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魔王の眼差し
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「ひゃっほー! すごいね、お犬さん!」
王子レオネルは、四天王筆頭の魔獣の災厄バルゼウスの背中に乗り、無邪気に笑っていた。
バルゼウスは奈落の森の頂点に君臨する最強の魔獣。
彼の咆哮は雷鳴を呼び、彼の爪は鋼を裂き、彼の牙はどんな魔法の障壁も打ち砕く。
悪魔の軍勢を率いる彼にとって、「乗り物になる」などという屈辱はあり得ないことだった。
だが、今の状況をどう説明すればいいのか。
(……なぜ、俺はこのガキを背中に乗せている……?)
バルゼウスの脳内は混乱の渦だった。
はじまりは、ほんの些細なことだった。
「ねぇねぇ、お犬さん、お散歩しよう!」
「……俺は、お犬さんではない……」
「いいから! ねぇ、乗ってもいい?」
バルゼウスは本来ならば、即座に拒否するはずだった。
しかし——
(何故か断れなかったんだ……!)
結果、彼は今、王子を背に乗せたまま、広間を歩かされている。
「すごーい! お犬さん、走って!」
「……俺は、お犬さんではない……」
「うわぁ、毛がふわふわ!」
「……俺は……」
バルゼウスは静かに心の中で泣いていた。
その光景を、漆黒のマントを揺らしながら見つめる影があった。
「……バルゼウス。」
空気が一瞬で張り詰めた。
災厄の魔王、リリエルが現れたのだ。
赤い瞳が、冷たくバルゼウスを見据えている。
その瞬間、広間にいた悪魔たちが、一斉に跪いた。
「リ、リリエル様……!」
「お、お戻りでしたか……」
「ま、待て、バルゼウス様が、今の今まで何をしていたか、報告したほうがいいのか……?」
誰もが息を殺す中、リリエルの視線がゆっくりと王子を乗せたバルゼウスに向けられた。
「……お前は、私の第一の僕であるはずだ。」
「……はい……」
バルゼウスは即座に背筋を伸ばし、王子を背中から下ろす。
「それなのに……何をしている?」
リリエルの声は冷たい。
あの冷酷非情な魔王が、部下を責める時の声。
バルゼウスは、長年リリエルに仕えてきた。
彼女の機嫌を損ねれば、即座に粛清されることを知っている。
「申し訳ございません、リリエル様。」
バルゼウスは跪き、頭を下げた。
「これは……試練の一環でした。」
「試練……? 私の命令を無視して、この人間の子供を試したというのか?」
「……いいえ、違います。私はただ……」
バルゼウスは、言葉に詰まる。
どう説明すればいい?
どうやって、この状況を正当化すればいい?
だが——
リリエルはさらに冷たく言った。
「長年仕えてきたはずの貴様が、私の命に逆らったというのなら……どうなるか、分かっているな?」
その言葉が落ちた瞬間、広間の空気が張り詰める。
四天王筆頭、バルゼウス。
奈落の森の最強の戦士。
そんな彼であっても、リリエルの裁定には逆らえない。
「……はい……」
彼の瞳が、静かに閉じられる。
次の瞬間——
彼は、自らの爪を胸に突き立てようとした。
「ダメだよ!」
その瞬間、レオネルがバルゼウスの腕にしがみついた。
「お犬さん、なんでそんなことするの!?」
バルゼウスの動きが止まる。
「……これは、俺の責任だ。リリエル様の命に逆らった以上、俺は——」
「違う! ダメだよ!」
レオネルは、必死にバルゼウスを止めようとした。
「お犬さんがいなくなったら、遊べなくなるじゃないか!」
バルゼウスは、唖然とした。
「……なっ……」
悪魔たちも、一斉にざわめく。
「えっ……?」
「ま、待て……この状況で、そういうことを言うのか……?」
「もはや俺たちには理解できん……」
そんな中——
リリエルの瞳が、冷酷な輝きを帯びる。
「……そこを退け、王子。」
彼女の指先に、赤黒い魔力が集まり始める。
このままでは、リリエルが魔力を放ち、バルゼウスを処刑するのは確実だった。
悪魔たちが息を飲む。
バルゼウスは、再び覚悟を決める。
しかし——
その瞬間、リリエルはふと、手を止めた。
理由は、ただひとつ。
レオネルの瞳が、じっとリリエルを見つめていたから。
無垢な、澄み切った蒼碧の瞳。
そこには、恐れも、疑いも、怒りもなかった。
ただ、心から「お願い」をするような、純粋な眼差しだった。
リリエルの動きが止まる。
魔力が、徐々に薄れていく。
バルゼウスも、悪魔たちも、息を飲んだ。
「……リリエル様……?」
リリエルは、王子の瞳をじっと見つめたまま、静かに息を吐いた。
そして、ただ一言——
「……好きにしろ。」
そう呟くと、彼女は踵を返し、そのまま闇の中へと消えていった。
広間に残されたのは、ただ呆然とする悪魔たちと、しっぽをフリフリと掴んで遊ぶ王子の姿だけだった。
王子レオネルは、四天王筆頭の魔獣の災厄バルゼウスの背中に乗り、無邪気に笑っていた。
バルゼウスは奈落の森の頂点に君臨する最強の魔獣。
彼の咆哮は雷鳴を呼び、彼の爪は鋼を裂き、彼の牙はどんな魔法の障壁も打ち砕く。
悪魔の軍勢を率いる彼にとって、「乗り物になる」などという屈辱はあり得ないことだった。
だが、今の状況をどう説明すればいいのか。
(……なぜ、俺はこのガキを背中に乗せている……?)
バルゼウスの脳内は混乱の渦だった。
はじまりは、ほんの些細なことだった。
「ねぇねぇ、お犬さん、お散歩しよう!」
「……俺は、お犬さんではない……」
「いいから! ねぇ、乗ってもいい?」
バルゼウスは本来ならば、即座に拒否するはずだった。
しかし——
(何故か断れなかったんだ……!)
結果、彼は今、王子を背に乗せたまま、広間を歩かされている。
「すごーい! お犬さん、走って!」
「……俺は、お犬さんではない……」
「うわぁ、毛がふわふわ!」
「……俺は……」
バルゼウスは静かに心の中で泣いていた。
その光景を、漆黒のマントを揺らしながら見つめる影があった。
「……バルゼウス。」
空気が一瞬で張り詰めた。
災厄の魔王、リリエルが現れたのだ。
赤い瞳が、冷たくバルゼウスを見据えている。
その瞬間、広間にいた悪魔たちが、一斉に跪いた。
「リ、リリエル様……!」
「お、お戻りでしたか……」
「ま、待て、バルゼウス様が、今の今まで何をしていたか、報告したほうがいいのか……?」
誰もが息を殺す中、リリエルの視線がゆっくりと王子を乗せたバルゼウスに向けられた。
「……お前は、私の第一の僕であるはずだ。」
「……はい……」
バルゼウスは即座に背筋を伸ばし、王子を背中から下ろす。
「それなのに……何をしている?」
リリエルの声は冷たい。
あの冷酷非情な魔王が、部下を責める時の声。
バルゼウスは、長年リリエルに仕えてきた。
彼女の機嫌を損ねれば、即座に粛清されることを知っている。
「申し訳ございません、リリエル様。」
バルゼウスは跪き、頭を下げた。
「これは……試練の一環でした。」
「試練……? 私の命令を無視して、この人間の子供を試したというのか?」
「……いいえ、違います。私はただ……」
バルゼウスは、言葉に詰まる。
どう説明すればいい?
どうやって、この状況を正当化すればいい?
だが——
リリエルはさらに冷たく言った。
「長年仕えてきたはずの貴様が、私の命に逆らったというのなら……どうなるか、分かっているな?」
その言葉が落ちた瞬間、広間の空気が張り詰める。
四天王筆頭、バルゼウス。
奈落の森の最強の戦士。
そんな彼であっても、リリエルの裁定には逆らえない。
「……はい……」
彼の瞳が、静かに閉じられる。
次の瞬間——
彼は、自らの爪を胸に突き立てようとした。
「ダメだよ!」
その瞬間、レオネルがバルゼウスの腕にしがみついた。
「お犬さん、なんでそんなことするの!?」
バルゼウスの動きが止まる。
「……これは、俺の責任だ。リリエル様の命に逆らった以上、俺は——」
「違う! ダメだよ!」
レオネルは、必死にバルゼウスを止めようとした。
「お犬さんがいなくなったら、遊べなくなるじゃないか!」
バルゼウスは、唖然とした。
「……なっ……」
悪魔たちも、一斉にざわめく。
「えっ……?」
「ま、待て……この状況で、そういうことを言うのか……?」
「もはや俺たちには理解できん……」
そんな中——
リリエルの瞳が、冷酷な輝きを帯びる。
「……そこを退け、王子。」
彼女の指先に、赤黒い魔力が集まり始める。
このままでは、リリエルが魔力を放ち、バルゼウスを処刑するのは確実だった。
悪魔たちが息を飲む。
バルゼウスは、再び覚悟を決める。
しかし——
その瞬間、リリエルはふと、手を止めた。
理由は、ただひとつ。
レオネルの瞳が、じっとリリエルを見つめていたから。
無垢な、澄み切った蒼碧の瞳。
そこには、恐れも、疑いも、怒りもなかった。
ただ、心から「お願い」をするような、純粋な眼差しだった。
リリエルの動きが止まる。
魔力が、徐々に薄れていく。
バルゼウスも、悪魔たちも、息を飲んだ。
「……リリエル様……?」
リリエルは、王子の瞳をじっと見つめたまま、静かに息を吐いた。
そして、ただ一言——
「……好きにしろ。」
そう呟くと、彼女は踵を返し、そのまま闇の中へと消えていった。
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