推し彼は、浅葱色。

ひつじの夢

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「浅葱色の居候、街に出る~沖田くん、初恋の予感~」 後編

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早朝、5時。小鳥のさえずりとカーテン越しに差す、冬の光。総司は静かにソファーから、むくっと起き上がる。
ズボンから覗く足首を、冷たい空気がすぅっと撫でた。背筋を伸ばし、カーペットに正座し目を閉じる。

待つこと、一時間だろうか。

「ふぁぁあ~……おはよ」

「おはようございます、葵どの」

「……起こしてしまいましたか?」

「ううん、大丈夫。つか、起きるの早いんだな」

「ええ。武家の習いで…」

正座している総司は、誇らしげに笑う。
部屋着姿でキッチンに立ち、葵は気だるい様子でトーストを焼いている。

「あ、朝ご飯……パンでいい?」

「ええ。ぱんが何なのかは分かりませんが、ありがたく頂きます」

葵は焼いたトーストにバターとハチミツを乗せ、冷蔵庫に残っていたポトフを温め、トレーに乗せる。
総司に差し出すと、彼は嬉しそうに目を輝かせていた。
「ありがとうございます……葵どの」
「うん。じゃ、先に食べてて?」
「葵どのは、召し上がらないのですか?」
「ううん。アタシ、お茶を淹れてくる。総司、腹減っているだろ?待たせたら、悪いし」

カチッと、ケトルの音が鳴る。

昨夜と同じく、カモミールティーをマグカップに淹れる。
そのマグカップと一緒に葵は、小さな瓶をテーブルに並べた。
「あれ?先に食べててよかったのに、待っててくれたの?」
「ええ。武家のしきたりのような物です」

……何、それ。忠犬かよ。
ローテーブルに並んで座り、朝ごはんを食べる。
総司は、初めて食べたトーストの味に、強く感動しているようだ。
「……すごい。不思議ですね、食するだけで、心が……ほどける」
「……うん。アタシの朝は基本、コレだから。というか、二枚で足りる?」
「はい。ですが、葵どのが召し上がるなら、私も是非」


総司。お前はずるいくらい、可愛いヤツだ。素直すぎる。
こんな日常が始まったら、アタシはもう……

きっと、戻れない。
離れたくなくなってしまう。

「あ、そうだった!総司、昨日のお茶、飲む?」
「今日は、甘い物も用意したの」
「ええ。そうでしたか、甘きお茶ですね!」
マグカップの横にあった小瓶のフタを開け、とろりとひと匙づつ、マグカップに入れる。
「はい。よくかき混ぜて、飲んで?」


お茶を飲み終えた総司に、葵は街に出る提案を切り出す。
「ねぇ、総司」
「服……買いに行こう、な?ジャージだと、寒いだろ?」

「新しい装束……ということですか?」

「うん、そ。この時代の装いだよ」

総司は少し考えたあと、葵に真っ直ぐ向き直る。
「ありがとうございます、葵どの」
「んじゃあ、着替えよっか?……来て」

総司の手を引き、部屋のクローゼット前に立つ。
葵はとりあえず、長身な総司でも着れそうな服を探す。
「……すごい。こちら一面、葵どのが着る装束ですか」
「現代のおなごは、こんなに装束を持っているとは……驚きました」

総司はクローゼットにある服の量を見て、目をキラキラさせていた。
たぶん……いや、きっと。コイツは服を選べる余裕もなかったのだろう。
クローゼットを漁り始めて、30分か。ようやく出てきたのは、白くてダボっとしたオフタートルニットと、
葵にはウエストが緩かったスキニーパンツ。アウターは長すぎて着ていなかった、チェスターコートが見つかった。

「総司。コレ、着てみて?」
「はて?……こちら、どのように着るのですか?」
「えっと。今着せてやっから、ちょい待って?」

葵は総司に屈んでもらい、タートルに総司の首を通す。
ズボンを履いてもらおうとしたとき、葵は目を丸くした。

総司がズボンの下に、ふんどしを履いていたからである。

「……ご、ごめん!!恥ずかしい、よな?」
「そ、その穴に片足づつ通して……そうすれば着れっから」

葵が手で顔を覆っているとき、総司はきょとんと首をかしげていた。

「あ、葵どの……?顏が赤いですが、大丈夫ですか?」

「え?……あぁ、うん」

「見て頂けますでしょうか……この着方で合っているかどうか」

葵が見上げると、さっきの総司からは想像もつかないくらい、守りたくなるようなあどけない青年に
雰囲気が変わっていた。

わ……足、長っ。つか、アタシよりも細いじゃん。
侍って、こんなスタイル良かったのか⁉

白いニット、淡い水色のスキニーパンツ。着る服が変わっただけなのに、いっそう魅力的に見え、光っているかのように、眩しい。心なしか、見られている総司の頬がほんのり赤い。
チェスターコートを着せると、総司の肩が一気に大人になった。

「おぉっ?総司、すごい!!めっちゃ似合ってんじゃん☆」

「おや、本当ですか。……しかし、葵どのは薄着では?」

「ん?あぁ~、平気平気!!こういうのは、根性ってヤツ~☆」

「……なるほど。この時代に着る装いは、鎧みたいですね」

素肌を隠してはいるがミニスカートの葵に、総司は目のやり場に困り、視線を泳がす。
葵は何も分からないまま、気付けば総司の手を引いていた。
「んじゃ、行こっか。少し歩けば、近くに大きいモール、あるから」
「はい。お供します、葵どの」

自宅から歩くこと、20分。ふたりは、大きなショッピングモールにたどり着く。
自動ドアが勝手に開き、総司はためらって立ち止まる。
「……ひ、人が多い!!これは、戦⁉」

「ううん、違う。大丈夫、ついて来て」

そっと総司の手を引き、葵はショッピングモールへ足を入れる。総司はキョロキョロしながら、注意深く歩き始めた。やがて、一軒の店の前で足を止める。

「総司?……その店、気になるの?見て行こうか」

「良いのですか?葵どの」

「うん、時間はいっぱいあるから。大丈夫」

ふたりが入ったその店は、大手洋服ブランド店だった。色んな色の服が壁一面に、ところ狭しと並んでいる。
店内では、客が子供を連れ、楽しげに服を選んでいた。

ドンッ

「あ!ご、ごめんなさい!!」

走り回っていた少女が、総司の足にぶつかる。
慌てて少女の母親らしき女性が、葵に一礼して少女を抱え、連れてゆく。その光景に、総司はぽつり、呟いた。
「この時代は……子供も安心して笑っていられる世の中、なのですね」

総司の心には、時代を越えた孤独感が滲み出ていた。
「総司ー、これ着てみて?長さ合えば、買ったげる」

「え?……ええ」

葵が選んだのは、ハイネックセーターと薄くて暖かい着心地のインナー。
気が付けば、寒さから身を守る服を優先して選んでいた。

「総司。腕、貸して?」

葵が白いハイネックセーターを一枚取り、総司の腕に当てる。
やや長めなセーターだったが、総司の丈にはピッタリなようだ。
「……はて?少々長いのでは?」

「ん?あぁ~、大丈夫。アタシ、買ってくる。ちょい待ってて?」

「ごめん、お待たせ」

「はい。これがこの時代の装いだよ」

支払いを済ませ、総司の手に紙袋を持たせる。総司は嬉しそうに、ホクホクと笑みをこぼしていた。

「おぉ……あありがとうございます、葵どの」

「つかさぁ、お腹空いてない?何か、食べて行こっか」

「はい。私も少々、腹が減って参りました」

モールの中央にあるゲームセンターを通過して、フードコートへ向かう。音が飛び交うゲームセンターに一瞬だけ固まった総司に、葵は振り返り、手を伸ばす。

「……ほら、離れないで?」

「……ええ。すみません」

伸ばした指先が、自然と絡まる。


……どうして?
何でアタシ、ドキドキしているんだろう。
ただ、迷子になってほしくなくて伸ばしただけなのに。
それ以上じゃないはず、なのに。
でも、離れてほしくない自分がいる。


絡んだ手を葵は恥ずかしそうに歩幅を揃えると、そっとほどく。
総司は思いのほか離れておらず、葵はドキッとしている。

「総司。何食べる?パンか麺にしようかと思うんだけど……」

「では、葵どのと同じ物を。……」葵どのが好きな物を頂きたいです」

「そ?じゃあ、アレにしようか☆」

葵が指さしたのは、ナチュラルテイストなハンバーガーショップだった。
葵は同じセットを二つ注文し、トレーを受け取ると、席を探す。

「総司ー、ここ空いてる。座ろ?」

「はい、葵どの。……鞄、持ちましょうか?」

「おっ、ありがと。助かる」


総司はホント、忠犬だなぁ。
だんだん、総司が王子様に見えてきた。
いかん。こんな気持ちでは、総司に失礼ではないか。

四人がけのテーブルを見つけ、ふたり仲良く並んで座る。

「んじゃあ、食べよっか」

「ええ。頂きましょう」

そのハンバーガーは総司にとって人生初で、総司の舌に革命を起こした。
つなぎ不使用のビーフパティ、新鮮で瑞々しい野菜と、コクの深いチーズ。
それらが織りなす味は、和食中心の食生活を送っていた総司にとって、驚きのハーモニーだった。

「……すごい。牛肉が柔らかくて、味わい深い。……この黄色き湯葉も、美味しい」

「あ、チーズのことな?これね、アタシが愛してやまないヤツ~☆」

嬉しそうに笑みを浮かべ、美味しそうにハンバーガーを食べる葵を見て総司は、ふふふっと笑っていた。

「ん?総司、どうしたの」

「え……あぁ、いえ。葵どのはいつも、食べている姿が可愛らしいと思いまして」

照れ笑いする葵に、ほんの少しだけ総司は、情の深い眼差しを向ける。


葵どのには、ずっと……笑っていてほしい。

「あ、総司。ちょっとだけ、じっとしてて?」

「はて……どうせれましたか?葵どの」

葵は総司に少し寄り、紙ナプキンを片手に、総司の口元を拭う。

「ごめん。……口にケチャップ付いてて、つい。……びっくりさせてごめんな?」

「……いえ。ありがとうございます」

その仕草ひとつで、総司の耳はぶわっと赤く染まっていた。


はわぁ~!!お前、尊すぎだろ。そして、その笑顔は反則だ。
私も総司の笑顔を守りたい……
否!!これから守っていくと決めたんだろうが、アタシ。ごまかしてはならないだろう。


「……葵どの」

「んー、どうした?あ、人多いの疲れた?」

「い、いえ!!その……袖を良いですか?」
「葵どのと歩幅、合わせたくて……」

総司は、頷いた葵の袖をそっと、掴む。
エスカレーターの前まで歩くと、葵は反対に総司に半歩ゆずり、総司の袖をさり気なく掴んでいた。

フードコートの下にある階に行き、葵は無意識に石屋の前で、足を止めていた。

「葵どの?……気になるのですか?」

「へ?あ、えっと……うん。少しだけ見てって、いい?」

「ええ。私も見てみたいので、是非」

石屋さんに入るとオレンジ色の照明が、様々な石を魅力的に光照らしている。

色んな色の石が並ぶなか、葵が目を奪われたのは、浅葱色によく似た色の石だった。
商品のタグには、石の名前が書かれている。

アマゾナイト

……この石、総司の羽織と色がそっくりだ。
意味、書いてある・・・・・・希望?
総司、喜ぶかなぁ?

チラリと総司の横顔を覗くと、総司は同じ石を使用しているペンダントに目がくぎ付けのようだ。

「その石・・・・・・アタシも気になる。お揃いで、買おっか?」

「・・・・・・ありがたいですね。しかし、お値段は」

そっと商品タグを覗くと、やや高めのお値段で、葵は悩み始めた。

「ねぇ、総司。同じ石の指輪じゃ、ダメ?」

「そんなことはございませんよ、葵どの。私は、葵どのがくれる物は何だって、嬉しいのですよ」

「……大事にしろよ?」

「はい。この総司、この指輪を死守すると誓いましょう」

無垢な微笑みに、葵は顔を真っ赤に染め、アマゾナイトのリングとチェーンを2ペアづつ、購入した。





















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