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ghost 4
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レンタルゴーストを利用したからといって、木村の願望通りに事が運ぶわけではなかった。「強くて怖い」幽霊とは言っても、姿も見えなければ気配も感じない木村からすれば、いないのと同じである。本人にとっては非常にありがたくないことに、見事に平和な日常が続くばかりであった。
しかし特筆することがあるとすれば、奇妙な現象が起こるようになったのもまた事実だった。 例えば、物を無くしやすくなった。生来、きちんとした性分ではない木村だが、そこまで忘れっぽいところもなく、うっかり者だと言われたこともなかった。
いつも何かを無くしかけてもすぐに思い出していたはずなのだが、このところは物をどこかに置き忘れていたり、どこに置いたか分からなくなったりする。
それも、ようやく見つかったと思えば、置いたはずのない場所だったりした。そして何故だか、芥川が見つけてくれることも多い。
そんなことは気にするほどではないと思うのだが、細々と列挙するならばまだある。
次は、電化製品が故障しやすくなったことだ。買ったばかりの物が不良品で、返品交換したことなどいままでなかったように記憶しているが、買い換えたばかりのノートパソコンや音楽プレイヤー、今まで問題なく使っていたドライヤーに至るまでよく壊れるようになった。
木村が使うタイミングで壊れることも多く、家族からは苦情の嵐を食らうはめになっている。
そして極めつけには、友人が遠ざかるようになった。もともと友人が多い方だと自負している木村だが、理由もなく友人が自分を避け始めて、まるでいじめにでも遭っているように、芥川を除く誰一人声をかけてこなくなったのだ。
もっとも、芥川も何故だか木村の傍にいると調子を崩すようで、青い顔をしていることが多かったのだが。無理している必要はないと言ってみたところ、芥川はそればかりは頑として譲らなかった。
しかし木村はそうなったところで、あまり気にする性質ではない。一人ならば一人なりの楽しみ方というのを見つけていくと、意外と新しい発見があったりして後ろ向きにはならなかった。そしてこの状況を楽しんでいるところもあった。
原因が分からなければ不安にもなったかもしれないが、理由ははっきりしていて、更には事前に注意を受けていたことでもある。
具体的な例は挙げられていなかったが、確かに羽山は二人に伝えていた。レンタルゴーストのデメリットとして、運気が下がることもあると。そもそもこんなことくらいでへこたれていれば、レンタルゴーストを利用したりしないのだ。
死ぬほど恐ろしい目に遭わない限り、木村の目は覚めないであろうし、伊達にオカルト好きだと公言しているわけではない。ある意味で、木村のプライドとか意地といったものも作用しているのかもしれないが、多少は煩わしく感じても「彼岸花」へ行ったり羽山へ連絡して、中止する気にはなれなかった。
あくまでも、いまはまだ「体験」なのだから。
木村が周りから見れば全く有意義とは思えないレンタルゴースト体験を経験している最中、何の前触れもなく羽山から接触があった。
連絡先は教えていないのだが、住所は最初に知られている。昔ながらの友人宅に来たように、何てことない風に遊びに来た羽山も羽山だが、それに疑問を感じない木村も木村だ。
そして初対面の時と同様、二人にはどこか通じるものがあって、オカルト談義に花を咲かせる。そのうちに部屋にあるコレクションを見せるという話になり、流れで部屋に入れることになった。ちなみに、家族は皆、何の偶然かその時に限って出かけていた。
「へえ、木村君の部屋ってこうなっているんだね」
「ちょっと散らかってますんで、片付けます。ベッドにでも座っててください」
芸能人が一般人の自分の部屋にいるという非現実的な興奮を味わいながら、木村は半ば夢見心地で羽山に背を向ける。背後で羽山がベッドに腰掛けて、人の重みで軋む音がした。
「ねえ、木村君」
「はい?」
しばらく雑談混じりに忙しなく片付けていると、不意に羽山が改めて木村を呼んだ。どこか笑いを含んだ声色を不思議に思いながら振り返ると、羽山がベッドの上で何かを広げているのが目に入る。
「やっぱり巨乳好きなんだね」
即座に肯定しようとした木村は、その手元にある雑誌を見て固まった。いつかコンビニで入手して、捨てたはずのアダルト雑誌だ。また例の勝手に物が移動している現象が起きたのだと、白くなりかけた頭で思う。
何もここで起こらなくてもいいのにと嘆いても仕方がなかった。
「ええ、まあそうですね、否定はしませんよ。あはは」
乾いた笑い声を搾り出しながら、雑誌を取り上げようと手を伸ばす。相手が同級生であれば、そのまま下ネタへと話を転換させてもよかったが、相手は年上で、テレビの中の憧れの存在だ。さすがに羞恥が勝った。
しかし取り返そうと近付けた木村の手は、雑誌に届く前に空中で捕らえられる。羽山の熱を持った手の平に触れられ、続いてぎらつく強い眼差しを浴びて、流石の木村も身の危険というものを感じた。
「は、羽山さん?」
おそるおそる声をかけると、羽山はいつもの優しい印象からかけ離れた、怖いほど野獣を思わせる顔つきで、舌なめずりせんばかりに言った。
「ねえ、大人の男ってものもいいと思うよ。試してみない?」
そうしてそのまま引き寄せられて、木村は羽山の餌食に、とまではいかなかったのだが、木村に顔を近づけて今にも触れ合いそうになった時だった。何やら羽山は荒い息をつきながら苦しそうに顔を歪める。
「ちょっと、大丈夫ですか」
押し倒された状態で言う台詞ではないだろうが、羽山は尋常ではなく苦しそうに見えたので、背中を擦ろうと手を伸ばす。すると、ちょうど抱き締めるような体勢ができあがってしまい、非常事態に関わらず木村は動揺した。
なにぶん、羽山のような美形とここまで接近したことはないのだ。心配と焦りが混在した中で、誰か助けてくれと内心で叫んだ時に頭に浮かんだのは、何故か芥川の顔だった。
そして羽山をどかしたくてもどかせない状況で、パニックに陥りかけた木村は、無我夢中でここにいないその人の名前を叫んでいた。
「芥川ー!!」
その途端、計ったようなタイミングで着信が鳴った。木村の携帯だ。羽山を押し退けようともがきながら、携帯の在りかを探る。運良くポケットに入れっぱなしだった。 どうにか隙間から取り出して携帯の画面を見ると、期待した通りの相手からだ。
半泣きになりながら、木村は必死に説明を試みる。
「芥川、イケメンが」
「どうした」
「イケメンが」
「落ち着け」
「イケメンが眩しすぎて死ぬ」
「切っていいか」
「ちょっと待て!悪い、ちゃんと説明するから切らないでくれ」
慌てて芥川を呼び止めて、今度こそちゃんとした説明を試みる。
「羽山さんが、おかしいんだ」
「どんな様子だ」
「それが、俺にき、キスをしようとしてきて」
「……」
電話越しに何かが折れる音が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
「それで」
「もちろん未遂だけどさ、それよりなんか俺の上で苦しみ出して」
「……」
沈黙に多分の意味を込めている、間違いなく。確実に勘違いされたに違いないが、気にしている場合ではない。
「救急車は呼んだのか」
「まだだ。そうだな、呼んだ方がーー」
そこまで言いかけた時、上に乗っていた羽山が身動ぎして、木村を見た。
「あ、羽山さん。大丈夫ですか」
「チッ、しくじったか」
「え?」
一瞬、言葉もそうだが、纏う空気が羽山のそれとは違っているような気がした。違和感が臓器をざわりと撫で上げ、生唾を飲み込む。
羽山は木村の上に乗ったまま、嘲笑を浮かべると、そのままぐらりと傾いて倒れた。
「木村?」
慌てて羽山の体を受け止めた時に、衝撃が電話越しに伝わったようだ。芥川が驚いた声を出して、呼び掛けてくる。
「羽山さんが、倒れた。気を失ってる」
呆然としながら羽山の様子を告げると、芥川は早口に言ってくれた。
「分かった、すぐに行くから」
それから芥川が来るまでに、羽山の息を確かめたりしたところ、単に眠っているだけのようでひとまず安堵した。
羽山は念のため検査入院をすることになったが、どこにも異状は見つからなかったに違いないと、木村はどことなく確信していた。羽山の人が変わったような様子が、人格者か、あるいはオカルト番組にありがちの悪魔憑きによく似ていたからだ。
しかし特筆することがあるとすれば、奇妙な現象が起こるようになったのもまた事実だった。 例えば、物を無くしやすくなった。生来、きちんとした性分ではない木村だが、そこまで忘れっぽいところもなく、うっかり者だと言われたこともなかった。
いつも何かを無くしかけてもすぐに思い出していたはずなのだが、このところは物をどこかに置き忘れていたり、どこに置いたか分からなくなったりする。
それも、ようやく見つかったと思えば、置いたはずのない場所だったりした。そして何故だか、芥川が見つけてくれることも多い。
そんなことは気にするほどではないと思うのだが、細々と列挙するならばまだある。
次は、電化製品が故障しやすくなったことだ。買ったばかりの物が不良品で、返品交換したことなどいままでなかったように記憶しているが、買い換えたばかりのノートパソコンや音楽プレイヤー、今まで問題なく使っていたドライヤーに至るまでよく壊れるようになった。
木村が使うタイミングで壊れることも多く、家族からは苦情の嵐を食らうはめになっている。
そして極めつけには、友人が遠ざかるようになった。もともと友人が多い方だと自負している木村だが、理由もなく友人が自分を避け始めて、まるでいじめにでも遭っているように、芥川を除く誰一人声をかけてこなくなったのだ。
もっとも、芥川も何故だか木村の傍にいると調子を崩すようで、青い顔をしていることが多かったのだが。無理している必要はないと言ってみたところ、芥川はそればかりは頑として譲らなかった。
しかし木村はそうなったところで、あまり気にする性質ではない。一人ならば一人なりの楽しみ方というのを見つけていくと、意外と新しい発見があったりして後ろ向きにはならなかった。そしてこの状況を楽しんでいるところもあった。
原因が分からなければ不安にもなったかもしれないが、理由ははっきりしていて、更には事前に注意を受けていたことでもある。
具体的な例は挙げられていなかったが、確かに羽山は二人に伝えていた。レンタルゴーストのデメリットとして、運気が下がることもあると。そもそもこんなことくらいでへこたれていれば、レンタルゴーストを利用したりしないのだ。
死ぬほど恐ろしい目に遭わない限り、木村の目は覚めないであろうし、伊達にオカルト好きだと公言しているわけではない。ある意味で、木村のプライドとか意地といったものも作用しているのかもしれないが、多少は煩わしく感じても「彼岸花」へ行ったり羽山へ連絡して、中止する気にはなれなかった。
あくまでも、いまはまだ「体験」なのだから。
木村が周りから見れば全く有意義とは思えないレンタルゴースト体験を経験している最中、何の前触れもなく羽山から接触があった。
連絡先は教えていないのだが、住所は最初に知られている。昔ながらの友人宅に来たように、何てことない風に遊びに来た羽山も羽山だが、それに疑問を感じない木村も木村だ。
そして初対面の時と同様、二人にはどこか通じるものがあって、オカルト談義に花を咲かせる。そのうちに部屋にあるコレクションを見せるという話になり、流れで部屋に入れることになった。ちなみに、家族は皆、何の偶然かその時に限って出かけていた。
「へえ、木村君の部屋ってこうなっているんだね」
「ちょっと散らかってますんで、片付けます。ベッドにでも座っててください」
芸能人が一般人の自分の部屋にいるという非現実的な興奮を味わいながら、木村は半ば夢見心地で羽山に背を向ける。背後で羽山がベッドに腰掛けて、人の重みで軋む音がした。
「ねえ、木村君」
「はい?」
しばらく雑談混じりに忙しなく片付けていると、不意に羽山が改めて木村を呼んだ。どこか笑いを含んだ声色を不思議に思いながら振り返ると、羽山がベッドの上で何かを広げているのが目に入る。
「やっぱり巨乳好きなんだね」
即座に肯定しようとした木村は、その手元にある雑誌を見て固まった。いつかコンビニで入手して、捨てたはずのアダルト雑誌だ。また例の勝手に物が移動している現象が起きたのだと、白くなりかけた頭で思う。
何もここで起こらなくてもいいのにと嘆いても仕方がなかった。
「ええ、まあそうですね、否定はしませんよ。あはは」
乾いた笑い声を搾り出しながら、雑誌を取り上げようと手を伸ばす。相手が同級生であれば、そのまま下ネタへと話を転換させてもよかったが、相手は年上で、テレビの中の憧れの存在だ。さすがに羞恥が勝った。
しかし取り返そうと近付けた木村の手は、雑誌に届く前に空中で捕らえられる。羽山の熱を持った手の平に触れられ、続いてぎらつく強い眼差しを浴びて、流石の木村も身の危険というものを感じた。
「は、羽山さん?」
おそるおそる声をかけると、羽山はいつもの優しい印象からかけ離れた、怖いほど野獣を思わせる顔つきで、舌なめずりせんばかりに言った。
「ねえ、大人の男ってものもいいと思うよ。試してみない?」
そうしてそのまま引き寄せられて、木村は羽山の餌食に、とまではいかなかったのだが、木村に顔を近づけて今にも触れ合いそうになった時だった。何やら羽山は荒い息をつきながら苦しそうに顔を歪める。
「ちょっと、大丈夫ですか」
押し倒された状態で言う台詞ではないだろうが、羽山は尋常ではなく苦しそうに見えたので、背中を擦ろうと手を伸ばす。すると、ちょうど抱き締めるような体勢ができあがってしまい、非常事態に関わらず木村は動揺した。
なにぶん、羽山のような美形とここまで接近したことはないのだ。心配と焦りが混在した中で、誰か助けてくれと内心で叫んだ時に頭に浮かんだのは、何故か芥川の顔だった。
そして羽山をどかしたくてもどかせない状況で、パニックに陥りかけた木村は、無我夢中でここにいないその人の名前を叫んでいた。
「芥川ー!!」
その途端、計ったようなタイミングで着信が鳴った。木村の携帯だ。羽山を押し退けようともがきながら、携帯の在りかを探る。運良くポケットに入れっぱなしだった。 どうにか隙間から取り出して携帯の画面を見ると、期待した通りの相手からだ。
半泣きになりながら、木村は必死に説明を試みる。
「芥川、イケメンが」
「どうした」
「イケメンが」
「落ち着け」
「イケメンが眩しすぎて死ぬ」
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慌てて芥川を呼び止めて、今度こそちゃんとした説明を試みる。
「羽山さんが、おかしいんだ」
「どんな様子だ」
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「……」
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「それで」
「もちろん未遂だけどさ、それよりなんか俺の上で苦しみ出して」
「……」
沈黙に多分の意味を込めている、間違いなく。確実に勘違いされたに違いないが、気にしている場合ではない。
「救急車は呼んだのか」
「まだだ。そうだな、呼んだ方がーー」
そこまで言いかけた時、上に乗っていた羽山が身動ぎして、木村を見た。
「あ、羽山さん。大丈夫ですか」
「チッ、しくじったか」
「え?」
一瞬、言葉もそうだが、纏う空気が羽山のそれとは違っているような気がした。違和感が臓器をざわりと撫で上げ、生唾を飲み込む。
羽山は木村の上に乗ったまま、嘲笑を浮かべると、そのままぐらりと傾いて倒れた。
「木村?」
慌てて羽山の体を受け止めた時に、衝撃が電話越しに伝わったようだ。芥川が驚いた声を出して、呼び掛けてくる。
「羽山さんが、倒れた。気を失ってる」
呆然としながら羽山の様子を告げると、芥川は早口に言ってくれた。
「分かった、すぐに行くから」
それから芥川が来るまでに、羽山の息を確かめたりしたところ、単に眠っているだけのようでひとまず安堵した。
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