【猟奇的サイコスリラー】イミテーション

てっぺーさま

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第五章 破滅へのカウントダウン

静かな脅迫

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 稽古場へ向かう足取りは軽かった。数日前に愛する人と多くの時間を過ごせたおかげで、心がすっかりリフレッシュしていたからだ。
 あの日はペットショップを訪れたあと軽く食事を済ませ、ホテルへ直行した。スイートルームで何度も愛し合ったが、いつもと違って美穂は積極的だった。普段と異なる環境が彼女を大胆にさせたのかもしれない。行為の余韻は、数日経った今でも全身に心地よく残っていた。
 リフレッシュできたことで、計画に対しても新たな気持ちで臨めていた。これまで以上に良き夫を演じられている。彼女が死ぬまでまだ時間はかかるが、拓海には明るい未来しか見えなかった。
 稽古場に着くと、すぐにリョウが近づいてきた。拓海は笑顔で迎えたが、彼女の顔に笑みはなかった。
「拓海さん、ちょっといいですか?」
「うん、いいよ」
 彼女のあとに続き、拓海は壁際まで移動した。ところが、リョウは少ししゃくれた顎に手を当てたまま、なかなか口を開こうとしなかった。
「リョウちゃん、どうしたの?」
 促すが、彼女は依然として顎に手を置いたまま黙っている。
「ねえ、リョウちゃん」
「あの拓海さん、数日前なんですけど」
「数日前がどうかした?」
「元カノさんと、ペットショップに行ってましたよね?」
「え!?」
 予想外の言葉に、拓海は激しくうろたえた。自分でも滑稽なほど動揺してるのがわかる。同時に、軽率な行動を悔やんだ。今になって思い出す。あの大型ペットショップは、リョウに教えてもらった場所だったことを。
 迂闊うかつだった——。とはいえ、これまで劇団の仲間と街で鉢合わせたことなど一度もなかった。今回に限って目撃されるとは、運が悪すぎるにもほどがある。
 拓海は言い訳しようとしたが、適当な言葉はすぐには浮かばなかった。
「すぐに気づきましたよ、拓海さんだって。それに、前に舞台に来てた人って、やっぱり元カノさんだったんですね」
 拓海は何も言えなかった。ここまで動揺した姿を見せてしまっては、ごまかしようがない。それに、彼女の毅然とした態度が、無言の圧力となって言い訳を封じていた。
 リョウが少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「これ、脅迫とかじゃないんですけど、あたし、リボ払いの元金が全然減らなくて困ってるんですよ」
 完全な脅迫だった。拓海は動揺する中、リョウの中に佐藤と同じ匂いを嗅ぎとった。こういう脅しを平然とできる人間は、人を傷つけても何とも思わないのだろう。いじめの加害者に多いタイプに違いない。これまでの言動から人間性を疑う兆しをいくつも感じてはいたが、残念ながらその予感は的中してしまったようだ。
 拓海は予期せぬ事態に混乱していたが、考えるのは後回しにすることにした。
「……わかった。たぶん協力できると思う」
「助かります!」
 リョウは笑顔を見せると、スキップするように仲間のもとへ戻っていった。
 拓海は苦々しげに彼女の背中を見つめた。順調だと思っていた矢先に、自分のミスで問題を増やしてしまった。彼女への苛立ちよりも、自分への怒りのほうがはるかに強かった。



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