月雨記 〜月詠と黒獅子〜

天王晴風

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第ニ十一話(最終話)

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理由が分かった
「冷っ!!」

一瞬だった
大声に驚いた光界びと達を跳ね除けた
立ち上がる一歩で体に刺さった剣を抜く
それを構えて薙ぎ払った

凄まじい剣風に四人は倒れ込む
所詮素人の付け焼き刃だ
荒事に慣れていないのだから簡単に振り解ける
形勢は逆転した
月詠は剣で四人をけん制しつつ、叫んだ

「月咏(ユエユー)!」
すると谷の底が明るくなった
光が高速で浮上してくる
リィンリリン...
捨てられた筈の小刀が杖に変わり月詠の右手に収まった
左手に持った剣を捨てる

「冷、"月詠"は通名です。ですから、全ての誓約は無効です!!」

ぱぁぁぁっと辺りが光った

鎖で宙吊りにされていたのは、黒い獅子に変わった
鎖は解けかかり、クイっと前脚を引くと、反対側の男が谷に落ちた
身を震わせて全ての鎖を解くと、悲鳴が上がった
「うわぁぁあ」
先に落ちた者の後を追うことになった

クォォォン
ひと吠えした黒獅子は駆けて月詠の元に来る
真っ黒なのに頭の後ろ側から背にかけて赤い毛が生えている
目は金色だ
「良かった」
月詠はそっと手を伸ばす
だが、黒獅子は一歩退がった

「冷?」
「怖くないのか」
「どうして? わたしを庇ってくれた優しい聖獣でしょう」
「まいったな」
「無事を祝いたいのですが、その前に一仕事片付けましょう」

「月詠、怪我をしただろう」
心配そうな表情を見てとった月詠は微笑んで黒獅子の首を撫でた
「もう治りました」
そう言って振り返った

「逃しませんよ」
言った瞬間に杖から光の矢が迸った
矢は四つに分かれて伸びる
光界に戻ろうとした四人の体に其々巻き付いた
「何をする?!」
「こっちの台詞です。聖獣に手を出した貴方方には処罰が下ります。覚悟しておいてくださいね」
杖を空に突き上げるとぐるぐる巻きにされた四人の姿が消えた

辺りに静寂が戻る
月詠は杖を小刀の形に戻し、いつものように右の袖にしまった
「谷に落ちたのはどうするんだ?」
「さあ、知りません。自分で戻るか、這い上がってくるか、腐獣の仲間になるか、本人次第ですね」

ククク...
「何ですか」
「優しいのか厳しいのか」
「わたしは優しいですよ」
「まったくだ」
黒獅子の体が光ると元の冷が立っていた
いや、目が赤い
力を使うと赤くなるのだろうか

「ところで、真名は何というんだ?」
「それはこの子と同じです」
月詠は右腕をさすった
「"月咏"?」
「そうです」
冷は月詠の頬を拭った
泥で汚れていたが殴られた後も何も無い
ほっとして笑った

「月咏を妻にすると誓約しよう」
「それは却下します」
言い合って二人は互いを抱きしめあった
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