呪われた椿家のお嬢は俺が必ず異世界から救い出します

サボタージュ石塚

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呪われた椿家

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「本日から配属されましたサカタと申します。至らない点があるかと思いますが宜しくお願いします。」

 俺は高校を卒業と同時に椿グループという財閥の執事として運良く働ける事になった。
 そして、今、目の前にいるのが令嬢のマリ様だ。

 マリ様はまだ一五歳にも関わらず大人の色気がある美女で、婚約の申し出が引っ切り無しという噂だ。
 マリ様は絹の様な腰まで伸びた黒髪をクルクルといじりながら、俺をじっーと見ている。

「私はマリです。サカタさんにお願いしたい事がある際は、このベルを鳴らすので宜しくお願いします。」

 そう言ってマリ様はベルをチリリリンと鳴らすとニコッと輝く様な笑顔を向けてくれた。
 ずっと男子校だった俺は女性に免疫が無く、これだけでマリ様を好きになってしまった。
 気の利いたセリフでも言えれば良かったのだが、何も思い浮かばずにお辞儀だけして部屋を出た。

 呼び出される度に気の利いたセリフを言おうと思うが、言葉が出ずに機械の様に用件を片付ける男になってしまった。
 仕方ないからコツコツと信用を重ね、歳を取った時に親しみを込めて爺やと呼ばれる存在を目指そう。

 しかし、決して叶わない初恋は日が経つにつれて歪んできた。
 今なんてマリ様の使用済ベットシーツを自分のベットシーツと交換している。
 懸想している事がバレたら此処には居られないだらうと思うと、マリ様への態度は一層堅くなった。

 因みに洋服は洗濯専門の女性メイドがいるから手を付けていない。



 椿グループに執事として働き始めて三年が経過し、マリ様も一八歳の年頃になった。

 俺とマリ様の距離は依然として縮まっていない。
 変わった点は俺をサカタと呼び捨てになった事くらいだ。

「サカタ、今日は良い天気ね。庭へバードウオッチングにでも行こうかしら。」

 この館の庭は遭難出来る程広い。
 最も恐ろしい特徴は衛星電話すら繋がらない特殊な環境だ。
 原因は解明出来ていないが、特殊な訓練を受けたガイドがいれば問題無いとの事。

「ハイ。ガイドのボボへ連絡しておきます。」

「たまにはサカタも一緒に行きましょうよ。」

 マリ様は出かける時に俺を誘う事が稀にあるが、懸想を感じられる恐れがあった為に断っていた。
 断る度に悶々とした気持ちになったが、爺やの道の為に我慢するしかなかったのだ。

 でも、今回は一緒に行こうと思う。
 新しく入って来たガイドのボボとだけは二人きりに出来ないのだ。
 ボボは絵に描いたようなイケメン白人で、マリ様に馴れ馴れしく話し掛けるだけでなく、肩に手を回したりもする。

「ハイ、行きます。」 

 余程驚いたのか目を見開き、令嬢の顔から普通の女の子の顔になっていた。
 こちらの顔も悪くないな。

「そう。なら準備なさいな。」

「ハイ。失礼します。」

 一時間程で準備を済ませてマリ様とボボの三人で館を出発した。
 ボボが先頭で俺はお嬢様を挟む様に後方にいる。

「岩男さん、食料と水は持ってきてますよね。忘れたら洒落になりませんよ。」

 ボボは堅物の俺を岩男と呼んで馬鹿にしている。
 事実ではあるがこんな奴には言われたく無い。
 そんな事よりもボボが地図も見ずに進んでいる事を場が白けない様に注意しなければならい。

「ボボ、あとどの程度で目的地に着くんだ。」

「堅いねぇ。心配しなくとも予定通り進んでいますって。間も無く到着です。」

 それから休憩を挟みながら一時間が経過。

 ボボは口数が減り地図を睨みながら進んでいる。
 遭難がほぼ確定した為、気づかれない様にボボでさえ知らない特殊な発信機のSOSスイッチを押す。
 余りにも強力な電波の為、付近一帯に通信障害が発生する事が分かっている。
 近隣の方には申し訳ないが、これで三十分以内には救助のヘリが来るだろう。

「ボボ、ランチの時間だ。お前はそこら辺の雑草でも食っとけ。」

 ブーブー文句を言うボボを無視して、チーズホォンデュの準備をする。

「サカタ、とっても美味しいわ。二人も一緒に食べましょうよ。」

 マリ様も遭難には気が付いてるが、流石令嬢だけあって表に全く不安を出さない。
 それどころか俺達の気分を和らげようと笑顔を絶やさないでいてくれている。

 マリ様と同じ鍋をつつく訳にいかないから、仕方なくサンドイッチをボボに投げつけ、俺も同じ物を食べ始める。

 食後のデザートであるビワの寒天を全員で食べた後、動く訳には行かないから時間潰しの為にバードウオッチングを始めた。

 ボボにはこっそりと救助が遅すぎる事を伝え、周囲の探索を命じてある。
 こんな状況なのにマリ様と二人きりで居れる事が嬉しい。

 ボボが戻って来ないまま日が落ちて、周囲が暗闇になってしまった。

「ボボ遅いわね。私達を置いて帰ったんじゃないかしら。」

 マリ様は初めて不安を露わにした。

「あの男ならあり得ますね。私は木に登って灯りが見えないか確認してきます。」

 木登りは得意だが暗闇の中で登った経験は無い。
 しかし、日が昇ってからでは目標となる物を発見する事は困難になるだろう。
 一番背の高い杉の木を選んでゆっくりと慎重に登って行くと、そう遠くない場所に青白い光を放っている神社の様な物が見えた。
 それ以外は何も見えない。

 滑る様にゆっくりと杉の木を降りる。

「マリ様、神社の様な物が見えました。」

 喜んで貰えると思ったがマリ様は無言で、心なしか手足が震えている様に見える。

「駄目よサカタ、椿家には『森の社に近づく事無かれ、人ならざる者がいる』という言い伝えがあるわ。まさか本当に存在していたとは思わなかった。」

 何それ超怖い。
 でも、残り少ない食料を考えると危険を冒しても行くしか無いだろう。

「私が様子を見に行ってきますので、マリ様はここで待っていて下さい。危険な場所であった場合、大声を出しますので逃げて下さい。安全だと確認出来たら迎えに来ます。」

 一緒に行くと主張されたが多少強引に置いてきた。
 神社が近づくに連れてマリ様を置いてきて正解だったという思いが強くなる。
 上手く言葉に出来ないが、近づけば確実にこの世の生が終わると感じる。

 勇気を奮い立たせて境内に侵入した。
 ふと、何となく嫌な感じがして振り返ると青白い顔をした神主らしき人が舌をベロンと垂れ下げながら立っていた。

 逃げようと思ったが身体が全く動かない。
 せめてマリ様に危険を知らせる為に声を上げようとするがそれも出来ない。

「お参りですか。それとも、お礼参りですか。」

 言ってる意味が分からないがテレビの水曜特番より怖えぇ。
 目の焦点もおかしいし、この人ホラー映画の主役になれる迫力あるよ。

「答えないなら、椿の花を飲みなさい。」

 いつのまにか神主の手に一輪の椿が咲いた枝が握られている。
 どうやら俺の口の中に突っ込むらしい。
 こんな事になるならマリ様の手でも握っておけば良かったな。

「サカタ気をしっかり持ちなさい。私を守ってくれるんでしょう。」

 震えながら木の棒を構えているマリ様がいた。
 でも身体が動かないんです。
 お願いだから逃げて下さい。
 神主は首だけを百八十度回転させてマリ様を見ている。

「ようやく見つけた椿の末裔。死の安寧など与えぬ。永遠の闇を彷徨え、開け暗黒門。」

 ブラックホールの様な物が現れマリ様を一瞬で引きずり込んだ。
 あぁぁ、何てことするんだよ。
 俺はショックのあまり顔を両手で塞ぐ。
 ふと身体が自由になる事に気付いた俺は神主目指して走り出した。
 油断している神主の腰にタックルし、そのまま一緒にブラックホールの様なものに突っ込んでやった。



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