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竹田詩乃、斎藤福寿との日々が始まる。

3 あやしいバイトの話

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「ところで、バイトってコンビニとかですか?」
「あんたさ、そんなコンビニで数十万も稼げると思うの」
「思えませんけど……」
「まぁ、あんたは知らないだろうけどこれね」
私はそう言って、闇バイトのページを開いたスマホを見せる。そして斎藤にもそのアドレスを送った。
そのバイトと言うのは深夜一時から五時までの四時間。マザーが置いてあるとされる部屋の前に居るというだけのもの。これで一回五万もらえる。これは一組が一万なので、私が行かなくても行ってももらえるのは一万だ。私は課金のせいで闇バイトをするなど本音をで誘える友達が居なかったため、一人で四時間扉の前で待機していただけだ。もちろん、そのゲームをやりながらというのが皮肉な話だ。
私はこのバイトを知るまでマザーは庁舎にはないと思っていた。だから、庁舎で行うこのバイトを知って、本当にマザーがあるのだということを実感した。マザーによって日本の平和は守られているのだし、どこかにはあると考えを改めた。それが東京の庁舎の一角だとは思わなかった。両親がマザー関連で働いている癖に、マザーを信じてこなかった。このバイトにはマザーの管理するヘルスメーターによる適性判断も必要になってくるため、私はこいつにアドレスを送った。

「斎藤、庁舎まで行くよ」
私はマザーの適性判断を受けるために斎藤を連れ出すことにした。だって、適性判断で合格が出なかったらこれ以上の収入のあるバイトを探さないといけない。斎藤だって眼鏡を外して髪型をセットすれば、夜の仕事もできるかもしれない。私はそれをやらせたいとは思わなかったし、こいつがやれるとも思えない。
「今日はこれから僕はゼミですよ?」
「ゼミなんてサボれば良いのよ。それとも家に借金取りが来ても良いわけ」
「それはどっちも駄目ですけど……」
そう言う斎藤の腕を引っ張って、私はバス停まで来た。庁舎に行くバスはたくさん出ているので、待ち時間は少ない。
昔のドラマとかでは未来の日本は空にも交通機関が発展してると、そんな想像をしているものが多い。でも、実際の町並みはその頃のドラマと同じで車は空なんて飛ばない。海外は分からないけれど、日本はインフラ設備が遅れていて、事故をすると地上を歩く人や建物まで破壊される。なので、乗り物は空を飛ばない。政府が緊急事態と思ったときとかは飛ぶけど。しかし、電車やバスなどは完全な自動運転になった。だから自動車は昔と比べて簡単に免許が取れる。

「竹田さん、なんかごめんなさい」
「そうだよ、私はあんたのせいで!」
斎藤が悩む原因を作ったのは私なのだし、責めることは間違いだと思う。こいつは私のおすすめ作品も見た上で私と接してくれている。今までの友達には、オタクの話ができる人が居なかった。だから私はこいつを見捨てたくない。それにこいつは友人候補なのだろう?なら助けるべきだ。
「竹田さん、僕にあんたとかこいつとか酷くないですか?」
「お前が気にするとこはそこなの!」
「いやぁ、僕にもふくじゅんっていうハンドルネームありますし」
「分かったわよ、ふくじゅんって呼べってことね。嫌よ!」
私は呆れてしまうが、バスに乗っていた。私達ばバスでの時間の一0分はずっとゲームの体力の消費の時間にしていた。私は性能でしかキャラを見ていない。なので今回のピックアップはそこまで力を入れなかった。装備が強いから持っていると良いとは思ったけれど、三0万も入れる馬鹿がどこに居るのだ?
「竹田さん、このゲームって幸せに終わりますかね?」
「原作者が原作者でしょ?だから分からないわよ」
「僕は幸せに終わってくれると良いって思ってます」
このゲームは三月にリリースして、一ヶ月しか経っていない。なので、ここでサービス終了を考えることは早いだろう。それにあれだけ課金して最後を考えているとか馬鹿なのか?と思った。私だって五万ぐらい課金しているけれども。

私はスマホで案内された通りの順序で庁舎の中へ入っていく。簡単に言うとこのバイト専用の裏道である通路があるのだ。そこを通って面接まで行く。この裏バイトは学生とかがお金に困ってやることが多い。誰も居ない時間帯の無防備なマザーを守ることになるため、危険思考を持っていないかなどが試される。試されるって、町に設置されているヘルスメーターのちょっと高性能なもので、チェックを受けるだけ。マザーを疑っている私でも通ったのだから、こいつも大丈夫だろう。
マザー管理室と表示がある部屋の扉の前に立つ。そこには警備員の人が二人立っている。この代わりを私達がするのだ。どちらも【ノーデータ】と書いてあって、それで私に対する色は無色だ。私についてこれからも関わりのない人らしい。
「あの、闇バイトの件で予約した竹田と斎藤です」
「あぁ、さっき予約してくれた人ね」
「はい、いつもお世話になっています」
「竹田さんの両親が良いって言うんですからね」
扉を開いて気さくな男性が話しかけてくる。私が友達を連れて来るときも、一人で来るときもここに居るのはいつもと同じ担当のこの男性だ。その男性に言われる通りにその部屋に入った。この男性は【昔からの知り合い】と書いてあり、色はピンクだから自分が思っていたよりも親しまれているのだと思った。確かにこの男性にはよくお世話になっている。
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