【呪い系サイコホラー】こはるちゃん、いっしょに。

てっぺーさま

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第一章 心霊現象

岩国啓一郎 ②

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 奈央は三人分のコーヒーを用意すると、岩国と向かい合う形で座卓の前に腰を下ろした。真由美はベッドの縁に腰掛けている。
「では、最初から話しますね」
 奈央は霊能者とのやりとりを岩国に語って聞かせた。
 岩国は真剣な表情で耳を傾けてくれた。適度な相づちを挟んでくれるため、奈央は気持ちよく話すことができた。話し終えると、奈央はぬるくなったコーヒーに口をつけた。
「なるほど、だいたいのことはわかったよ。結論から言うと、おれもその霊能者と同じ意見だね」
「はあ……」
 奈央は岩国の言葉に落胆した。これでは何も変わらない。
「まず、この部屋に霊的なものの存在は感じない」
「じゃあ、なんで変なことが起こってるんですか?」
 奈央は思わず語気を荒げてしまう。
「それはおれにもわからない。でも、仮説なら立てられる」
「仮説……ですか?」
「そう。消去法でいくと、この仮説が正しいと思う」
「詳しく聞かせてください」
 岩国は少し居住まいを正すと説明を始めた。
「まず、その霊能者の言葉通り、君に強い恨みを持つ霊が遠くにいるのは間違いない。具体的に言うと、その霊は君と同世代の女性だろう」
「え……」
 岩国の言葉に、奈央は思わず身をこわばらせた。
「すごい。そんな具体的なことまでわかるんだ」
 ベッドに座る真由美が驚きの声を上げた。
 岩国が奈央をじっと見つめる。
「誰か、心当たりはない?」
「いえ……」
「そっか。じゃあ、逆恨みかもしれないな」
 岩国はそう言って笑顔を見せるが、その目はまるですべてを見透かしているようで、奈央は急に居心地が悪くなった。
 当然、心当たりはあった。だが、この場には真由美もいる。正直に話せる状況ではなかった。
「きっと逆恨みだよ。奈央が恨まれるなんてありえないもん」
 擁護してくる友人に、奈央は無理に笑みを浮かべて見せた。
 奈央は気を取り直すと、岩国に疑問をぶつけた。
「その、わたしを恨んでるっていう霊ですが、ずっと遠くにいるわけですよね? 霊能者の人は、遠くから何かをするのは無理だって言ってたけど、でも実際に起こってるわけで……。これって、どういうことですか?」
 岩国がしたり顔で、人差し指を立てて答える。
「ここからが仮説なんだ。幽霊って夜に出るイメージがあるだろ? 実際、霊的なものは夜に力が強まる。だから、君を呪ってる霊も、夜に力をつけて攻撃してきてるんじゃないかな」
「やだ、それめっちゃ怖いんだけど……」
 真由美が顔を歪める。
 岩国が淡々とした調子で続ける。
「まあ、あくまで仮説だけど、そう見当はずれじゃないと思う。だって、毎晩深夜の二時に起こってるわけだろ? いわゆる丑三うしみつ時。霊が最も活発になる時間帯だ」
「引っ越したほうがいいですか?」
 奈央が聞くと、岩国は首を横に振った。
「いや、これは君への個人的な攻撃だから、引っ越しても解決しない」
「そうですか……」
 ここで真由美が割って入ってくる。
「岩国さんが、その霊を成仏させることってできないんですか?」
 その問いに、岩国が苦笑する。
「できればそうしたいけど、何せ距離があるからね。おれの力じゃ、成仏させるのはむずかしいな」
「なるほど……。除霊にも距離が関係するんですね」
 真由美ががっかりしたように肩を落とす。
「ただね、奈央さんを恨んでいる相手が特定できれば、対策も変わってくるんだけど」
 岩国はそう言って、意味ありげな視線を奈央に向けてきた。
 奈央は思わず視線を外してしまう。やはり、彼にはすべてを見透かされているようで落ち着かない。
「まあ、今できることといえば、この部屋に結界を張ることくらいかな」
 奈央は予想外の言葉に驚く。
「結界……ですか?」
「そう、結界」
「わお! それって陰陽師おんみょうじみたいでかっこいい!」
 真由美が興奮気味に声を上げる。
 それを見て、岩国が苦笑する。
「おれのは自己流だからね、君が思ってるようなかっこよさはないと思うよ。本物の陰陽師みたいに儀式とかもないし」
「いえいえ、結界を張れるだけですごいですって!」
「ただね、おれの結界は効果が限定的だから、また同じことが起こると思う。やはり、根本的な原因を取り除かない限り、本当の意味での解決にはならない。だから奈央さん、焦らなくていいから、誰かに恨まれてないか思い返してみて」
「わかりました……」
「じゃあ、さっそく張っちゃおうか」
 岩国はそう言ってすっと立ち上がった。
 奈央は真由美とともに、彼の動向を興味深く見守った。
 静まり返った部屋の中で、岩国が真剣な表情で右手の二本指を眉間に当てて目を閉じる。二本の指に力を込めているような様子だ。そして力強く目を開けたかと思うと、右手の二本の指を「えいっ!」といった感じで天井の隅に力強く向けた。その動作を他の四隅でも繰り返したあと、彼はふっと肩の力を抜いて笑顔を見せた。
「終わったよ」
「……え、もう?」
 奈央はあまりの短さに呆気に取られてしまう。一連の動作は一分もかかっていない。
 真由美も同じ気持ちだったようだ。
「ずいぶん、あっさりでしたね……」
「ね? 想像してたのと違っただろ?」
「ええ、まあ……」
 真由美が不安そうに奈央に顔を向けてきた。
 友人の視線を受け止めながら奈央の胸に不安が広がっていく。こんな簡単なことで、毎夜続く怪奇現象が消えるのだろうか。
「とりあえず、これで様子を見てよ」
「……わかりました」



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