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最終章 終わらない月食
真実
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錆びついた扉に手をかけると、本来かかっているはずの南京錠は外され、何事もないようにぶら下がっている。
僕は錆びついてボロボロになった鉄の扉ゆっくりと押し開けた。
「ギギィ……」と、夜の静寂を切り裂くような嫌な軋み音がやけに耳に響く…。隙間からは、数十年分の時が止まったままの、カビ臭い埃と古い木材が混ざり合った廃墟特有の匂いが溢れ出してきた。
視線の先に闇が広がっている。でも、そんなの関係ないと足を踏み入れる。
視界の端で、かつての学生たちが使っていたであろう壊れた机や椅子が、まるで打ち捨てられた骸のように積み上がっているのが見えた。
奥にある木製の階段は、僕が体重をかけるたびに「ミシリ……ミシリ……」と、建物全体がこれ以上先に行くなと訴えてる気さえする。
一段上るごとに、自分自身の人間としての何かが削り取られ、あのおぞましい肉親と同じ深淵へと近づいていく感覚。
二階の床から漏れる微かな光を頼りに、僕は一段ずつ、逃れられない運命を噛みしめるようにして父さんが待つ場所へと進んでいった。
二階へ上がると、そこには窓から差し込む青白い月光に照らされて、父さんが古びた椅子に腰掛けていた。
「……悠真か。よく来たな」
その落ち着き払った声を聞いた瞬間、僕の頭の中で何かが真っ白に弾けた。視界の端に転がっていた、古い木製バットが目に入る。僕はそれをひったくるように掴むと、全力で父さんを殴り殺そうと一歩踏み出した。
父さんは動じなかった。バットを握りしめる僕を冷ややかな目で見つめ、喉の奥でくつくつと笑った。
「お前も……怒ると人を殺そうとするんだな」
その言葉に、僕は冷水を浴びせられたように凍りついた。
「流石は私の子だ。その瞳、今の憎しみ……私にそっくりだよ」
自分の中に流れる、この男と同じ暴力的な血。父さんはそれを見透かしたように、愉快そうに口角を上げた。
「まだ時間はたっぷりある。今回の件について、ゆっくり話そうじゃないか。……分かっていると思うが、陽葵を助けたのは私なんだよ。」
「……助けた? ふざけるな! お前が、陽葵を殺したんだろッ!!」
暗い倉庫の中に僕の叫びが響き渡る。バットを握る手が怒りで激しく震えた。しかし、父さんは深くため息をつき、心底心外だという顔で僕を見据えた。
「愛している陽葵を、私が殺すはずがないだろう」
父さんのその確信に満ちた口ぶりに、僕は一瞬、息が止まった。「殺していない」?
……じゃあ、陽葵はまだどこかで生きているのか? そんな希望が頭をよぎった直後、父さんはゆっくりと首を振った。
そして、悔しそうな表情を浮かべてこう言った。
「……自殺だよ。彼女は…自分で死を選んだんだ…。」
僕は錆びついてボロボロになった鉄の扉ゆっくりと押し開けた。
「ギギィ……」と、夜の静寂を切り裂くような嫌な軋み音がやけに耳に響く…。隙間からは、数十年分の時が止まったままの、カビ臭い埃と古い木材が混ざり合った廃墟特有の匂いが溢れ出してきた。
視線の先に闇が広がっている。でも、そんなの関係ないと足を踏み入れる。
視界の端で、かつての学生たちが使っていたであろう壊れた机や椅子が、まるで打ち捨てられた骸のように積み上がっているのが見えた。
奥にある木製の階段は、僕が体重をかけるたびに「ミシリ……ミシリ……」と、建物全体がこれ以上先に行くなと訴えてる気さえする。
一段上るごとに、自分自身の人間としての何かが削り取られ、あのおぞましい肉親と同じ深淵へと近づいていく感覚。
二階の床から漏れる微かな光を頼りに、僕は一段ずつ、逃れられない運命を噛みしめるようにして父さんが待つ場所へと進んでいった。
二階へ上がると、そこには窓から差し込む青白い月光に照らされて、父さんが古びた椅子に腰掛けていた。
「……悠真か。よく来たな」
その落ち着き払った声を聞いた瞬間、僕の頭の中で何かが真っ白に弾けた。視界の端に転がっていた、古い木製バットが目に入る。僕はそれをひったくるように掴むと、全力で父さんを殴り殺そうと一歩踏み出した。
父さんは動じなかった。バットを握りしめる僕を冷ややかな目で見つめ、喉の奥でくつくつと笑った。
「お前も……怒ると人を殺そうとするんだな」
その言葉に、僕は冷水を浴びせられたように凍りついた。
「流石は私の子だ。その瞳、今の憎しみ……私にそっくりだよ」
自分の中に流れる、この男と同じ暴力的な血。父さんはそれを見透かしたように、愉快そうに口角を上げた。
「まだ時間はたっぷりある。今回の件について、ゆっくり話そうじゃないか。……分かっていると思うが、陽葵を助けたのは私なんだよ。」
「……助けた? ふざけるな! お前が、陽葵を殺したんだろッ!!」
暗い倉庫の中に僕の叫びが響き渡る。バットを握る手が怒りで激しく震えた。しかし、父さんは深くため息をつき、心底心外だという顔で僕を見据えた。
「愛している陽葵を、私が殺すはずがないだろう」
父さんのその確信に満ちた口ぶりに、僕は一瞬、息が止まった。「殺していない」?
……じゃあ、陽葵はまだどこかで生きているのか? そんな希望が頭をよぎった直後、父さんはゆっくりと首を振った。
そして、悔しそうな表情を浮かべてこう言った。
「……自殺だよ。彼女は…自分で死を選んだんだ…。」
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