25年後に選ばれた画家

酷評、のちに希望になる

　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　「この絵には、どこか未熟さを感じる」
　　

絵画オークション会場で、その一言だけが響いた。蛍光灯の白が、彼女の絵を冷たく照らしていた。
　　
四十歳、二児の母。生活費を切り詰めて買った絵の具で描いた、古城の風景。
審査長は、彼女、ではなく作品の奥に眠る、何かを見つめているようだ。
　　

少し考えたように、ゆっくりと口を開く。
　



「だが、二十五年後も描き続けていれば、名画になるかも知れない」
　
　
周囲の笑い声が、棘のごとく、彼女に刺さる。拳をぎゅっと握るも、彼女は、悔しさ
　爆剤にすると、心に誓う。
　
その日の夜。彼女は誰もいない台所の明かりの下で、ひとり、スケッチブックを開いた。
　
翌朝。隣に並ぶ小さな男の子に言った。


「ねぇ玲音《れおん》、今日はどのお城がいい？」

「んー。ママの好きなところ描けばいいよ！」
　
彼の無邪気な声が、彼女の筆を走らせる。
　
その日から、二十五年間。彼女は、描いて、描いて、描き続けることになる。