幼女と執事が異世界で

天界

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第7章

156,ドリルの1歩

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「ではわたりん、行きますわよ!」

「待って! ほんとにまって!」

「なんですの? 女は度胸といいますわ! ここは大きく1歩を踏み出してこそ女というものですのよ!」

「なんでそんなに無駄に自信満々なんですか! ほんと勘弁してー!
 せめてその手を離してー!」

「わたくしとわたりんの偉大な第1歩ですわ!」


 他人の話をまったく聞かないドリルさんは結局のところオレの必死の制止も聞かずにその1歩を踏み出した。
 どう見てもフラグでしかないその第1歩は案の定というか、必然というか……。


「あら? ここはどこですの?」

「ほらねー! やっぱりねー!」


 もう無駄にテンション高く叫びをあげるくらいしかオレには出来なかった。
 しかしその叫びすらも邪魔されるのか、オレの叫びを掻き消すかのように空気を切り裂くような音を立てて凄まじい速さで何かが飛んできた。

 当然のように加速した脳内でその飛来してくる物体を視認する。

 槍。

 先端が6つに分かれた農業用のフォークのようにも見えるけど返しがついていて、それぞれに緻密な装飾がなされている。どうみてもフォークではない。
 その上空気を切り裂いて進むその槍には紫電が纏われ、空気を焼ききってしまうのではないかというほどの威力が垣間見える。

 どうみてもやばい。

 オレ1人なら避ける事は造作もないだろう。加速された世界でなくても見てから回避できる。
 それでなくても転移すればたとえ目の前まで来ていても避けられる。

 だが今はこのドリルさんがいる。
 さすがにどんなにうざくても、こちらの忠告を無視して見事に罠を踏み抜いてくれたとしても……あれ? 見殺しにしてもいいんじゃないこれ? オレ悪くないよね? むしろオレ被害者じゃん?

 ……はぁ。

 王族の不文律プリンセス・スマイルを発動してドリルさんの目の前から飛来する槍を飲み込むように氷の壁を一瞬にして作り上げる。
 一気に減速する槍だが纏う紫電が氷を急速に溶かして尚も進もうとする。
 ただの投擲された槍ならば氷の壁に阻まれ、その運動エネルギーは完全に0にされて止まってしまうはずだ。
 どうやらただの投擲された槍ではないらしい。

 仕方ないのでそのまま氷の壁を上空に競り上がらせ軌道を逸らす。
 氷の壁を溶かして突き抜けた槍はそのまま逸らした軌道に沿って背後の壁に激突したようだ。
 直進する力はあっても追尾機能がついていないのは氷の壁を競り上がらせた時に確認している。もし追尾機能がついていたのなら競りあがらせた時点でオレ達の方に向きを修正していたはずだしね。


「な、なんですの今のは……」

「たぶんあれですよ」


 ドリルさんの声がちょっと上ずっている。
 まぁさっきの槍は明らかに常軌を逸したものだった。
 何せオレが王族の不文律プリンセス・スマイルで凶悪なMPを注いで作り出した氷の壁で止まらないんだから。
 普通にあの壁を溶かして進むには相当な熱量がいる。それを容易く行ったあの槍は尋常じゃない。

 転移してきたばかりのオレ達に躊躇なくあれほどの威力の攻撃を行ってきたというのも問題だ。
 オレじゃなかったら確実に死んでいる。

 オレの視線の先にいるのは禍々しい紫のオーラを放つ6本腕の全身鎧。
 でもジャイアントグロッカスのような巨体ではない。せいぜいが2メートルかそこらだろう。
 オレ達とはまだ相当な距離があるがすでにヤツの射程内なのだ。油断はできない。

 6本腕の全身鎧は投擲後のポーズのままだったがすぐに再度構えを取ると、6本ある腕全てに先ほどの槍が出現した。

 やばい。1本でも危険極まりない威力だったものが今度は6本。
 全ての槍が紫電を纏っている。しかも今度はさっきの槍よりずっと纏う量が多い。
 先ほどの槍は小手調べだったのだろう。次で仕留めるという気がひしひし、と感じられる。
 床を割る強烈な踏み込みから6本の槍はオレの目でも捉えきれないほどのスピードで振られた腕によって射出された。

 今度は流石に無理だ……では。

 尋常じゃないMPを注いだ氷の壁ですら止まらないのならば、違う魔法を使えばいい。
 追尾機能がないのはさっきの1本で分かっている。
 例え今度の槍には追尾機能がついていたとしても対応できる。

 未だ続いている王族の不文律プリンセス・スマイルにより、放たれた凶悪な6本の槍はオレ達と全身鎧のちょうど中間あたりで全て床に盛大な音を立てて、落ちた・・・

 その上からさらに見えない壁を何重にも叩き付けて槍は木っ端微塵に粉砕される。

 普段は氷――水の魔法ばかり使っているが、今使ったのは風の魔法だ。
 氷の壁ではなく、濃密な風の壁で軌道を下に逸らし床に落とした上で圧縮して密度をさらに高めた風を幾重にも叩きつけたのだ。
 氷の壁と違って目に見えず、魔力の集中のさせ方に斑が出来易いが王族の不文律プリンセス・スマイルと併用すればその斑を考えなくてもいいぐらいに凶悪に強化できる。
 さらには氷の壁のように溶かされることもあまり・・・ない。
 こういったケースでの対処法としては氷の壁よりは適任だ。


「わたりん、あれはもしかして鬼刃ですの?」

「噂通りの見た目で、その上あの強さですから……たぶん」

「まぁ……わたくし初めて見ましたわ」


 そりゃオレだって初めてだわい。
 噂には聞いていたけど、本当にいたとは……。

 ――転移の果ての強者の亡霊。
 ――相対してはいけない存在。
 ――特殊進化個体モンスターを超えし者。

 噂では出会ったら死ぬしかない、という話だった。
 出会ったら死ぬしかないのならどうしてそんな噂が流れているんだって話だけどね。まぁ噂なんてそんなものだろう。

 だが噂通りなら本当にヤバイ。
 噂通りならあの全身鎧には魔法が効かない・・・・・・・のだ。

 オレと同等に近い射程を持っている上にあの威力の槍を同時に6本も操っている。
 その上こちらの魔法まで効かないとなるとかなり攻め手が限られるだろう。

 ……その上足手まといまでいる。


 都市伝説や御伽噺の類だろうと思っていたのになんでそういうのに限ってオレは会っちゃうのか。
 あの転移虫だってそうだ。
 ドリルさんがオレの元に転移してきたのもそうだ。

 どんどんフラグが立って見事に回収されている。

 ……まったくもって迷惑極まりない。


「わたりん、とにかく鬼刃を倒さなければいけませんわね!」

「いえ……噂通りなら別に倒さなくても帰れるはずですよ。ほら、たぶんあの大きな柱の後ろにクリスタルがあるはずです」


 そう、噂通りならば鬼刃は別に倒さなくてもいい。
 かなり広いこの空間には3本の巨大な柱が天井を支えている。
 3本のうち2本はオレ達の横――とはいっても100m以上離れているが――にあり、最後の1本が鬼刃の後ろにある。

 ――柱の窪みに青いクリスタルがある。

 噂通りならば鬼刃がいる方の柱にあるはずだ。まぁ違ったら残りの2本のどちらかだろう。
 倒さなくていいならとっとと逃げるべきだ。
 万全の状態のオレ達なら行けるだろうが、今いるのは足手まといでしかないドリルさんだ。万全? 何それ美味しいの状態がまだ羨ましく思えるくらいのレベルだ。


「アリアローゼさん、さすがに無理です」

「いやですわ、わたりん。わたくしのことはあーちゃんと呼んでくださいまし。
 それにわたくしも大分強くなったのですわ。足手まといにはなりませんわ」


 ……この人は本当に死にたいのだろうか?
 風の壁は分かりづらかったと思うが、氷の壁に関しては尋常じゃないMPが必要だったことはわかるはずだ。それだけの密度と大きさで展開している。
 それを軌道を逸らすだけにしか使えなかったということもわかっているはずだ。

 ……なのにこんなことをいう。
 本当に自信があるのだろうか……?

 だが見誤ったら確実にドリルさんは死ぬ。
 こんな人でも見捨てるのは忍びない。
 例えダメだって言ってるのに罠を踏みに行く人だってわかっていても……あれ? 見捨ててもいいんじゃね?






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 ちなみにオレ達が暢気に話している間にも攻撃は続行されている。
 6本の紫電を纏った槍は幾度となく射出され、そしてその全てが床に落ちている。
 話していた時間もそう長い時間ではないが、その間に射出された槍の本数はすでに60本以上だ。
 槍の補充間隔もかなり短い。
 恐らく一撃でも通ってしまったら死ぬだろう威力。狙いも正確だ。

 話している間にも試しに氷の矢を1本、柱を経由させて死角から打ち込んでみた。
 しかし氷の矢は全身鎧に接触する前に消滅してしまっていた。
 どうやら噂通りにあの鎧には魔法が効かないらしい。

 魔法が効かないとなると逃げの一手を取るのがベストだ。
 ドリルさんのわがままを聞いている余裕はもうない。
 そろそろスタミナが危険領域だし、王族の不文律プリンセス・スマイルが切れたらあの槍は押さえ込めない。


「アリアローゼさん、もうすぐあの槍を押さえ込めなくなります。
 だから……走りますよ!」

「きゃっ……わたりんったら大胆ですのね」


 ドリルさんの手を取って走り出すのと同時に限界時間ぎりぎりまでMPを注いだ風の壁を柱まで展開して、王族の不文律プリンセス・スマイルを解除する。
 ドリルさんのイラッとくる反応は当然無視だ。

 柱につくまでに6本の槍が正確にオレ達に向かって打ち込まれるが全て風の壁に阻まれ、床に軌道を逸らされ落ちた。

 ……さてどうしよう。

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