月雨記 〜月詠と黒獅子〜

天王晴風

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第十九話

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それは新月の夜だった
いつも通り冷は月詠と夕食を摂っていた
腐界びとである冷は食事の必要が無い
それは光界びとである月詠も同じだ
二人の意見は一致していて、人間と同じ生活をしているのだ
どこからポロが出るか分からない
慎重に人間界に擬れているのだ

会話も弾んで食後の甘味が出された時、冷は知らせを受け取った
ぴくりと右耳が動いた
「急用が入った、悪いな」
「え?」
さり気なさを装っていても顔が強張ったのを月詠は見逃さなかった
急いで後を追った

冷は執務室に入ると扉を閉めた
まるで月詠に干渉されたく無い、と言わんばかりに
しかし、扉に耳を付けて感覚を集中させると会話が聞こえて来た
「警報装置を置いて来て良かった。今から見てくる」
「私も行きます」
「いや、浄剣は危険だ。待っていてくれ」
「...分かりました」

二人の会話が消えた
月詠は扉を開けた

目の前で起きている事が衝撃だった
間に合わなかった

這い出て来たばかりの腐界びとは数人の男達に囲まれていた
ぐさっ ぐさっ
「やめてくれっ」
「不浄の輩が言葉を話すな」
「地獄にいればいいものを」
「動くな、穢れたらどうする!」
総勢十人はいる
よってたかって嬲っていた
次第に呻き声を上げて腐界びとの姿は無くなった

浄土に送られたのでは無い
消滅させられたのだ

「なんて酷い事を」
冷はハッとして振り返った
扉を背にして月詠が立っていた
「月...っ」
「坡嗎から聞きました。どうして話してくれなかったんですか」
責められて動揺した瞬間だった

「邪悪な腐獣めっ」
「今夜はついている。こんな大物が引っ掛かった」
「馬鹿めっ」
シャリーン...
怜の体に、首に、手足に、白金の鎖が巻き付いた
鎖の先は光界びとが一本ずつ持って張っていた
たちまち宙吊り状態になった

「やめてくださいっ」
「お前もだ」
残った者共は月詠に襲いかかった

「やめろっ」
ギリギリと締め上げられている冷が叫ぶ

「この腐獣穢れが」
「人間界に紛れ込んで腐獣と戯れておる」
「こんな穢れは消さなきゃならん」
「小刀を取り上げろ」
ガンッ
月詠は顔を蹴られた
右袖に入れている小刀は取り上げられて谷に捨てられた
羽交締めにされ、そのまま地面に引き倒された

「や、めろっ」
「まだ喋れるのか。穢れの魔王」
鎖は冷の体には鎖がめり込み、引きちぎらんばかりだ
抵抗しているが、何故か冷は戸惑いを見せる

「ほう、ちちくりあった中だ。愛情ごっことはな」
「汚らわしい言葉は口にするな」
「代表して言ってやったんだろう」
「おい、手を緩めるな」
それは若く見える光界びとに言った言葉だった
おそらく頭数として連れて来られたのだろう
動揺しているのが目に見えて分かった
やらされているのだろうが止めようとはしない

結局仲間なのだ
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