幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
171 / 183
最終章

170,勇者レーネ

しおりを挟む
 魔道具ではない装備で魔結晶を仕込んで実用性が高くなっている物を手当たり次第に選んで屋敷に戻ってきた。


「待たせたのじゃ! さっそくじゃが勇者の装備に触れてみるのじゃ!」


 本来ならそんな場合ではないのだろうが、他にやることもないのでいつものバルコニーでお茶をしているとドリルさんばりの突撃力でエリア姫達――従者? エリア姫の気性を考えると家来の方がぴったりだが……もついてきた――が扉を蹴り破らんばかりにはいってきた。


「エリア姫。急いでるのはわかりますが、もう少しこう……慎み? みたいなものを持った方がいいですよ?」

「緊急事態は継続中なのじゃぞ! 何を悠長な事を言っておるのじゃ!」

「はぁ、でもあっちがその気ならもうとっくにどこかの街なり村なり滅ぼしてるんじゃないですか?」

「む……。そう、かもしれないのぅ」

「そもそも迷宮の最下層に行ったっていうのにトレーゼ迷宮は生きてるんでしょう?
 じゃあ核の魔力が目当てというわけでもなさそうですし」

「むむぅ……。わたりんはすごいのぅ」

「まぁ最愛のグレーさんをフルボッコされて怒ってるのはわかりますが、冷静になりましょうね」

「ななななな! 何を言っておるのじゃ! わ、わ、っわわわ妾はべべっべ別に!」

「グレーさんは隣の部屋でまだ寝てると思いますからそっち行ってあげたらどうですか?
 勇者の装備の試着はこっちで済ませておきますから」

「むむむむ! わ、わたりん! これは1つ借りておくのじゃ!」

「はいはい、いってらっしゃい」


 さてこれで体よくエリア姫は追っ払えた。
 しかしあそこまで慌てふためくとは……案外ピュアなのか。どうでもいいけど。
 ばたばたと部屋を出て行くエリア姫達を見送ってから従者か家来か知らないが、とにかくお付きの人が敷いた敷物の上にエリア姫が置いていった勇者の装備を見やる。

 というか、勇者の装備ってどれも壊れ性能で凄まじいし、例え選ばれなくても相当なもののはずだ。それをこんな見張りもなしに置いていくのはどうなんだ?
 それだけ信頼されているということなのか、もしくは魔道具か何かで防犯はばっちりなのか。

 まぁそれより勇者の装備だ。
 おいていかれた装備は兜、鎧、篭手、靴の4種類。
 鎧は腰部も覆う一体型だ。篭手は手首から肘まで。靴は膝まで覆うグリーヴタイプ。
 兜は面も完全に覆えるフルフェイスタイプだな。


「これ全部つけたら誰だかわからなくなりますね」

「……素晴らしいですね」


 ボソッと呟いたレーネさんの言葉は実に彼女の性格を表している。
 レーネさんは兜系は被らないがその代わり真っ白のマントに備え付けのフードを被っていることが多い。
 マントの下に着ている鎧も全身を隠す事が出来るフルプレートタイプの鎧だ。

 恥ずかしがり屋だが一流の戦士でもある彼女の要望に応えられる逸品。
 ……やっぱり全部着てもらうか。きっとレーネさんなら選ばれる。


「じゃあレーネさん、どうぞ」

「ほ、ほんとに……やるんですか……?」

「レーネさんなら大丈夫ですよ。私は信じてます。むしろレーネさんが選ばれなかったらぶっ壊してあげますよ」

「だだだだだめですよ……ワタリさん……」


 あたふたと慌てるレーネさんは実に可愛い。
 でもレーネさんをいじめるのは不本意なのでそろそろ本題に入るか。
 しかし選ばれるってどうやればいいんだろうな? そのくらいは聞いてからエリア姫を送り出せばよかった。
 ……いやなんか言ってたような……。


「勇者の装備に触れればいいんですよ」

「うぉっ!?」

「そんなにびっくりしないでくださいよ」

「いやいや、どなたですか」


 突然かけられた声に驚いたが、すでにアルとレーネさんが声をかけた相手とオレの間に入っている。2人の動きはさすがすぎる。
 ……まぁオレも腰に装備してある紫電の大槌の柄に密かに手を伸ばしていつでも使えるようにしていたけど。


「ひどいなぁ……。エステリア様と一緒に来た者ですよ。
 アイトといいます。一応『転生者』です」


 がっくりと肩を落としたのは赤いツンツン頭の青年。
 装備も全体的に赤く、これだけ目立つ姿なのに全然気づかなかった。隠密系のスキル所持者だろうか。
 それに転生者か。つまりは相応の戦力を持つ者ということだ。それに気づかなかったとは……。

 いや、オレ以外はきっと気づいてた。
 特に何も言わなかったのは彼に敵意がなかったからだろう。
 恐らく彼もオークロード討伐に参加するだろうし、これから一緒に戦う事になる相手に敵意を向けるのもどうかと思うしね。


「それはなんというか、すみません。私はワタリ・キリサキです。こちらはレーネさん。こっちがアルです」

「はい、エステリア様から聞いています。凄腕の治癒魔術師だとか。
 死ななければどんな怪我でも治せるレベルの」

「まぁ、そうですね」

「……そうですか。それは心強い。よろしくお願いしますね」

「はい、こちらこそ」


 死ななければ、の件で一瞬目が鋭くなったがそれだけだ。
 まぁエリア姫と同じ程度に警戒しておけばいいだろう。何かしてくるならアルが対応してくれる。


「それで触れればいいんですか?」

「えぇ、勇者の装備は触れると認められた者のみそのまま触れ続ける事が出来ます。
 それ以外は弾かれますから」


 そういえばエリア姫がアイテムボックスから取り出した時も直接は触れてなかったな。
 なんか変な手袋のような篭手のようなものをわざわざつけていたっけ。アレはきっと専用のアイテムなんだろうな。


「だそうです、レーネさん」

「は、はぃ……」


 レーネさんがどんどん緊張してしまっている。
 知らない人がいるから声はどんどん小さくなっていくし、口数も減っている。
 エリア姫と一緒にグレーさんのところに行ってくれればよかったのに、この転生者。

 今更この赤い男を部屋から追い出すわけにもいかない。
 こいつが残ったと言うことは監視役なのだろうし、追い出す理由もなかなか難しい。
 物腰は柔らかだが、それは転生者だからだろう。彼にも生前の記憶があるのだ。
 オレと同じ世界、同じ国で育ったのならそれも納得がいく。
 それに加え、転生者としてユニークスキルを所持している。物腰は柔からだが隙がない。十分に経験を積んでいることがよくわかる。BaseLvも相応に高いのだろう。


 何度か深呼吸をしたレーネさんが皆が注目する中、恐る恐る――特にアイトの視線にびくつきながら――勇者の装備に手を伸ばす。
 まずは兜。

 最初に兜に手が伸びる辺り、よっぽど赤い野郎の視線が気になるみたいだ。
 ……やっぱり追い出そうかな……。


「ぁ……」

「どうですか?」


 どうですかも何も、オレはレーネさんが手に取った時点で兜を鑑定していたのでわかっていたんだけどね。
 おめでとう、さすがレーネさんだ。


「認められたみたいです。……不思議な感じです」

「はぁ……さすがですね。ウィシュラウさまは一発で弾かれたのに。これが噂に名高き白狼……」


 感嘆の息を漏らす赤い男に視線をチラッと向けると何やら非常に好戦的な獰猛な笑みが現れかけている。
 ……あぁこいつ戦闘狂だ。間違いねーわ。やっぱり追い出すべきかなぁ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 兜に引き続き鎧、篭手、靴と全ての勇者の装備はレーネさんを選んだ。
 その結果にグレーさんを連れて戻ってきたエリア姫も驚いていた。
 まさか残り全ての勇者の装備がレーネさんを選ぶとは思っていなかったらしい。
 どれか1つでもオレかレーネさんを選んでくれれば御の字といった程度の気持ちで持ってきたらしかった。

 ちなみに勇者の装備は全て装飾過多という表現が適切なくらいにゴテゴテしている。
 なので目立つのが無理な性格のレーネさんは装備しても早々にマントで隠してしまった。
 エリア姫がなんとかフル装備のレーネさんを見ようとマントを引っぺがそうとしていたが、勇者の装備を纏ったレーネさんは並ではなかった。元々並じゃなかったけど。
 敏捷特化のアクセサリー類はドリルさんを選んだとはいえ、残っていた装備も尋常ではない。
 HP、MP、筋力、器用、魔力、回復力。全てが高水準で増加する完全な壊れ性能。

 元もとの高い技量と相まってレーネさんはエリア姫の執拗な魔の手を悉くかわすかわす。
 最後は本気になったエリア姫をグレーさんがなんとか取り押さえて事なきを得た。
 ちなみに取り押さえられたエリア姫は顔を真っ赤にして乙女になってしまっていた。はいはい、ご馳走様ご馳走様。

 ちなみに勇者の装備にもデフォルトでサイズ調整機能がついているので大柄なレーネさんでもぴったりフィットしている。


「ところで勇者の装備は無事レーネさんが認められましたけど、魔道具を無効化するスキルに対抗できそうなスキルは勇者の装備にありました?」


 鑑定で一応見てはいるが固有スキルの名称から効果を推測するのは難しい。
 特に勇者の装備は~~の祈り系が全ての装備についているし、その他にも聞いたこともないスキルがついている。


「恐らく女神の祈りで対抗できると思います。
 発動している間は害する効果を無効化するスキルみたいですから」


 また随分とぶっ壊れた性能のスキルだ。
 害する効果ってダメージとかも含まれるんだろうか。だとすると無敵すぎるんだけど。
 しかも効果ってところがミソだな。
 スキルは対象とするものがある程度区別されている。自身や他者、PTメンバー個人または全員まで、敵対者から物質、そのPTメンバー個人または全員まで。
 そうやってある程度区別されているので対象が効果の場合はかなりの範囲をカバー可能になり、対象が凄まじく広くなる。やっぱりぶっ壊れ性能だな。


「うむ。これで一応の対策にはなるか。だが油断は禁物じゃ。
 出来れば十分に準備を整えてから挑みたいところじゃが、まずは最下層まで行かねばならぬ。
 時間はいくらあっても足りんのじゃ」


 確かにトレーゼの迷宮の最下層に行くのにも時間がかかるだろう。
 その間に移動されたら目も当てられない。急がなければいけないのだ。

 明日からさっそくトレーゼの迷宮の最下層へ向かうための探索が始まる。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...