37 / 62
魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。
晩餐②
しおりを挟む「強いてあげるなら……、会長は模擬訓練にあまり参加しないで良いかな、と思ったぐらいです」
あくまでも控えめに発言する。杞憂かもしれないのだから、余計なお世話では不快にさせるだけだ。
当然、予想もしていない言葉だったのか、目を丸くするユーリカ。和久とニイナも、驚いたように固まっている。
「……どう言う意味? 私には不要の訓練、ってこと?」
「違いますよ。この紺碧校で、会長と競える人がいないから……そこが残念かな、と」
コーヒーカップの黒い波紋を眺めながら、そう零す。
本当に、残念だと思ったのだ。切磋琢磨する相手がいない、孤高の存在になってしまっていることが。
今日の模擬訓練だって、誰もがユーリカを警戒していたが、一瞬で敗北を悟ると、いかに長く耐えられるかだけが焦点になっていたように思う。
ユーリカにしたって、本気の戦いの中で磨かれていく筈だった才能が、手加減だらけの毎日の影響で伸び悩んでいるのなら、双方共に全く有益ではない。それならばいっそ模擬訓練なんて、月に1回程度の参加でも良いだろう。その方が、良い刺激に繋がるかもしれない。
たった一度、模擬訓練に参加しただけの自分が、とやかく言えたことでは無いですが……と付け加えると、ユーリカの小さな溜息が聞こえた。
視線を上げると、少し困ったような、頼り気無い表情のユーリカと目があう。
「……そう、見えるんだ……。じゃあやっぱり、ダメね。私もまだまだ、強くならないと」
肩を竦めて自嘲気味に笑うユーリカは、先程までの自信に満ちた、『生徒会長』という鎧を脱いでいるようだった。周囲の使用人に世話されている姿も相まると、本当に深窓の令嬢に見える。
「っ、ちょ、会長は十分強いですからね! 俺たちが不甲斐ないからダメなんすよ!? そういう意味だろ、累?」
「そうですっ! 私たちが勝手に憧れすぎて、会長に頼りすぎちゃったんです。もっと頑張りますっ!」
焦ってフォローする和久と、拳を作って気合いを入れるニイナ。
当人でも無いのに必死になってくれるその姿に、ユーリカも相好を崩して吹き出した。
「ふふっ、2人とも優しいのねー。じゃあこれからは、より一層お互い高め合えるように、ビシバシいきましょう!」
「あー……や、そこはやっぱり……」
「徐々にで。徐々にがいいです……」
さっきまでのテンションはどこへやら。
ユーリカの好戦的にも見える意志の強そうな表情に、和久とニイナの方が勢いを無くしている。
そんな2人の萎びた姿を見て、更に楽し気に笑ったユーリカは、次いで累を見た。
「貴重な意見をありがとうね、峯月くん。私も最近、成長を実感できなくて悩んでいたのよ。誰かに言われると、すごい納得だわー。……そうね、もっと実地訓練に出る機会を貰えるように、生徒会で意見をまとめてみようかしら……」
「良いと思いますよ。そういう提案なら、無下にはされないでしょう。現場の魔法士としても、強力な戦力になるでしょうし」
実際、ユーリカほどの実力があれば、師団員と遜色ないどころか、むしろ数年の経験値なんて吹き飛ばしてしまうだろう。手厚く育成していく、という今の魔法学校の方針の枠にハマらない、優秀な実力者への配慮だって必要だと思う。
しかし提案を受けても、判断に悩んだ学校側が、師団へ打診もせずに却下する可能性があるかもしれない。そこは慎重に確認しておこうかな……と、一応、潜入調査の名目は忘れていなかった。
「さっそく明日、生徒会の議題にしてみるわね。……それはそれとして……」
生徒会長の顔で提議することを明言したユーリカだったが、少し溜めた言葉の後、悪戯気に累に笑いかけた。
「私、今日、峯月くんからイイ刺激を貰ったのよね」
「ぇ……?」
「だから峯月くんが、私の切磋琢磨相手になってくれたら良いんじゃないかしら?」
「はいぃ?」
なんていう思いつきだ。
思わず嫌そうな顔をしてしまったが、決してユーリカの相手をするのが嫌なんじゃない。……俊敏に立ち回るユーリカの相手なんて、絶対に無理だと断言できるだけだ。
「どこをどう見たら、会長の相手がつとまると思ったんでしょうか……」
情けないのは重々承知しているが、それでもあえて言おう。彼女の戦闘訓練の相手なんて、絶対に無理です。
「だって今日、峯月くんに勝てなかったんだもの……」
「誤解を生みますーっ!!」
「え、累くん会長に勝ったの……?」
「勝ってないからっ。ほら、誤解が生まれてるっ!」
想定通りに誤解したニイナが、きょとんとした顔でこちらを見ている。
「まぁ、確かに累は、負けてはいねぇな。…………全力で逃げてたし」
「そうそこ! その情報大事ですよっ!」
「敵前逃亡をアピールすんなっ!」
「けど逃げれるだけでも凄いよぉー?」
そう言って純真な眼差しで見つめてくるニイナ。いや、辛いです……。
「私も、久々に狙った目標に攻撃魔法が当てられなかったのよ。あんなにゆっくり動いてた的だったのに」
「的って……。全身全霊で逃げてたんですけど……」
「褒めてるのよ? それほどの精度で、私の魔力を察知していたってことなんだから。後学のためにも、どうやって見えているのか教えて欲しいぐらい」
そんなこと言われても、累にとってはこれが普通の視界なのだ。便利だとは思っているが、当たり前のこと過ぎて、特別な武器とは思えない。
冷静に、だが非常に面白い対象とでもいうかのように、正面からじっと見つめてくるユーリカの瞳に困惑する。
こういう視線には慣れていないのだ。
累の正体を知っている者からは憧憬と崇拝が、知らない者からは、ただの学生としての扱いが常だった。身分を隠した気楽な生活を好んでいるのは、そういう煩わしい視線から、逃げたいがためでもあったのだが……。
「だから、君が良いと思ったんだけどな」
にこりと、ストレートに要求してくるユーリカ。艶やかな笑みには、その立場の人間にしか醸し出せない求心力がある。
素直な姿勢には好感が持てるものの、だからと言って承諾は出来なかった。魔法士として規格外の累が相手をしたところで、参考になることも少ないだろう。
それに、何度も言うが、
「いや、無理です。そんな体力、かけらもありませんって」
「なによーう。基礎訓練もみっちり付き合ってあげるわよー?」
「ちょ、ちょ、会長、それはダメっすよ!? 編入早々、累が会長のファン達に目の敵にされますよ!?」
その前に副会長に滅殺されるだろうけど……という続きが聞こえた気がしないでもないが、ひとまず強い味方を得た。……と思ったが、
「そもそもこいつ、ライバルはニイナなんで」
「はぃい?」
突然の話の展開に、食い気味の疑問符だ。
「だってお前、絶対にニイナの運動神経よりはマシ、って思ってるだろ?」
「ぎくっ……なんでわかった……」
「ひっどーい、累くん! そんなこと思ってたのー!?」
「いやいや、酷いって……ニイナこそ自分の方がマシだって思ってる!?」
「私、累くんよりは基礎体力あるよ!?」
「…………」
「…………間違いないわ」
冷静すぎるユーリカの呟きを以て、判定はニイナの勝ち、だった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ
黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ!
「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。
だが、それは新たな伝説の始まりだった!
「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」
前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる!
「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」
仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。
一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを!
無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる