50 / 62
実地訓練−治安維持活動:編入3日目
治安維持活動③
しおりを挟む「だからね、何か困ってたら、いつでも教えてね。頼りにならないかもしれないけど、でも、私、
——累くんのこと好きだからさ」
「え……あ、ありがとう……」
ニイナの突然の告白に面食らった累。
一体どんな流れになれば、敵を背後にした緊迫感あるこの状況で、こんな会話になるのだろうか。
いや、嬉しいものは嬉しいが……なんて浮ついた気分に浸ったのも束の間、ニイナの表情がどんどん暗くなっていく。
あ、そういう系の話じゃなかったですか……。
あーびっくりしたー……と内心胸を撫で下ろしたのは許してクダサイ。
「その……綺麗な目の事とか、色々、累くんが言えない事、いっぱいあるかもしれないけど、でも……黙っていなくならないでね」
そう告げるニイナの長い睫毛は、滲んだ涙で濡れて束になり、瞬く度にキラキラと光を反射している。
累は、話が急降下すぎて、どうしたら良いのか分からず、困惑気味に頷いた。
「大丈夫だよ。編入したばっかりだし……」
「ほんと? 約束だよ?」
覗き込むように密着してくるニイナは、累の返事を聞いても、寂しそうな雰囲気のままだ。
累に気の利いた言葉なんて思い浮かぶはずもなく、ストレートに理由を聞いてみる。
「えっと、ニイナこそ、突然どうしたの……?」
「ぁ……そっか、知らないよね……。あの、ね、友達がね……、ドロップアウトしちゃったみたい」
「え……っ!?」
予想外の言葉に、思わず大きな声が漏れそうになり、慌てて口をつぐんだ。
「ドロップアウト……?」
「うん……。柚ちゃん、昨日から来てなくてね……、今日の朝、ドロップアウトが確定したの。……全然そんな雰囲気無かったから、本当にショックで……」
そんなことがあったのなら、落ち込んでいるのも納得できる。いや、それならそれで、もっとわかりやすく最初からこの話を振ってくれたら驚かなかったんですけど……なんて。
肩を落とすニイナの背中を、慰める意味合いで軽く撫でると、ひとつ、大きく息を吐いた彼女が、力なく笑った。
「私も柚ちゃんも、小さい頃、ノクスロスに襲われたことがあってね……ふふっ、まぁ良くある話なんだけど、助けに来てくれた魔法士様に憧れてたんだ。すっごいカッコ良かったの。あんな風になりたい、って、お互いに話してて……だからドロップアウトするなんて、まだ全然信じられないっていうか……」
「…………」
「何か困ってたなら、言ってくれたら良かったのに、って。……でも言えないから、黙って行っちゃったのかな……」
「え、黙って、って……もしかして……」
「うん。退学手続きとかはしてないみたい。部屋が空っぽで、訓練にも来ないから、今日付けで『除名処分』だって。——ヘルベルトみたいだね」
最後にポツリと呟いたニイナの言葉に、不審感が増す。
ヘルベルトは、置き手紙だけで行方をくらまし、ニイナの友達は、荷物ごと姿を消してしまった。
過酷な魔法学校とはいえ、こんなに簡単に生徒が脱走してしまうのは、少し変じゃないだろうか。それに、編入前に立ち寄った町でも、同じような噂を耳にした。……ということは、少なくともおかしい、と周囲が感じるほどの状況なのだ。
本当に、本人の意思での行動なのか、調べる必要があるだろう。
学校側が困難ならば、累が主導して。
冷静にそこまでを考えた累は、俯いた頰にさらりとかかる、ニイナの柔らかい髪を、指で梳いた。
「ニイナこそ、大丈夫?」
「えへへー、累くん優しい。……もちろん、大丈夫だよ。だって私、今は魔法士部隊の一員なんだから」
ふわりと顔を上げたニイナは、強い意志を持って累を見つめた。
瞳の奥に輝く、淡い魔力の炎が、呼応するように揺らめいているのがわかる。純真さが力になった、透明感のある魔力の色だ。
「次、柚ちゃんと会った時に、強くなった私を見せたいの。だから、頑張る」
眩しい笑顔のニイナが、累に向かって小さく拳を突き出した。
累も同じように、軽く手を握り、ニイナの拳にコツリと当てる。
「よし、じゃあこの状況、頑張ってどうにかしよう」
頷き合う2人。
……まさにその時。
「——まぁ、累様! このような場でご尊顔を拝せるなんて……カナリアの愛が通じたのでしょうか?」
高く艶めかしい少女の声が、静寂を破った。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ
黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ!
「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。
だが、それは新たな伝説の始まりだった!
「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」
前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる!
「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」
仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。
一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを!
無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる