるな、わかるか。
 こいつはMPタンクの魔道具だ。しかもそこにもある俺の作ったMPタンクとは分けが違う。
 最大で2000ものMPを保有できる最高の物だ」


 なにやら聞きたいことと違ったが、解説してもらえてラッキーだ。MPタンク……読んで字の如くのMPを貯蓄しておける類の物だろうか。
 しかも2000はすごい量のようだ。まぁ確かに複数転移が80回も使えるんだからすごいよな。しかしどうやって使うんだろう。


【アル、質問だ。このネックレスはどうやって使うの?】

【申し訳ございません、ワタリ様。魔道具の使用方法はチュートリアルブックには記載されていません】

【そっか。じゃぁ普通に聞いてみるよ】


 どうやら魔道具は基礎情報に載るようなアイテムではないらしい。早いところ図書館を探して知識を吸収してもらわないとな。アル任せばっかりだけど、そっち方面は彼の分野だ。仕事を奪ってはいけない。お世話だけでは可哀想だしな、こき使わなければ!


「ランカスターさん、これはどうやって使うんですか?」

「うん? なんだ嬢ちゃんは魔道具の使い方を知らんのか。
 黒狼石の短剣を抜けるような傑物かと思ったらそんなことも知らんとはアンバランスなやつだな。
 ……だが、よく見れば嬢ちゃんの年なら知らんでも無理はないか」


 何やら知ってて当たり前だと思われていたようだ。異世界2日目のオレがそんなもの知ってるわけないじゃないか。
 まぁあっちも黒狼石の短剣の所有者に選ばれるようなヤツなら常識だとも思っていたようだし仕方ない。


「MPタンク系の魔道具は、肌に触れている状態で意識を向けてMPを流すとその何割かを吸収してくれる。うちにあるMPタンクの中でも最高の吸収率を誇っているのもそれの特徴の1つだな。それだけの吸収率を2流どころが再現しようとするとこの店の半分程度の大きさの物になっちまうくらいだ。
 MPを取り出す時は逆に取り出すのを意識すればいい。
 簡単だろ? だが、MPを流しすぎるなよ? MP枯渇は酷いからな」

「わかりました。ありがとうございます」


 丁寧にお辞儀をして、とんでもない逸品だと判明したネックレスに触れてMPを吸収させてみる。
 すると少しずつMPが抜けていくのかと思いきや、結構な勢いでMPが抜けていく。これはやばい。
 すぐに吸収を止めてステータスを出して確認すると、MPが6になっていた。危なかった。
 一気に130近く吸い取られた。恐ろしい魔道具だ。
 今度はMPを取り出してみる。軽く取り出すとステータスのMPが70になった。軽く取り出したのに半分以上を取り出したことになる。これは結構練習が必要かもしれない。
 全部取り出すと130吸収させたのに、戻ってきたのは100ちょいだった。吸収率はおよそ8割か。
 ランカスターさんの話によれば吸収率は8割でもかなりの物のようだ。きっとこのくらいの大きさのMPタンクでは3割とかいっても4割とかなんだろう。それに比べれば破格ともいえる。


「どうだ?」

「あ、はい。大丈夫です。ちょっと気をつけてMPを吸収させないと危ないですけど、練習すれば大丈夫かと」

「ふむ。そうか、やはり嬢ちゃんは大したヤツだな」


 何やら納得顔のランカスターさんだ。もしかして何かやらかした?


「そのネックレス――月陽の首飾りは、普通のMPタンクとは違ってな。
 MPの吸収量の桁が違うんだよ。つまり嬢ちゃんはそれの吸収に耐えて、MP枯渇に陥っていない。そういうことだ」

「ぅ……そういうことですか」

「クク。まぁそう警戒するな。俺はおまえさんをどうこうするつもりはない。むしろ確信が持てたくらいだ。うちの常連になってくれるな。
 うちはおまえさんクラスのヤツに有用な魔道具が揃っているからな。さぞかしいい買い物をしてくれる常連になってくれるだろうよ、ガッハッハ」


 なかなか食えない爺さんだ。あっさりとオレのMPが通常より多いだろうことを見抜かれてしまった。そしてこの売り込みだ。商売人としてもなかなかだ。


「でも、今はあまりお金がないんでまた今度になりますよ」

「構わん構わん。いつでも待っているぞ。
 嬢ちゃんならきっとすぐに来ることになるだろうよ」


 ランカスターさんの豪快な笑い声に苦笑しながら、月陽の首飾りを優しく触るのだった。
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感想 22

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