異世界国立漢指南所の総長マサル

サボタージュ石塚

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異世界転移

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 三十歳の誕生日に誰に祝われる事なく、自宅のアパートでスマホのネット小説を読んでいた。

 内容は魔物を倒すとスキルを奪えるという定番チート小説である。
 定番という言葉に嫌悪感を感じる人もいるらしいが、俺は定番が好きだ。

 ブックマークしている小説を読み終えてランキングをチェックしていると、【異世界へGO】という広告を発見した。
 躊躇なく広告を押すと、ウイルスに感染しそうな派手さがある異世界チャレンジというページが表示された。
 ごちゃごちゃしていて非常に見にくい。

 激しく主張してくるポップアップ広告を潜り抜けて、異世界チャレンジ開始のボタンを押した。
 直後に電話番号登録もしてないのに異世界管理局からのコールが鳴っている。

 新手の詐欺だなと思いつつも、ちょっとした寂しさを埋めるために電話に出た。

「はい、光の勇者ダインです。」

 本名は加藤マサルだが、勇者風の偽名で済ませた。

「おめでとうございます。加藤マサル様は見事に異世界転移の権利を獲得しました。利用規約に基づき、今から転移を開始します。」

 ボイスチェンジャーを使っている様な低い男の声で、感情が一切感じられなかった。
 それだけでもお腹いっぱいなのに、本名はバレているし、光の勇者がスルーされるしで頭の中が真っ白になっていた。
 取り敢えず、お金を取られない方向に進めていこうと思っていると、足元が光り出し見知らぬ場所に転移させられた。


 転移先はRPGに出てきそうな石造りの部屋の中だ。
 薄暗い部屋の中で俺の足元だけが眩しいくらいに光っている。

「勇者様、突然の無礼をお許し下さい。我がブルブル王国に滅亡の前兆が現れた為、勇者召喚の儀を行わせて頂きました。」

 暗さに目が慣れてくると、片膝をついて頭を下げている人が五人程確認出来た。

「魔王の復活ですか・・・。」

 助けてあげたいと思うが、さっきからずっとステータスと心で叫んでいるが一向にボードが現れない。
 チート無しルートを選択してしまった可能性が高い。

「違います。出生率の低下で人口が激減しているんです。魔物は人里離れた場所におりますが、魔王は数百年前に滅んだと聞いています。」

 この言い回しだと魔物が人口を減らしている訳でも無さそうだ。

「俺に何を期待して呼んだか教えて下さい。」

「出生率増加をお願いしたいのです。手段はお任せします。しかし、恥ずかしながら我が国の財政状況は芳しくなく、金貨三千枚の予算でお願いしたいのです。」

 剣と魔法の定番を期待していただけに、出生率の増加なんて面倒くさそうという印象しか受けない。
 断ったらどうなるのだろうか。

「その前に元の世界に帰る方法はあるのですか。」

「もちろんございます。ただし、一億人に一人の確立で生まれる空間魔術の才を持つものが二人必要です。現在は一人しかおらず、送還の儀を行う事が出来ません。ほとんど強制になる形で恐縮ですが、人口を倍にして頂ければ元の世界に戻れると思います。」

 嘘を付いている可能性はあるが、現状では選択肢は無いな。

「分りました。お引き受けしましょう。」

「おお、ありがとうございます。本日はお疲れでしょうから詳細の打ち合わせは明日からという事でお願いします。」

 足元の光も収まり、暗さに目が慣れてきた。
 俺が話していたのは王冠を被っているヒゲオヤジだから王様だろう。

 他は大臣っぽい人が三人と、空間魔術師っぽいローブの人が一人だ。
 王が手をパンパンと叩くと扉が開かれ、たくさんのメイド達が光と共に小走りで部屋に入ってきた。

「私達は勇者様専属のメイドです。八人おりますので名前を勇者様に付けて頂きたいと思います。」

 めんどくせぇな。
 二人くらいで良いよって思ったけど、メイド達が目を輝かせて俺を見ているから断れる雰囲気じゃない。
 だが、ステータスボードが出なくて苛立っている勇者を甘く見るなよ。
 貴様らの目から光を消し去ってやろう。

「左から名前を付けます。イチ、ニイ、サン、シイ、ゴオ、ロク、ナナ、ハチ、以上です。」

「素晴らしい名前をありがとうございます。一生この名で生きていきます。」

 まじかよ。
 ちょっと罪悪感が出ちゃうじゃん。
 ゴオなんてオッサンみたいだよ。
 今喋っているイチは頭が切れそうだから、内心は怒っているかも知れないな。

「勇者様にご提案があります。せっかく数字の名前を頂戴しましたので、手を叩く回数で呼ぶ者を選別しましょう。私でしたら一回、ニイでしたら二回です。如何でしょうか。」

 また、めんどくせぇ事言い始めた。
 自分がイチだからこんな事を言っているのだろう。
 ナナやハチが顔を青くしているぞ。

「それで大丈夫です。」

「では客室にご案内します。」

 召還の儀を行った部屋を出ると、赤い絨毯が引かれた通路に出た。
 調度品も一定間隔で置いてあり、美術館かよって思ったね。
 入場料は三千二百円で、年間パスポートが八千円ってとこかな。

 通路は直線ではなく、何度も折れ曲がり、時には上りの階段があったら、下りの階段があったりした。
 突き当たりに扉があったから到着したかと思ったが、施錠を解除して扉を開けるとまた通路が現れた。
 めんどくせぇな。
 火事になったら間違いなく逃げられないだろ。
 侵入者対策でこの様な造りがあると聞いた事はあるが、実際歩いてみると実用性が皆無だ。
 そして窓が無いから何階を歩いているのか分らん。

「まだ客室に着きませんか。」

「大変申し訳ございません。勇者様は歩く事が得意ではないのですね。丁度到着したところです。」

 ラスボスの部屋に通じている様な両開きの扉があった。
 扉は見上げるほど大きく、金属製で重厚感が半端でない。
 更に悪魔の様な彫刻が一面に細かく施されている。
 この扉開けたらラスボス出てくるんじゃね。

「この扉は魔王の扉を流用した物です。これ程の扉は滅多に御目にかかれませんよ。では部屋の中にご案内しますので少々お待ち下さい。」

 扉の前に八人が並んだ。

「せーのっ、、せーのっ、、せーのっ・・・。

 片扉に四人付いて、総勢八人掛りで扉を押している。
 アホだ。
 部屋から出たい時、一人で部屋から出れねぇじゃん。

「お待たせしました。それでは中に入りましょう。」

 イチは涼しい顔をしているが扉が少ししか開いていない。
 五十センチくらい。
 途中で諦めんなよ。

 イチが最初に入ったけど、巨乳が引っかかって苦労してた。
 俺は顔を擦りむきながら入った。
 ゴオなんて太っているから入れなかったよ。

 ゴオを除く全員なんとか部屋に入れた。
 ゴオは首から上だけが扉の隙間から出て部屋を除いている。

 中はベッド、洗面台、風呂、トイレという感じで特別豪華という訳ではなかった。

「それでは勇者様、後ほどティーセットをご用意します。それまでごゆっくりお寛ぎ下さい。」

 七人は綺麗に揃ってお辞儀した後、部屋を出て行った。
 なんかメチャクチャ疲れたな。
 ベッドに横になり少し寝よう。

「せーのっ、、せーのっ、、せーのっ・・・。」

 閉める時もうるせぇのかよ。
 もう開けたままで良いから休ませてくれ。


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