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第二部
復讐の理由 ②
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「藤原君なら、二階にいるから」
出迎えた女は、無表情にそう言った。女は小顔で目が大きく、間違いなく美人の部類に入るだろう。かなり細い体つきをしていて、着ている白いブラウスは少しだぼついている。通された広い玄関は西洋風な造りをしていたが、目の前に立つ女はその雰囲気によく溶け込んでいた。おそらく彼女の自宅だろう。
田島はここで、妙な胸騒ぎを覚えた。玄関扉を手で押さえたまま、この家に足を踏み入れることをなぜか躊躇してしまう。そんな思いを見透かすかのように、階上から藤原が声をかけてきた。ポロシャツにジーパンというラフな格好だ。制服姿しか見たことがなかっただけに、彼の私服姿に違和感を覚えた。
「よう、何してんだよ。早く上がってこいよ」
田島は階上を見上げながら、金の受け渡しならここでもできるだろと言ってやりたかったが、怖がってると思われたくなかったため口をつぐんだ。何気なく玄関のたたきを見る。藤原のものと思われるナイキのスニーカーと、出迎えた女のものと思われる小さな茶のローファーがあるだけだ。
金を払ってネガを受け取る、ただそれだけだ。何も不安がる必要なんてない。すぐに終わるさ。自分にそう言い聞かせて、田島は押さえていたドアから手を離して前へ進み出た。バタンと背後からドアが閉まる音が聞こえ、びくっと思わず肩をすくめてしまう。目の前に立つ小柄な女が、バカにしたように小さく鼻を鳴らす。女の態度を不快に思いながら、田島は靴を脱いだ。
踊り場のある階段を使って二階に上がると、いちばん奥の部屋の前に藤原が立っていた。彼は立てた親指を横にして部屋の中を指し示すと、すっと室内へと消えていく。田島はあとを追うようにフローリングの廊下を進み、いちばん奥の部屋へ向かう。
「え!?」
薄暗い室内に足を踏み入れたとたん目を剥く。藤原を含む数人の男が待ち構えていたからだ。逃げ出す間もなくうつ伏せに倒されると、男たちの一人が背中に乗ってきて身動きが取れなくなった。完全にパニック状態になっている中、両腕が背中側に回され、左右の手首を粘着テープのようなもので巻かれる。足首もズボンの上から同様に粘着テープのようなもので巻かれて一つにされると、自由の利かなくなった両手と両足が背中側で結ばれた。
部屋に入っておよそ数分後、田島は海老反りの形で固定され、逃げ出すことはおろか、立ち上がることさえできなくなってしまった。あまりに突然のことに頭の中は混乱し、まるで白昼夢を見ているかのような錯覚に陥った。
「メインイベントはこれからだぜ」
藤原はそう言うと、口に粘着テープを貼りつけてきた。田島はテープ越しに叫んで身体をバタつかせた。
愉しげな様子で見下ろしてくる仲間に向かって藤原が口を開いた。
「時間あるから、煙草でも吸いにいくか」
「部屋で吸っちゃダメなのか?」
「マリコがうるさいんだよ。親にばれたら殺されるって」
「でも、全員で行ってだいじょうぶか? 誰か見張ってたほうがよくないか?」
「だいじょうぶだよ。これで逃げ出せたら逆に尊敬するぜ」
藤原の言葉に仲間たちは納得したようだ。彼らは部屋から出ていった。
室内が無人になると、田島はさっそく脱出を試みるべく、背中側に回された手足に力を込めた。ところが、どんなに力を入れてみても、まったくびくともしなかった。藤原の言っていた通りだ。自力での脱出は不可能だった。するとここで急に気がゆるみ、両目から涙があふれ出た。すぐさま泣いたことを悔やむ。両手が使えないため、涙を拭うことができないからだ。彼らが戻ってくるまでに乾くことを願った。これ以上、彼らに弱みを見せたくなかった。
田島は苦しい体勢から部屋の様子をうかがう。室内は赤色っぽいカーテンが外の光をさえぎり、就寝時につけるスモールライトのみが点灯していた。部屋は意外と広く、八畳から十畳はありそうだ。ベッドと机、衣装箪笥などが置かれていて、装飾から間違いなく女子の部屋だ。玄関で出迎えた女の部屋だろう。
ベッドの上に視線を向けた瞬間、二つの小さな光を確認して田島は息を呑む。光の正体はすぐにわかった。ペルシャ猫だった。猫は掛け布団の上に横になり、くつろいだ様子でこちらを見つめている。室内が薄暗いだけに、普段は愛らしいはずの猫が今はとても不気味だった。猫は大きなあくびをすると、自分の手足を舌で舐めはじめた。どうやら、こちらへの関心を失ったようだ。
木製のベッドの下に目を向けると、五、六センチほどの太さの脚にロープが結ばれていた。ロープの先端には輪っかが作られている。それが意味するところはわからなかったが、何か良からぬことに使われることだけは間違いないように思えた。不安が募り、田島は無理な体勢のまま身震いした。今は無事解放されることを神に祈ることしか他にできることはなかった。
◈
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出迎えた女は、無表情にそう言った。女は小顔で目が大きく、間違いなく美人の部類に入るだろう。かなり細い体つきをしていて、着ている白いブラウスは少しだぼついている。通された広い玄関は西洋風な造りをしていたが、目の前に立つ女はその雰囲気によく溶け込んでいた。おそらく彼女の自宅だろう。
田島はここで、妙な胸騒ぎを覚えた。玄関扉を手で押さえたまま、この家に足を踏み入れることをなぜか躊躇してしまう。そんな思いを見透かすかのように、階上から藤原が声をかけてきた。ポロシャツにジーパンというラフな格好だ。制服姿しか見たことがなかっただけに、彼の私服姿に違和感を覚えた。
「よう、何してんだよ。早く上がってこいよ」
田島は階上を見上げながら、金の受け渡しならここでもできるだろと言ってやりたかったが、怖がってると思われたくなかったため口をつぐんだ。何気なく玄関のたたきを見る。藤原のものと思われるナイキのスニーカーと、出迎えた女のものと思われる小さな茶のローファーがあるだけだ。
金を払ってネガを受け取る、ただそれだけだ。何も不安がる必要なんてない。すぐに終わるさ。自分にそう言い聞かせて、田島は押さえていたドアから手を離して前へ進み出た。バタンと背後からドアが閉まる音が聞こえ、びくっと思わず肩をすくめてしまう。目の前に立つ小柄な女が、バカにしたように小さく鼻を鳴らす。女の態度を不快に思いながら、田島は靴を脱いだ。
踊り場のある階段を使って二階に上がると、いちばん奥の部屋の前に藤原が立っていた。彼は立てた親指を横にして部屋の中を指し示すと、すっと室内へと消えていく。田島はあとを追うようにフローリングの廊下を進み、いちばん奥の部屋へ向かう。
「え!?」
薄暗い室内に足を踏み入れたとたん目を剥く。藤原を含む数人の男が待ち構えていたからだ。逃げ出す間もなくうつ伏せに倒されると、男たちの一人が背中に乗ってきて身動きが取れなくなった。完全にパニック状態になっている中、両腕が背中側に回され、左右の手首を粘着テープのようなもので巻かれる。足首もズボンの上から同様に粘着テープのようなもので巻かれて一つにされると、自由の利かなくなった両手と両足が背中側で結ばれた。
部屋に入っておよそ数分後、田島は海老反りの形で固定され、逃げ出すことはおろか、立ち上がることさえできなくなってしまった。あまりに突然のことに頭の中は混乱し、まるで白昼夢を見ているかのような錯覚に陥った。
「メインイベントはこれからだぜ」
藤原はそう言うと、口に粘着テープを貼りつけてきた。田島はテープ越しに叫んで身体をバタつかせた。
愉しげな様子で見下ろしてくる仲間に向かって藤原が口を開いた。
「時間あるから、煙草でも吸いにいくか」
「部屋で吸っちゃダメなのか?」
「マリコがうるさいんだよ。親にばれたら殺されるって」
「でも、全員で行ってだいじょうぶか? 誰か見張ってたほうがよくないか?」
「だいじょうぶだよ。これで逃げ出せたら逆に尊敬するぜ」
藤原の言葉に仲間たちは納得したようだ。彼らは部屋から出ていった。
室内が無人になると、田島はさっそく脱出を試みるべく、背中側に回された手足に力を込めた。ところが、どんなに力を入れてみても、まったくびくともしなかった。藤原の言っていた通りだ。自力での脱出は不可能だった。するとここで急に気がゆるみ、両目から涙があふれ出た。すぐさま泣いたことを悔やむ。両手が使えないため、涙を拭うことができないからだ。彼らが戻ってくるまでに乾くことを願った。これ以上、彼らに弱みを見せたくなかった。
田島は苦しい体勢から部屋の様子をうかがう。室内は赤色っぽいカーテンが外の光をさえぎり、就寝時につけるスモールライトのみが点灯していた。部屋は意外と広く、八畳から十畳はありそうだ。ベッドと机、衣装箪笥などが置かれていて、装飾から間違いなく女子の部屋だ。玄関で出迎えた女の部屋だろう。
ベッドの上に視線を向けた瞬間、二つの小さな光を確認して田島は息を呑む。光の正体はすぐにわかった。ペルシャ猫だった。猫は掛け布団の上に横になり、くつろいだ様子でこちらを見つめている。室内が薄暗いだけに、普段は愛らしいはずの猫が今はとても不気味だった。猫は大きなあくびをすると、自分の手足を舌で舐めはじめた。どうやら、こちらへの関心を失ったようだ。
木製のベッドの下に目を向けると、五、六センチほどの太さの脚にロープが結ばれていた。ロープの先端には輪っかが作られている。それが意味するところはわからなかったが、何か良からぬことに使われることだけは間違いないように思えた。不安が募り、田島は無理な体勢のまま身震いした。今は無事解放されることを神に祈ることしか他にできることはなかった。
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