甘い禁断の蜜

朝飛

文字の大きさ
2 / 7

1

しおりを挟む
 尚昌と現実で会うことはほとんどない。そうやって高を括っていたのだが、何故だかあの夢を見て以来、何の気なしに実家に戻ったりすると、高い確率で遭遇するようになった。

「お、清和じゃないか。お帰り」

 そうやってまるで自分の家のように寛いだ様子で出迎えられたときには、思わず二、三歩後ずさりそうになるほど動揺した。それを知らない尚昌は、清和に笑みを向けこそすれど、どちらかというと母の方に用があるようで、幸い必要以上に絡んでくることはない。

 尚昌は決まって父がいない時に訪れるようで、それが度重なるごとに母と尚昌の禁断の関係を疑った。そして、母はともかく、尚昌の母を見る目つきはどうにも男が女を見る目つきに見えてならない。

 もしかすると、父と尚昌が特別険悪というわけではないのだが、顔を合わせても親しく話しているところを見ないのはそのせいもあるのかもしれなかった。

「あら、清和。帰ってたのね。晩ご飯食べていく?今日はあなたの好きなレアチーズケーキを作ってあげましょうか」

 尚昌の目の前でそんなことを言ってくる母に対し、恥ずかしさがこみ上げてきた時だった。

「清和はレアチーズケーキが好きなのか。俺も好きだな」

 父よりも些か高音のやや掠れた声がそんなことを言う。言われた台詞に深い意味はないというのに、無意識にどきりとしてしまった。

「そうだったの?じゃあ三人分作りましょうか。一輝さんは甘いもの苦手だから」

 一輝とは父のことだ。いるともいらないとも返事をしないうちに、母は勝手に決めてしまい、うきうきと台所に消えた。それを見送った後、早々と実家の自室に引き上げようとしたのだが、声をかけられた。

「清和、ちょっとこっち来て」

 ダイニングテーブルの椅子に腰かけていた尚昌から手招きされ、戸惑いつつも一歩ずつ近づいた。だが、腕が届くか届かないかの距離まで来るのがやっとで、ざらりと肌を撫でられるような緊張が走った。

「何?緊張してるのか。もっとこっち」

 尚昌に言い当てられ、動揺するうちに強引に腕を引かれて引き寄せられてしまう。ふらりと体が傾いでしまい、まるで夢の再現のように間近に尚昌の顔が迫った。

「う、わ……」

 慌ててのけぞろうとするも、尚昌は何を考えたのか、面白がるように笑ってがっちりと清和の顎を捉えた。そして、まるで恋人のように見つめ合うこと数秒。

「兄貴に似てるかと思ったが、こうして見ると貴美子さんに似ているな。特にこの唇とか」

 そう言って軽く唇をつつかれた時には、流石にからかわれたのだと気づいたのだが、焦る気持ちばかりが募ってかえって頭の中が白くなった。

「なあ、貴美子さんの代わりにお前にキスしていい?」

 何も言えないでいる清和に向かって、本気か冗談か分からない顔つきと声でそんなことを言うと、尚昌はそのまま顔を近づけてきて。押しのける間もなく、本当に唇が軽く触れあってしまい。

「清和、ちょっとテーブルの上片付けといて」

 母の声で我に返ると、やや裏返った声で返事をして尚昌から離れる。尚昌の顔を見たわけではないが、おかしそうに笑う気配がした。

 その後、不自然にならないよう注意を払いながら、母の作った料理とレアチーズケーキを食べたのだが、まるで味が分からなかった。向かいに座る尚昌の視線を感じた気がしたが、終始目を合わせないようにした。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...