幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
86 / 183
第5章

85,エリザベートの憂鬱

しおりを挟む

 テーブルに腰掛けて俯き加減にチラチラとこちらを盗み見るようにしているのは、いつも騒がしいくらいに元気なエリザベートさんではないように感じてしまう。
 彼女のこんな様子は初めて見る。
 それでもとにかく話を聞かないことには進まないので何度目になるかわからないが促してみる。


「えっとぉ~、とにかく何があったか教えてくれないと力にもなれないですし……」

「……うん……あ、あのね!」


 なんとか今回の促しで覚悟を決めたのか、重くなってなかなか開けなかったエリザベートさんの口が開く。


「あ……アル君を貸して欲しいの!」

「……はい?」


 意を決したように口を開いたエルフさんの言葉に思考が一瞬停止して何を言ってるのかわからなくなってしまった。

 アルを貸す? え? どゆこと?

 隣に控えているアルに一旦視線を向けるとアルも固まっている。非常に珍しい。というか始めてみた。びっくりしてるアル。
 もう1つのテーブルで砂ノートに何かを書いていたネーシャも顔をこちらに向けて目をぱちくりしている。


「ぇ、えっと……どういうことでしょう?」

「あ、あのね……私……」


 また俯いてしまったエリザベートさんだが、今回は静かに待ってみる。
 指を忙しなく合わせては離し、組んでは離している珍しい状態のエルフさんを辛抱強く待っていると、覚悟を決めなおしたのか顔をあげて続きを話し始めた。


「発端はね……おじいちゃんとの……ギルドマスターとの約束で……。
 私が120歳を過ぎたら結婚するっていう約束をしていたの……」


 ちょっと今何かよくわからない数字が出てきたけれど、それよりも結婚?
 まぁ確かにエリザベートさんは美人で色々と有名人で仕事も出来る人だと思う。色々と残念なところもあるけど、彼女の噂なんかは悪いものはほとんどないってエイド君もいってたし。
 そんなエリザベートさんなら浮いた話の1つもありそうなものだけど、やはりこの残念なロリコン趣味が邪魔をしているのは確かだ。
 そんなエリザベートさんだから結婚どころか相手がいないというのもわかる。いたとしても結婚できないだろう。
 この世界――ウイユベールの結婚可能年齢がいくつなのかは知らないけど、明らかに幼児の類とは無理だろう。
 でもそんな悲壮な顔をするほどのものなのだろうか。エリザベートさんのおじいさんがギルドマスターなのはこの間知ったけど、それほど話したわけではないからよくわからない。


「それでね……今度お見合いというか、おじいちゃんがおまえに相応しい相手を連れてくるって……」

「お見合いですか」

「そうなの……いつもは逃げ回ってたんだけど……今回はおじいちゃんも本気らしくて……」


 またもやしょんぼりと俯いてしまったエリザベートさん。
 その肩からはもう逃げられない、という思いがひしひしと伝わってきている。


「それでアルを貸してくれということだったんですね」

「そう! そうなの! アル君にその時だけでいいから恋人のふりをしてもらっておじいちゃんと相手の人に諦めてもらうの!」


 俯いていた顔が一転真剣な、だが縋りつくような必死な顔になり熱弁を振るう。
 言いたいことはわかった。
 ギルド職員も、おそらくギルドマスターもアルとエリザベートさんの仲は見知っているはず。喧嘩ばかりしているとはいえ、本当に嫌いなら無視するはずだ。
 好きの反対は嫌いではなく無関心なのだから。
 つまり浮いた話のないロリコンエルフであるエリザベートさんが喧嘩するほどの仲の男であるアルならば実はそういう仲であっても不思議ではない、と。


「なるほど。よくわかりました」

「じゃ、じゃあ!」

「決めるのは私じゃありません。確かにアルは私の従者ですけど、貸し借りするような存在じゃありません。だから直接交渉してくださいね?」

「うっ……はい……」


 一瞬チラっとアルを一瞥するエリザベートさんだったが、またオレに視線を戻した後がっくりと項垂れるようにして返事を返してきた。
 そこまでがっくりするようなことでもないと思うんだけどなぁ。
 オレから見たら2人はかなり仲がいいと思うのに。


「あ、アル君!」

「お断りいたします」

「そんなーッ!」

「アルぅ~もうちょっと考えてあげようよ~」

「そ、そうだよ! 私とアル君の仲でしょ!?」

「そんな仲は存在しません」

「そんなぁー!」


 あ、あれ……。思ってたよりもアルのエリザベートさんに対する評価ってものすごく低い?
 ものすごいあっさりと断られてるし、二の句も継がせないレベルでのきっぱりようだよ……。


「わ、ワタリちゃぁぁあん」


 テーブルを挟んでいるので抱きつかれることはないけれど、両手を伸ばして涙目のエルフさんは濁流で必死に助けを求める溺れた人のように今にも力尽きそうだ。
 これはオレが助け舟を出さないとだめなパターンだろう。
 でもアルは嫌だときっぱりいったし……。それを無理強いするのもどうかと思うし……。


「あ、アルぅ~。ほらアレだよ。えっとぅ~」

「なるほど、わかりました。さすがワタリさまにございます」


 説得の言葉が見つからず苦笑いしながら言葉を濁していたらなんとアルは理解したようだ。さすがすぎる。
 オレも自分で何をいってるのかわからなかったのに出来る執事とはこうも万能なのかと感心するしかない。


「ではエリザベート。私の条件を飲んでいただけるのであれば協力しましょう」

「じょ、条件って……?」


 首を縮めて上目遣いでびくびくと覗き見るエリザベートさんに向かって、容赦のないアルの瞳が襲い掛かった。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 翌日、いつもの空く時間帯に冒険者ギルドを訪れると白くて大きい人が掲示板の前で依頼を物色していた。
 もちろんレーネさんだ。でも今日は依頼を受けることができないだろう。なので謝っておかなければいけない。


「レーネさん、おはようございます」

「おはようございます、レーネさま」

「ぁ……ぉはようございます」


 声を掛けると振り返ったレーネさんが小さな声だが確かに挨拶を返してくれる。
 今日は鍛冶修行がお休みのネーシャとオレはそれに笑顔で返し、すぐに近寄るとPT編成を使ってPTを組み事情を説明する。


【――というわけで今日は依頼を受けることができそうにありません】

【なるほどわかりました。大変ですね、エリザベートさんもアルさんも。私でお手伝いできることがありましたら遠慮なく仰ってください】

【ありがとうございます、レーネさん。でも多分大丈夫だと思いますよ】

【そうなんですか?
 ……あ、あの……よかったら私もご一緒させてもらってもいいですか?】

【いいですけど……私達はそれなりに距離を置いて見守るだけですよ?】

【はい、ワタリさんが依頼を受けないのでしたら私も暇になってしまいますし、もしよかったら】

【じゃあ一緒に暇つぶしに覗きと洒落込みましょうか!】

【の、覗きは……その……覗きですけど……そ、その……】

【あはは。冗談ですよ~。とりあえずまだ時間ありますから、ちょっと適当にぶらついてきますかー】

【ぁ……はい! お供します!】


 エリザベートさんとアルの恋人偽装作戦をこっそり見守ろう会にレーネさんも参加し、そのまま3人でギルドを出ると時間までの暇つぶしにウィンドウショッピングと洒落込むのだった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。 しかも自分は――愛され王女!? 前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。 「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」 いつも優しい両親や兄。 戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。 これは罠? それとも本物の“家族の愛”? 愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。 疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う―― じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...