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決壊
しおりを挟むそれから数日間、私は聖書のように拘置所のタンポポを何度も読み返し内容を心に刻んだ。「Just for today.今日1日だけ頑張ろう。」「Take it easy.気楽にいこう。自分の弱さを許してあげよう。」留置場でひたすら待つだけの時間に耐えかね、叫びだしたくなる度にこれらを思い返す。便所男が朝夜問わず喚き散らす度に、心を落ち着けてくれるよう神に祈った。だが1回だけ耐え切れずに、便所男と口論になってしまった。連日早朝3時頃から騒ぎ出す奴に報いを与えたい衝動を御しきれなかったのだ。奴は私と同じように人に迷惑をかけることだけを生きがいにしているような輩だ。そのため言うだけ無駄だということはわかっていたし、その行為により留置場担当官に迷惑がかかることも自覚していた。その結果非常に同情的ではあったが担当官に窘められてしまった。私はまた復讐に手を染めてしまった。イエス様、私は隣人愛を実行できそうにございません。理不尽な目に遭ったら報復しなければ気が済まないという悪い部分は健在であった。
「気楽にいこう。いきなり悪癖を変えられるわけではない。再発を繰り返しながら徐々に良くなっていくんだ。」
これもまた本に書かれていたことだ。徐々に悪い部分を変えていこう。理不尽に耐えられるよう頑張ろう。
因みに私のように悪いと知りつつ、欲望故にそれをしてしまう性向をアラクシアと呼ぶそうだ。かつてアリストテレスがニコマコス倫理学第7巻第3章の中で触れた内容が有名であり、そこでは自制心がない行動は合理性を欠いているが、何故そのような行為が存在するのかということが解説されているそうだ。アリストテレスは悪いことに対する知と無知の観点から自制心を欠く行動を分析しているようだ。自制心のない人はいかなる意味で悪いことを知っているのか。また自制心のない行為にはどのような無知が関係しているのかと。アクラシア論の解釈を巡っては議論が重ねられているようだが未だに決着を見ないでいるようだ。世の中ではこのように私の悩みが学問として研究されているのだ。これからは潔く先人の知恵を借りることにしよう。私のような愚か者には特別必要なことだ。
起訴から1週間ほど経ち初公判の日程が確定した。公判はまだ1ヵ月以上先ではあったが、私への沙汰が下る日は着々と近づいている。清木先生は県をまたいで活動をしているようでなかなかお会いできない。私にできることは公判のことを考えて辛抱強く待ち続けることだった。今日だけ精一杯頑張ろう。明日のことは明日の自分に託そう。もはやその日その日を乗り越えることが私の仕事だった。そうしていると自分よりも後に逮捕された便所男もとうとう拘置所へと移送されていった。自分はずっと居残りであったため前に進んでいないという心の辛さとずっと闘い続けていた。
ようやく示談の報が入ったのは起訴が告知されて3週間も経った後であった。逮捕から2ヵ月、交渉は難航したであろうが清木先生は噯にも出さず接見に応じてくださった。被害者側からの要求内容は次のとおりである。「私を許すことはできないが相場の2倍ほどの賠償金を支払えば示談に応じる」という内容であった。こちらとしては示談をしてもらえるだけで十分である。金銭的にも元から覚悟していた額の半値で収まるのだから二つ返事でその条件を受け入れ交渉を進めてもらうことにした。しかし後日、順調にいくかと思われた示談交渉に待ったをかけられた。相手側が条件を一転させ、要求額を元の2倍から3倍に釣り上げてきたのだ。2から3倍というのは具体的な賠償金額を相手側が濁してきたためである。即座に誰かの入れ知恵が働いたものであると直感した。新たな要求額は奇しくも当初より私が想定していた金額であったためそれ自体は構わないが、このまま鼬ごっことなり再び金額を釣り上げられるなんて御免である。この交渉に楔を打つためには賠償金周りの仕組みを理解することが不可欠であった。そして私が頼れるのは清木先生だけだ。先生はこの道のプロであるが、上手に質問しなければ求める情報は手に入らない。断っておくがこれは先生への批判では断じてない。人の心を覗き見てその抱える疑問に対し適切なアドバイスをすることなど、どのような熟練者でも不可能であるからだ。
まず頭によぎったことは次の疑問であった。何故相手は高めの値段設定を提示してから妥協点を探らなかったのか。今回はこちらが一方的に悪いうえに加害者側が賠償するという意思を見せている。私には負い目があるのだから始めから相手は強気な金額設定をするべきだ。そのように相手の立場になって考えた場合、小額から徐々に金額を釣り上げていく方法が適切とは思えなかった。もしそのことで交渉疲れをして、支払う側がへそを曲げてご破算になったら目も当てられない。賠償金が欲しいのであればそれは一番避けたい事態だろう。一先ずそのことに思い至った私は以下のように投げかけた。
――条件を翻してきたのは残念です。このようなことってよくあるんでしょうか?後から金額を釣り上げるくらいなら最初から多額の要求をして、相手から限度額を引き出す方が有効だと私は思うのです。これで仮に私がへそを曲げて示談しないということになったら、それは相手としても望まないことだと思うのですが。
「それはおっしゃる通りですね。ですが、賠償金の交渉をする場合は着手金というものが発生するのでそれは難しいんです。」
――着手金ですか?成功報酬とは違うものなんですか?
「そうです。着手金というのは成功報酬と違って前払いで弁護士に支払うものなのです。そして着手金の額というのは相手方へ要求する賠償金額に応じて高くなっていくんです。そのため高すぎる金額を請求すると相応に負担金がかかるんです。」
――そうなんですね。仮に要求した賠償金を下回ってしまった場合は差額分の返金をされたりしないんですか?
「差額の返金はないですね。基本的に払った分は戻りません。」
――よく理解できました。払い損になるということですね。今回のように賠償金を釣り上げる場合は着手金を上乗せするという認識で間違いありませんか?
「おそらくはそうだと思います。最初の反応を見て釣り上げられると判断したんでしょう。」
これで疑問は解消できた。それならこちらから行うことは私の限界をしっかりとアピールすることだ。
――私は最初にお伝えした通り今要求されている金額ならお支払するんですが、また翻されたら厳しいです。そのため以前先生にお伝えした金額が限界だと相手方には言っておいていただけますか?
「わかりました。示談をするにあたって示談書というものを作成するのですが、こちらからもいくつか条件をつけることができるのでそれを決めましょう。よくある条件はこれ以上賠償を請求しないで欲しいという文言を入れることですね。その他には検察に対し不起訴処分を求めるようにお願いするという条件などもあります。」
それは事前に話しておいてほしかったなあ。交渉条件を盛り込むならそれに応じて金額を設定しなければならない。私が相手に求める条件は2つ。即ち賠償請求の放棄と不起訴処分の請求である。賠償請求の放棄に関してはマストだ。賠償金のやり取りは1回のみで解決するべきだ。そのため実質不起訴処分を求めるか否かの2択を相手に選んでもらう形となる。後は金額の設定だが、条件をのんでもらうために相手の立場になって考えてみよう。まず相手は着手金を払ってしまっている。これは固定費だということを先ほど聞いている。そうである以上、要求額未満で妥協する可能性は低いものと考えられる。そのため少なくとも要求金を満たすようなオプションを1つは提示する必要があるだろう。今度は相手が最も避けたい事態を考えてみよう。一般的に刑事裁判前の示談をするメリットは賠償金額を比較的多く請求できるということにある。刑事裁判では示談の有無が情状酌量として考えられるからだ。つまり情状酌量ということを盾に示談金を民事の相場よりも引き上げやすいということだ。このことから相手は私に対する刑事罰よりも多くの賠償金をもらうことを重視していると見て取れる。逆に刑が確定してしまえば、その後ろ盾がなくなるため賠償金も相応に安くなる。ということは少なくとも刑事裁判前に示談を行う必要があるだろう。それは相手にとってもタイムリミットがあるということに他ならない。
考えを整理すると「要求額未満で妥協する可能性は低い」、「相手は多額の賠償金をもらうことを重視している」、「相手にはタイムリミットがある」、この3点が浮かび上がってきた。これを加味し、不起訴処分を求める場合は相手の主張する下限額、求めない場合は下限額に3/4を乗じた金額を提示した。これは敢えて相手の要求額を割り込む金額を提示することにより、この辺りの金額が上限であるということをアピールすると同時に不起訴処分を条件に入れれば要求額を出すというメッセージを含ませていた。相手が着手金を積み増しているであろうことを考えればサンクコスト効果が働き不起訴処分付きの条件で承諾してもらえるかもしれない。多少は金額の吊り上げがあるかもしれないが、後のことは天に任せる。もし長引きそうなら刑事裁判の準備をするという理由でそれ以降のやり取りは裁判確定後に行うという意思を伝えるつもりだ。そうなれば刑事裁判前に示談したいであろう相手の反応も変わるだろう。できればそのようなことはしたくないが、相手から妥協してもらうための最終手段としてとっておこう。
清木先生には不起訴処分を求める場合とそうでない場合の設定金額を伝え示談交渉を継続してもらうことにした。交渉がこじれた場合に棚上げして時間稼ぎをするつもりであることは敢えて伝えていない。これは十中八九下衆の勘繰りであると思うが、先生が被害者と繋がっていて賠償金を釣り上げ、その一部を報酬としてもらい受けるという仕組みがあるのではないかと考えたためだ。捕まったばかりの頃なら相手の言い値でも構わないと諦めていたと思うが、もう適当に生きるのはやめたのだ。誠意のない対応だと思われるだろうが罪を償うことと生き抜くということを共生させるために私は真剣に考えることにしたのだ。
便所男が消えてから留置場は静寂を取り戻していた。1カ月ぶりに安らぎの時間を得て、生活に張りが戻ってきた。ここの地域は比較的平和であるのか、彼以降新しい収容者はとんと来ていなかった。だが数日後、久しぶりに場内が慌ただしくなった。しかも消灯後の時間だ。幸い寝つきの悪い自分は暇を持て余して脳内会議を行っていたため睡眠妨害をされるようなことはなかったが、夜勤なのに忙しく働いている担当官は気の毒だ。せっかく深夜から早朝に暴れだす珍獣を引き取ってもらったのに。日付を跨いだころ男性が担当官に連れられ入場してきたことを視認した。消灯時間といっても室外は電気が付いているので表情くらいなら判別できるのだ。年若く真面目そうに見える彼は静かに俯いていた。この世の終わりのような表情をして声もか細い。こんな時間に逮捕されるなんて突発的な事件だったのかもしれない。私のように心の準備をする時間もなく逮捕に至ったのだろう。唖然とするのは無理からぬことだ。
もし悪いことをしてしまったのなら正直になりなさい。どうか自暴自棄にならず気を強く持ってほしい。これから長い付き合いになるかもしれないけどよろしく。お願いだから発狂だけはしてくれるなよ、と心の中で先輩として激励しておいた。しかし彼は翌日検察庁に連れ出され、そのまま帰ってくることはなかった。どうやら彼は早くも先輩を差し置いて卒業したようだ。早期卒業おめでとう。私と違って留年せずに済んだことは大変喜ばしい。とにかくこんな経験大抵の人間は一生涯できないぞ。よい社会勉強になったな。うん。
その翌日はまた新しい人が夕方に収監された。その人も彼、即ち前日まで収監されていた卒業生と同じくらいの年齢に見えた。どうやら今若者の間で犯罪者体験が流行っているようだ。新しく入ってきた彼も口数少なく俯いてじっとしていた。食欲も湧かないようで弁当を断ったり残したりしている。まさか前の人は仲間を身代わりにして釈放されたわけじゃないよな、という少し嫌な予感が頭をよぎったが陰謀論など考えるだけ不毛だ。すぐに忘れることにした。気力を失っていたようだが、幸いなことに彼も勾留されなかったため2日足らずで返された。だが少し気の毒であった。なにせ13時頃検察庁に出かけて帰ってきたのは18時過ぎ。しかもその時点で未だに勾留するか審議中だったのである。結局宙ぶらりんのまま夜になり、消灯時間になっても処遇が決まらずやっと解放されたのは日をまたいで日の出前の早朝である。結局事件性は認められなかったようだ。何はともあれまた一人巣立って行ってしまった。留年して取り残されるというのはこんな気持ちなのかな。それにしてもこんな時間まで検察もご苦労様です。今まで公務員だから定時上がりだろうと勘違いして申し訳ありませんでした。
そんなこんなで便所男以外はまともな人たちが連れられてきた。嫌な前例があったためどれほど凄まじい人間が入ってくるのか身構えていたが杞憂だったようだ。まあ便所男が大当たりであっただけなのかもしれない。後から聞いたが担当官の人もレジェンドと称するほどの逸材であったそうだ。思えば彼は私と担当官の間に常に話題を提供し続けたものだ。是非他のみんなにも味わってほしかった。奴ならその手のドキュメント番組でいい絵が撮れること間違いなしだ。
このような人間観察は多少の退屈凌ぎにはなったが、冷静に現在の日付を確認すると初公判まで残り1カ月となっていた。裁判の準備はここでも行えるだろうが、過去の裁判例などは是非とも確認しておきたい。そのため示談をまとめてできる限り保釈に有利な条件を整えるという狙いを理解しつつもその時間を待ち続けることに限界を感じていた。仮に追起訴され、再び拘束されることになったとしても調べ物をするため外に出たかった。皆にも考えてみてほしいが裁判では法曹三者が一堂に会するのだ。そんなところに私のような素人が顔を出して無事で済むわけがない。私がいいように料理されることは確定しているだろうが、こちらもまな板へ上がる前に下ごしらえを済ませておきたい。目指すは煮ても焼いても、はたまた生のままでも美味しく食べられる万能食材だ。
思い立ったが吉日。私は示談の進展を待たずに清木先生へ保釈をすすめるように懇請した。そもそも起訴後2週間ほどで保釈してもらう予定だったではないか。それがもう1ヵ月近く経過している。いくら身を清めるという誓いを立てた私でもこうもお預けをくらってしまっては神への信仰心が薄れてしまう。これは由々しき事態だ。とにかく早く出してくれ。いや、お願いだから出してください。散々強がってましたが、2ヵ月以上もここにいてもう辛いんです。外に出られるかもしれないという希望があると余計に苦しいんです。私だけがずっとここにいるというのは辛いんです。
裁判準備などという尤もらしい口実を作っていたが本当はもう限界だった。起訴確定日から日毎夜毎保釈を待ち続けていた自分はとうとう耐え切れなくなってしまった。確かに裁判準備は一番重要なことだったが何よりも外に出て珈琲を飲み、トーストや出汁の効いたうどんを食べたい。不思議に感じるかもしれないが高価なものなど欲しくなかった。今ならわかる。私はずっと不幸だと思い続けていたが、それは自分の周りにあるものが見えていなかったからだ。不自由のないの生活を送ることの尊さを歴史から学べなかった傲慢さが残念でならない。賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ。では経験にさえ学べないものは何なのだろうか。賢者ではない私はせめて愚者でありたいと強く思う。
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