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双対性理論
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「おいコラ……!なに、して………!」
俺は今
『兄』を押し倒している。
俺には双子の兄がいる。
当然の如く見た目は全く同じだが、子供の頃から誰にでも話しかけ、すぐに友達ができるような人だった。
必要最低限な人付き合いしかこなさない俺とは似ても似つかぬ明るさと社交性。少しばかり状況判断が感情に流されて遅くなる事はあるが、気立てもよくとても優しい。
子供の頃はそんな兄と一緒に居られる事がなにより嬉しくて、俺の自慢の兄でもあった。
そんな兄にいつからか兄弟愛とは違うものが芽生え始めたと自覚をしてからは少しずつ距離を離してきていたが、高校卒業と同時に実家を出る事にした俺に兄がついてくる形で二人暮らしが始まってしまった。
もともと会話がなかったわけでもないし、兄が俺の部屋に来る事なんて頻繁にあった。
その度に気が気じゃなかった事など当の本人は知る由もないのだろうが。
一緒に暮らし始めてから特に今までと変わる事の無い生活を送っていたはずなのに。
帰ってきて。
食事を用意して。
適度に言葉を交わして。
お互いの部屋に戻る。
必要ならば一緒に買い出しなどで外に出る事もあったし、兄は何かと家にいる俺を外に連れ出そうとする事もあった。
俺と違って交友関係の広い兄は家に帰ってくるのが遅くなる日もあり、食事を済ませてくるかどうかも含めて必ず連絡が来ていた。
『飲み会があるから帰りは遅くなる。1人でもちゃんと食事をとるように』
送られてくるのはだいたいこの一文。
俺が一人になるとあまり食事を取らない事を知っていて、毎回このように釘を刺してくる。
帰宅してはちゃんと食べたのか、何を食べたのかといつも聞いてくる兄が自分を気にかけてくれているのだと、愛されているなと感じさせてくれた。
今日も同じ感じなのだろうと思っていた。
少し酔い潰れた兄の首筋に、赤い跡があると気付くまでは。
自分がハッとした時には自室のベッドに兄を押し倒していた。
間近に見える兄の首筋にはくっきりと赤い跡が付いており、それがどういった経緯でつくかなど容易に想像ができた。
想像してしまった。
誰かと寝ている兄の事を。
整った容姿に社交的な性格、成績優秀で運動神経も良い。
そんな兄に恋人がいた時期があるのはもちろん知っているが、今現時点で居るという話は聞いてはいない。
帰宅した時に友達に送り届けて貰ったと言っていた。
仮にも送ってきたのが女ならば、兄は決して一人で帰らせるような真似はしないだろう。
そうなると送ってきた人物は必然的に男という事になる。
「―――――アル!聞いているのか!」
「……!」
兄の声で現実へと呼び戻される。
薄暗い部屋の中でもわかる程に眼下にいる兄は頬が少し赤い。それはおそらく酒のせいなのだろうと理解はしている。
睨まれたところで自分に押し倒されている人物に気圧されるはずも無く、今の俺にとってはこの光景を他の誰かが見たのかと、腹の中でどろりと重苦しい感情しか生まれなかった。
「いきなり何を……むっ、ンンッ……!」
騒ぎ立てる兄の唇を強引に重ね、そのまま舌を滑り込ませた。
酒で火照った口腔は熱く、舌を絡ませる度に甘い味わいが広がり、芳醇な香りが鼻へと抜けていく。
上顎を舌先でくすぐれば聞いたこともない兄の声が聞こえ、背筋がゾクリとした。
「ふっ、………ぁ……や、め……ぅん……」
縫い付けた両手をそのまま頭の上へと纏めあげ、そのまま唇を堪能する。
呼吸する暇さえ与えない。そんな余裕なんてない程に、今の自分のしている行為に俺自身が興奮していた。
あんなにも恋焦がれた兄に今こうして触れているという現実だけが俺を支配していく。
ようやく唇を解放した頃には互いに息が上がっていて、こちらを見据える瞳は困惑の色を含んでおり、口付けによって濡れた唇がより色香を漂わせる。
自分の喉がゴクリと音を立てると同時にそのまま跡の付けられた首筋へと舌を這わせた。
「な、なにをして……ッ!」
口答えなんてものに返答はしない。
赤い跡に重ねるように、消すように首筋を吸い上げてやれば、先ほどの跡よりも一回り大きくなった赤い印に自然と広角が上がっていった。
顔をあげれば怒りや戸惑いが入り混じった今まで見たことも無い表情をした兄がいて、己の征服欲が満たされていくのがとてもよくわかる。
「…………今更、聞く意味もない」
「ア、ル……?」
あのキスマークが誰がつけたものかと問いただすつもりだった。
だが、今更それを知ったところでどうなるというのか。
そんな事よりも、今こうして兄に触れているという現実が俺をひたすらに昂らせた。
「んんッ……は、ぁ………ンぅ……」
触れたくて仕方がなかった。
味わいたくて仕方がなかった。
一生触れる事など無いと思っていたものが、こうして手の中にある。
はだけたシャツへ手を滑らせ、掌に触れる突起をつまみあげればピクリと反応を示す兄が狂おしいほど愛おしかった。
ぷくりと硬くなっていくそこを指先でくるくると円を描く様に弄れば、悶える吐息もより色濃くなっていき、衝動にかられるままに口に含んで舌先で舐めあげる。
「く、ぁ……ン、いい加減に……ひ、ぅ……!」
合間に下半身に手を伸ばせばそこは少し熱を持っていて、膨らんだそこを直に握って扱き上げると先程とはまた違う声色が耳に届く。
「や、め………っ、ふぁ………ぁ……」
振りほどけない腕を必死に動かしても逃がしてなどやらない。
首を振って嫌がる兄の姿すら今の俺にとっては愛しくて可愛らしくて、聞いたこともない甘い声に触れる手が速度を増していくのがわかる。
掌の中でドクドクと脈打つ兄のそれはもうはち切れんばかりに膨らんでいて、動かす度に聞こえら淫らな水音が兄の声と混ざりあって俺の理性など吹き飛ばしていく。
「ぅ、ぁあ……や、……やめッ…ぁああ!」
一際大きな声と同時に掌に兄の欲を受け止めた。
白濁に塗れた掌と肩で呼吸をする兄の姿を交互に見ると、今自分がしていた事を改めて実感する。
夢を見ている様な、ふわふわと浮いた感覚に支配されるがままに己の掌をぺろりと舐め上げて兄のそれを味わった。
「ひっ?!な、にを………っぁ!」
くたりと横たわる兄のそこに潤滑油代わりに白濁を塗りつけ、そのままつぷりと人差し指を推し進める。
先程まで動く気配の無かった兄が慌てた様子でこちらを見ていたが止めてなんてやらない。
「そん、なとこ……、ぁ…!や、め……ンンっ!」
焦りと恐怖に満ちたその表情が中で指をクイっと動かす度に切なげに歪んでいくのがとても淫らで、無意識に動かす指が速度を増していく。
初めは1本の指すらきつく締め上げていたのに、いつの間にか2本3本と増やしてもなんの問題もないほどにほぐれてゆき、少しずつ聴こえてくる水音も徐々に甘くなっていく兄の声も俺の行為を後押ししているとしか思えなかった。
そのまま指を勢いよく引き抜き、欲望のままに硬くなった自身をそこへと押し付ける。
「ま、まて……やめ、ッぁあああ……!」
静止の声など聞く耳を持たないまま奥へと一気に突き立ててやれば悲鳴をあげるように兄が啼いた。
見下ろす兄の表情は相も変わらず俺の欲を昂らせ、強く瞑られた瞳から流れる涙がより支配欲を満たしていく。
きゅうきゅうと締められる感覚にも、兄をいま抱いているという現実にも息が苦しくなる。
このまま動くのが難しいかと思う前に、覆いかぶさった兄の胸の先端に舌を這わせれば強ばった力が抜けたのかより深くへと呑み込まれていく。
突起を吸い上げ、舌を這わせては歯をたてる。
わざとぴちゃりと音を立ててやれば苦しそうな声に少しずつ色が戻っていき、俺の自身がドクリと脈打った。
「ぁぁあ、うご、くな…!ひっ?!や、ぁああ…!」
抑える事など出来ないまま兄の身体を揺さぶれば、痛みを訴える声が少しずつ甘く嬌声へと変わりはじめる。
絶えず涙を流し続ける涙に濡れた頬を舐め上げて、そのまま唇が塞ぐ。鼻から抜ける抑えきれない愛嬌もまた違った色っぽさがあり、舌を絡める度により興奮が高まっていった。
「ぁぁあ!や、だ……!な、んでぇ……ふっ、ぁあ!」
「すまないが、もう止められそうもない…!」
兄の腰を押さえつけて欲望のままに律動を早めれば、しがみつく様に抱き着かれ余計に熱が集まるのを感じた。
言葉では困惑していても、身体は俺の事を拒んではいない。
間近で聞こえる兄の喘ぎが、吐息が耳を掠める。
「ッ………く、ぁ…!」
「んん、ひ、ゃぁああ……!」
ドクリと中に欲が弾けると同時に、兄も達したのか高い声をあげると、そのまま力が抜けたようにくたりとベッドに沈みこんだ。
大きく呼吸を繰り返す兄の顔は涙と唾液でグチャグチャで、引き抜かれたらそこからは俺が中に放ったモノがどろりと溢れだしている。
その光景に、今まで触れずにいた兄を無理矢理抱いてしまったのだという事で途端に胸が苦しくなっていった。
なんのために今まで触れずに距離を保ってきたのか。
嫌われたくなかったからだ。
なのに、今こうして無理矢理身体を繋げてしまった。
満足感と同時に、兄が離れていってしまうという喪失感がぐるぐると渦巻いた。
もう、これまでの関係には戻れない。
「………どうして、お前が泣くんだ…?」
たずねてくる声に初めて自分が涙を流している事に気がついた。
そっと伸ばされた手が俺の頬に優しく触れ、撫でている。
あんなに酷く抱かれたのに。どうして、この人はこんなにも優しいんだろうか。
頬を撫でる掌に手を重ね、苦しくて呼吸すらままならなかった喉から必死に声を絞った。
「にい、さん……」
なんてなさけのない声だろうか。それほどまでに兄に焦がれている自分が、あまりにも小さくて、子供で、本当に情けなかった。
兄の手を強く握ると、そのまま抱き寄せれてあやされるように背中にぽんと手を置かれた。
「少し落ち着け」
定期的に優しく叩かれる背中に、優しい声色の兄。
子供の頃から変わらない、兄の慰め方。
二度と味わえないかもしれないと思ったものをこうして与えられている事が、苦しかったものから俺を解き放ってくれた。
今まで言えなかったものを吐き出そうと大きく深呼吸をした。
「俺は、兄さんの事が好きだ」
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