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竹田詩乃、3回目のバイトをする。
4 私は弱い人
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「自分の周りから嫌な人を消せるボタンがあるとして、最初に消すのは福寿だと思う」
「え、僕みたいな不幸な人から消すんですか?周りにもっと居るでしょう」
「そうね、元彼とそいつと結婚した友達も消したいわね」
そんな物騒なことを平然と聞いてくれる。そんな福寿に安心感を覚える。この人を私が裏切ることはあっても、福寿からは私を裏切らないような気がする。私の周りに居た友達と思っていた人とは違うと感じた。
「でも一番最初に消したことを後悔するのも、きっと福寿だと思う」
「それって褒められているの?」
「捉え方はどっちでも良いよ」
私は嬉しかった。私は今までの知り合いに大学留年で見放されたけれど、それと同じぐらいの価値のある存在を手に入れた。知り合いはここまで私を考えてくれなかったと思う。福寿は友達が少ないから、福寿に占める私の割合は必然的に大きくなる。この男のことだから、私のことを大切に思っているとかじゃない。私と奈々美さんぐらいしか話せる女性が居ないと思う。でも、それは今の私も同じだ。
もしかしたら福寿と私というのは、似た者同士だ。やっぱり群れることが決められていたのでは?私もボタンを押そうとした。だって、私だって他人の不幸せで幸せになれたら良いと思ったから。力を入れるがなかなか押せない。プレスティックのガードとされる部分が想像以上にかたい。選択肢を私は見なかった。きっと選択肢はマザーを壊せなんて出ないと思ったから。私はマザーに人生を選んでもらえなかったことで、マザーに復讐がしたかった。
「これ、結構かたいわね」
「やっぱり押そうと思ったんですね」
「人の未来ってあんまり価値がないって分かったから、だから私でも引き受けることができるなぁって」
「それで僕に話をあわせろって言いたいの?」
「でも、福寿は前に私に嘘ついてほしくないって言ったじゃん?私は嘘はつかないつもりだからよろしく」
私は精一杯の力でそのボタンを押す。今度は男性はやってこない。廊下の上のスピーカーから声か聞こえる。
『二人ともバイト失格だよ?どっちが押したの?』
『私が押しました』
『未来はどうせ変わるから別に深くは問い詰めないけど、復旧に二時間ぐらいは必要なんだから僕の仕事が増えるわけ』
係員は国民の未来を心配せず、自分の仕事が増えることを億劫に思っている。なんかマザーの管理だというのに少しおかしい。未来はどうせ変わるって、マザーが決めることじゃないのか。
『おじさんはなんで責めないんですか?』
『バイト代は一万引かせてもらうよ』
『二000人の未来を奪って一万なの?』
『そうなると僕達の守ってる国民の未来って数円の価値ですよね』
国民の未来の価値がそんなにちっぽけだとは思わなかった。もっと保護されていて欲しいと私は感じていたから。でも、これが実際の問題なのだ。
「なんか、人の未来って分からないねぇ……」
私は福寿に問いかける。五時になる朝の光は眩しい。こんな清々しい朝なんて久しぶりだと思う。私はこの手で人の未来を潰した。私はそれで幸せにはなれない。でもただ奪われっぱなしの人生で、奪う側になることができた。
「詩乃さんまでもまさか押すとは思いませんでしたよ」
「私としては福寿ができると思ってなかったわ」
心は安定している。他人の幸福よりも不幸の方が望みやすい。
「不幸を望むことって簡単ですけど、人の幸せを望むのは難しい」
「それも奈々美さんの意見?」
「そうですね。幸せってのは臆病者だから、自分へも他人へもたくさん望まないとやってこないって言ってました」
「そっか、不幸は簡単に望むことができるけど、他人の幸福なんて少しも見たくもないものね……」
奈々美さんの意見は素晴らしいと思う。でも、幸せじゃない私には響かない。だって他人の幸せを望むことで幸せになっているとしたら、そんな簡単なことで幸せになるなら私はもっと昔に幸せになっていた。純粋な頃に幸せになっていた。
「え、僕みたいな不幸な人から消すんですか?周りにもっと居るでしょう」
「そうね、元彼とそいつと結婚した友達も消したいわね」
そんな物騒なことを平然と聞いてくれる。そんな福寿に安心感を覚える。この人を私が裏切ることはあっても、福寿からは私を裏切らないような気がする。私の周りに居た友達と思っていた人とは違うと感じた。
「でも一番最初に消したことを後悔するのも、きっと福寿だと思う」
「それって褒められているの?」
「捉え方はどっちでも良いよ」
私は嬉しかった。私は今までの知り合いに大学留年で見放されたけれど、それと同じぐらいの価値のある存在を手に入れた。知り合いはここまで私を考えてくれなかったと思う。福寿は友達が少ないから、福寿に占める私の割合は必然的に大きくなる。この男のことだから、私のことを大切に思っているとかじゃない。私と奈々美さんぐらいしか話せる女性が居ないと思う。でも、それは今の私も同じだ。
もしかしたら福寿と私というのは、似た者同士だ。やっぱり群れることが決められていたのでは?私もボタンを押そうとした。だって、私だって他人の不幸せで幸せになれたら良いと思ったから。力を入れるがなかなか押せない。プレスティックのガードとされる部分が想像以上にかたい。選択肢を私は見なかった。きっと選択肢はマザーを壊せなんて出ないと思ったから。私はマザーに人生を選んでもらえなかったことで、マザーに復讐がしたかった。
「これ、結構かたいわね」
「やっぱり押そうと思ったんですね」
「人の未来ってあんまり価値がないって分かったから、だから私でも引き受けることができるなぁって」
「それで僕に話をあわせろって言いたいの?」
「でも、福寿は前に私に嘘ついてほしくないって言ったじゃん?私は嘘はつかないつもりだからよろしく」
私は精一杯の力でそのボタンを押す。今度は男性はやってこない。廊下の上のスピーカーから声か聞こえる。
『二人ともバイト失格だよ?どっちが押したの?』
『私が押しました』
『未来はどうせ変わるから別に深くは問い詰めないけど、復旧に二時間ぐらいは必要なんだから僕の仕事が増えるわけ』
係員は国民の未来を心配せず、自分の仕事が増えることを億劫に思っている。なんかマザーの管理だというのに少しおかしい。未来はどうせ変わるって、マザーが決めることじゃないのか。
『おじさんはなんで責めないんですか?』
『バイト代は一万引かせてもらうよ』
『二000人の未来を奪って一万なの?』
『そうなると僕達の守ってる国民の未来って数円の価値ですよね』
国民の未来の価値がそんなにちっぽけだとは思わなかった。もっと保護されていて欲しいと私は感じていたから。でも、これが実際の問題なのだ。
「なんか、人の未来って分からないねぇ……」
私は福寿に問いかける。五時になる朝の光は眩しい。こんな清々しい朝なんて久しぶりだと思う。私はこの手で人の未来を潰した。私はそれで幸せにはなれない。でもただ奪われっぱなしの人生で、奪う側になることができた。
「詩乃さんまでもまさか押すとは思いませんでしたよ」
「私としては福寿ができると思ってなかったわ」
心は安定している。他人の幸福よりも不幸の方が望みやすい。
「不幸を望むことって簡単ですけど、人の幸せを望むのは難しい」
「それも奈々美さんの意見?」
「そうですね。幸せってのは臆病者だから、自分へも他人へもたくさん望まないとやってこないって言ってました」
「そっか、不幸は簡単に望むことができるけど、他人の幸福なんて少しも見たくもないものね……」
奈々美さんの意見は素晴らしいと思う。でも、幸せじゃない私には響かない。だって他人の幸せを望むことで幸せになっているとしたら、そんな簡単なことで幸せになるなら私はもっと昔に幸せになっていた。純粋な頃に幸せになっていた。
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