上 下
7 / 67
竹田詩乃、斎藤福寿と出会う。

3 エンドザワールドというスマホゲーム

しおりを挟む
「いや、電話がかかってくることもかけることも家族しかないんで」
「そんな、本ばかり読んでいるあんたにおすすめのゲームがあるんだな」
「嫌だな、みんなと違ってゲームなんてしませんよ」
まぁ、こんなスマホを使っていてゲームなんてしたら、三0分もしないうちに充電が切れてしまうだろう。私だったら、絶対にそんなスマホは耐えることができないと思った。でも、四月の新学期になってから、私に連絡をくれる友達なんてほとんど居なかった。だって、みんな新しい世界で生きている。
「いやいや、ノベルゲームで面白いんだよ」
「ノベルゲーム?」
「そこから説明が必要なの……」
「そういうゲームってお金かかるんでしょ?」
「いや、基本無料……」
斎藤はスマホの操作が分からないらしく、私が連絡先を交換するためにこいつのスマホを触っていた。驚いたことにロック機能すら使っていない。やれやれと思った。そして私は好きなゲームの布教をしていた。だって、私の友達はみんな就職だ。ゲームをする友達が少なくなる。これは毎朝のログインで通算ログインが途切れるフレンドが多くて、それで分かったことだ。だから、私はネットでも一人なのだ。

私はそんなことを言いつつゲームの説明を始めた。私は本とかは読まないタイプだったけれど、このゲームの長文を読むことはできるし面白いと思った。だから斎藤にもおすすめしたかったのだ。私にはこいつしか居ないような危機感がしていた。
「教えてくれないなら、僕はそんなゲームなんてしません」
「はいはい、教えるから。ノベルゲームは文章を読むゲームなの」
「それならこういう本で良くない?」
言われる通りでうまく返す言葉がない。こいつは頭が良いから、今までの私の友達と違って会話することで頭を使う。
「いや、選択肢によってルート分岐があったりするわけ」
「それって面白そうですね」
「だろ?あんたのスマホ見てみ。ダウンロードしてある」
「竹田さんは行動が早いですね」
斎藤のスマホはダウンロードのスピードも遅くて、それでイライラしたものだ。こんなスマホでも一応プレイはできるらしい。どこまで快適にプレイできるかは私の知るところではないのだが。そんなことは説明しなかった。今はスマホでも四Dでゲームをプレイすることができる。だが、それをする人は少ない。だいたい二Dでプレイする。それがバッテリーの持ちも良く、画面酔いなどもしない。長時間やり込むには古いタイプの画面でやるべきだ。私はゲームが好きだからなおさら思う。

ゲームの起動画面にしてから、名前に入力を求められた。
「名前何にする?」
「じゃあ、ふくじゅんで」
「あんたの下の名前って福寿だったよな?」
思ったよりも可愛いハンドルネームだ。一見、男か女かなんて分からない。ネットの世界というのは、今も昔も性別なんて分からない。そこでステータスが【知り合い】から【友人】へと変わった。これくらい話す間柄なら友達と判断されたのだろう。ただの同学年ではない。しかし色はまだ白いままだ。
「よく覚えてましたね。僕は竹田さんの下の名前知りませんけど」
「私は詩乃だよ」
「じゃあ、しのりんですね」
「どうしてその基準になるんだよ」
私は斎藤の発言にいらっとしながら、でもこいつが私に興味を持ってくれたことが嬉しい部分もあったのだ。私は斎藤にスマホを返す。
「まぁ、あまりやり込みすぎるなよ」
「勧めておいてそんなこと言うんだ?」
不思議そうに私とスマホの画面を眺めていた。このゲームはサービス開始一ヶ月でまだユーザーは足並み揃えている感じだ。だから、私の方が有利とかそういう立場上の問題はない。まだゲームシステムも安定してないし、緊急にメンテナンスが入ったりしている。そんなんだから、働き始めた友達はみんなやめていくのだ。
しおりを挟む

処理中です...