月雨記2 〜紅焔玉魔〜

天王晴風

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第七話

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冷と月詠が牢屋に入れられてから二週間が過ぎた

「ここから出ろ、いやお出になってください」
「はい?」
なにやら慌てた様子で鉄格子の鍵を開けていた

ジャリ
鎖を外して鉄格子を開ける
読書に耽っていた月詠は書を光界の文献庫に戻して空間を消した

牢から出て大きく伸びをした
牢屋区画から出ると、衛兵達が取り上げられた持ち物を捧げ持っていた

冷も月詠も何も言わずに持ち物を受け取った
「ご苦労様でございました」
宰相が畏まってお辞儀をした
「身の潔白が晴れたかな」


「それはもう。失礼致しました」

「狗国王は来ないのか? 一言言ってやりたいんだが」
冷も刀をいつものように脇に挿した

「前国王は更迭されました」

「そうか。よかったな」
と言い、宰相と衛兵達が見ている前で、冷は燐光で扉を描いた
青白く光ると扉を押した

「おおっ」
どよめく一同を残して、冷と月詠は半月振りに自宅に戻ったのだった

「それで律儀に牢屋に収まっていたのかい?」
「そうだよ。出て行くのは簡単だけどね。通行手形を取り返さないといけなかったしさ」

ここは光界の東屋だ
陽光が煌めいて気持ちいい
自宅に戻った月詠はその足で光界に来ていた
久しぶりに会った友人の立厦に事の顛末を話していたのだ

「悠々自適な牢屋生活だったんだな」
「まあね。次があったとしても困らない位に術を身につけたよ」
「それは怪我の功名だな」
アハハと立厦は笑った

「まあね、今となっては笑い話だけど、そろそろいいかな」
そう言って立ち上がる
立厦もそうした
「今日はお忙しくないようだから、取りついでもらうといいよ」
「ありがとう」

二人は別々の道を行く
月詠は光堂に向かった

談義は終わったらしい
人々が階段を降りてくる
すれ違い様に会釈をしてくれる者もいた

あの件があったからか、誰も悪態をつかれたりしないし、陰口も聞こえない

一応認めてくれたってことかな
月詠はこっちも怪我の功名と思ったりした

長い階段を上がり光堂の前に立つ
いつも、ちょっとドキドキする
扉が開かなかったらどうしよう、などと想像で遊んでいた

この日もスーッと扉は開いた
中に入ると人はいない
正面の段上には光王が座っていた
隣には秘書役の東元が立って控えていた

「よくない話か」
「はい」
月詠は階段の前で立ち止まり礼をした

そして経験してきた一部始終を話した

特に問題なのは
「紅焔玉魔か。騒ぎを起こす度に報告が来る。腐獣王に匹敵する実力だと」
「はい。しかし、あの男は腐獣王である冷を狙っていました。手が混んでいて劇場型を好む様です」

光王は眉間を寄せた
「ふむ、討伐隊を出すようか」
「いいえ。あの男の実力を甘く見てはいけません。暫くは様子を見ると、冷は言っています」
「そうか。必要なら討伐隊を派遣する。犀形屋に任せよう」

「そう伝えます」
礼をして光王との謁見は終わった
月詠はゆっくりと歩いて光堂を出る

甘く見ているな
危機感を感じられなかった
あれだけの腐獣を手懐けて操り、傀儡の術は最高難度だろう
操るのは一人じゃない
百人以上を同時に操れるのだ

泥人形の組成、力の配分、行使力

いや、百人以上だったから術が甘くなったのだ

その点は幸運だった
光王は討伐隊を出すと言うが勝てるわけがない
返り討ちに遭うのが目に見えた

紅焔玉魔は冷に固執していた
わざと街中で仕掛けたのだ
冷は周囲を気にする
爆砕の術を使ったら、家屋に大変な被害が出ただろう

狡猾さが目立った

犀形屋に戻ると眩暈がした
服を着替えて寝台に横になった
体から力が抜けて行く
体がふわふわした

不意に大きな手のひらが額に当てられた
「術力を消耗したな」
冷は溜息をついた

「え?」
「牢屋で術の文献を読み漁っていただろう。読むだけでも術力を消費するんだ。勉強家も程々にしないとな」
「...はい」

「やけに素直だな、そうだ添い寝してやろうか」
「もふもふなら」

冷はチッと舌打ちした
そう来るとは思わなかった

「俺を抱き枕にする気か」
「嫌なら結構です」

「今日だけだからな」
「わーい」

冷は腐獣王の姿になった
そして月詠の横にうつ伏せた

待ってましたと月詠は抱きついた
「この姿で添い寝をねだるのは月詠だけだ。いつか纏めて返してもらうからな」
そう言ったのだが、月詠は寝息をたてていた

「月咏(ユエユー)の望みを叶える、と誓約する」

月詠の寝顔を見つめながら考える
今回はヤバかった
物量で攻撃されたのは初めてだった
街中だったから攻撃の術が使えなかった
それも嫌がらせだろう

もし、月詠が傀儡だと気づいてくれなかったら危なかった

奥の手は考えてあった
すべての敵を亜空間に放り込み閉じて捨てる
しかし、術を完成させるにも時間が必要なのだ

それにしても、紅焔玉魔の術の完成度が高かった
本当に危なかったと思う
一緒に戦ってくれた月詠が愛おしい

いつになったら夫婦になれるのだろうか
子を成して家庭円満な暮らしが夢だ
その日が待ち遠しい

冷も目を閉じまどろむ

静かで平和な日常に感謝している

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