13時の、手を振る人

ひつじの夢

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13時の、手を振る人

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駅、商業施設、はたまた……家の前。

派手ではないけど、少し変わった人を見かけることはありませんか?

そんな人を見たとき、あなたなら見ないふりをしますか?

それとも……


================================



水曜日の昼間。13時頃。

窓の外から必ず手を振っている人がいる。

他の通行人や、住人は気が付かないのか、関わりあいたくないのか、この人が警察や誰かに注意されているのを見たことがない。

そもそも、その人の輪郭と顔がおぼろげなのだ。ここは二階で、そう遠くもないはずなのに、はっきりと見ることができない。

もしかしたら幽霊かも。馬鹿げた妄想をしてみる。



私は無職。所詮、ニートと呼ばれる人種だ。
もう、しばらく貯金やたまに単発バイトなどをして暮らしている。

そのまま30を迎えてしまった世間的にいうと「ダメ人間」のようなもの。

思い返すと、もともと話すのが苦手で、いい意味で天然、悪い意味で空気の読めない私は、よく周りにつまはじきにされていた。

ーー周りと比べるのも億劫なので、ここらへんは割愛するーー



そんな平日、日がな1日家事や買い物以外はベットや締め切った窓の前で動画配信サイトを見たりゲームをしていると、薄っすら開いているカーテンの向こうからなんとなく気配がするときがある。

それがどうしても気になって、隙間からこっそりのぞいてみると、手を振っている人がいる。誰に向けてかまでは、わからない。けれど、決まって水曜日の13時にくる。



そんな日が3ヵ月ほど続いた。そのころになると、ああ、もう水曜日か。と週間カレンダーのようになっていた。
ニートゆえに曜日感覚が薄い。たしか今日は夕方から肉が安い日だったから買いに行かねば。

ーーふ、と外で手を振る人に会ってみたい。そう思った。本当に実在しているのか、確認したくなった。



階段を降りて緊張しながら恐る恐る階段を降りる。アパートの壁から覗いた先に、例の人がいた。
「なんだ、ただの変な人じゃないか」安心と妙な残念感が頭を回る。

安心感と妙な残念感が頭を回る。
なんの凹凸もない日々に面白いものが来た!と思ったら大したものじゃなかった。
勝手にがっかりしながら、せめて顏だけでも見てやろう、とアパートから1歩外に踏み出した。



ーーおかしい。確かに近づいているはずなのに、いくら近いても相手の姿はぼやけている。

冷や汗が額をつたうのを感じながら、また近づくと、いつのまにかその姿は消えていた。瞬間移動でもしない限りありえない速さ。私は狐につままれたような顔で立ち尽くした。



結局あれはなんだったんだろう。夕飯の総菜をスーパーで見繕いながら、ふ、と思い出した。

あれから私は何事もなかったかのように部屋に戻った。そうして麦茶をコップ一杯一気飲みして一息ついて、
……やっと背筋に悪寒が走った。

あの気味の悪い現象をどうしても認めたくなくて、来週もきっとくるのだろう。そうしたら、写真で必ず正体をあばいてやろう。とこっそり決意した。



水曜日の13時がやってきた。暑さでアスファルトも揺らめいている。そして、あのぼやけた姿の人もあたりまえのように手を振っている。

震える手を何とか動かして、スマホのカメラを起動する。ーー意を決して、そのレンズ越しに見た。

……黒い人影だった。真っ黒、というわけではない。全身が煤けたような姿の人が、手を振っている。

「あっ!」

私はつい、大きな声を出してしまった。するとその人のようなものは、こちらを指さして、なにかを伝えるようにして指をいったりきたりした。文字を書いてるようにも、指揮者のようにも見える。
体が硬直したように動かない。目線を、カメラから外せない。


部屋の近くのどこからか、爆発音と煙のにおいがした。




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