禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜

しののめ すぴこ

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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。

晩餐③

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 えっへん、とでも言いそうな調子で胸を張るニイナに、降参の意を示しつつ、カップをソーサーに戻す。
 未だ累に勝ったことを嬉しそうにアピールするニイナに苦笑しつつ、そういえばこのタイミングで、紺碧師団の副師団長から依頼された件を聞いてみようか、と口を開いた。

「——あのさ、ちょっと教えて欲しいんだけど……、少し前に退学した、ヘルベルト・ヨークって知ってる?」
「あら、ヘルベルト? もちろん知ってるわよ。ねぇ、ニイナ」
「うん、知ってるよ。だってつい最近まで一緒に訓練してたし……ドロップアウトしちゃったけど……」
「そのさ、ドロップアウトの理由って知ってる?」

 あまり楽しい話題では無いだろうから、躊躇いがちに質問を続ける。

「理由……ねぇ。私たちも知りたいぐらい。彼、成績は良い方だったのよ? 実地訓練にも出てたし、来春の師団入りは間違いなかったわ」
「なのに、書き置きだけ残して、突然居なくなっちゃったから……。実は何か事件に巻き込まれたんじゃ無いか、とか考えちゃうと……心配だよね……」

 冷静に推察するユーリカと、眉を下げてヘルベルトの行方を気遣うニイナ。
 やはりクラスメイトとしては、気にならないわけがないだろう。

「その書き置きに、何か理由は書いてなかったの?」
「書いてあるにはあったのだけれど……自分の実力不足とか、師団に入る自信がないとか、誰でも悩んでそうな内容だけ。最後に、外の世界で修練する、って書いてあったけど、本気の言葉かはわからないわ」

 その書き置きが本心だとして、外の世界で修練だなんて、危険が増すばかりで効率的とは思えない。成績が良い方だったら尚更、このまま順調に師団へ入った方が、確実な形で経験をつめただろう。

「ま、ヘルベルトがお前みたいに、ちょっと気が向いたから転校しよう、って奴だったら、なんも心配することねぇんだけどな」
「なぜ引き合いに出されたのかな?」
「胸に手を当てて考えろ」

 最後の一口を放り込んだ和久が、スプーンを置いて揶揄うように笑った。

 問題児の代表例のような扱いは、甚だ不本意ではあるが仕方ない。適当な編入理由を練り上げてこなかった、己の怠慢だ。

「っていうか、累くんはどうしてヘルベルトを知ってるの?」
「あー、面識は無いんだけど、彼の叔父さんと会う機会があってね。行方を捜してるって言うから、誰か知ってる人いないかなーと思って」
「そっか、やっぱりお家にも帰ってないんだ……。何か知ってたらよかったんだけど……」
「……あー……、でもさ……ちょっと噂があったよな」

 落ち込むニイナに続けて、和久が思案げに視線を彷徨わせた。

「……噂?」
「あぁ。頻繁に外出してるから、オンナでも出来たんじゃ無いか、って噂」
「やだ、何それ。駆け落ちかも、ってこと?」

 ロマンチックな話が聞けるのかと目を輝かせたユーリカだったが、すぐに和久が苦笑気味に首を振った。

「いやぁ、さすがにそれは……でもその頃、ノクスロスが頻繁に現れてたじゃないですか。それに乗じてか、離反者が活動してるって噂もあったし……。だから外出は控えとけって言ったんスけど、大丈夫、だと」
「なぁんだ、燃える恋の話じゃ無いのね」
「ははは、会長も好きですねぇ。……そうなんですよ。オンナが出来て浮かれてる、ってよりは、秘密で特訓してます、って感じの雰囲気があって……。だからまぁ……そのまま別の場所で鍛えることを選んだって、不思議じゃ無いなぁ、とは思ったんスよね、俺は」

 ま、個人的な感想なんで本気に取らないでくださいよ、と注釈を続けた和久は、シュガーポットのトングを何回も往復させている。コーヒー1杯に、一体何個の砂糖を入れる気だ……。

 ともかく、ヘルベルトのドロップアウトについて、ユーリカやニイナとは、全く違う印象を抱いてことがわかった。
 完全に理由不明な失踪、と言うわけじゃなさそうだが、なんにせよ想像の域を出ない。

「そっか……わかった、ありがとう。もしまた何か気付いたことがあったら……」
「うんっ、その時は累くんに伝えるねっ!」
「あまり期待はしないで欲しいけれど、私も生徒会のツテで何かわかれば、ね」
「俺も、外出の話を知ってる奴がいたら、チラッと聞いておく」

 快く協力を申し出てくれた3人に礼を言い、残っていたコーヒーを飲み干した。

 そのまま少しの間、別の話題で食後の雑談を楽しんだが、そろそろお暇の時間だ。窓の外もだいぶ暗い。

「——さぁってと。そろそろ部屋に戻るか」


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