独裁国家の王女に生まれたのでやりたい放題して生きていきます!〜周りがとんでもなさすぎて普通なのに溺愛されるんですが!?〜

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第七節:微笑みは嘘? 知らないうちに疑われてるんですが!?

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「ねえ、聞いた? “あの手紙”のこと……」
「ええ、届いたわ。うちにも」
「私もよ。“神の微笑み”は、作られた演出だって……」

 

王都の貴族たちの間で、ある噂が密かに広がっていた。

それは、王家の第六皇女――リアナ・グランツェル・ヴァルトルート。
“奇跡の御子”と称され、王国中から崇拝されていたその少女の、
“聖女伝説”が虚構である可能性を示唆する、匿名の手紙だった。

 

『第六皇女の微笑みは、王妃クラリスの計画である』
『民衆を操る偶像を作り出し、実権を握る陰謀』
『目を覚ませ。真の支配者は、別にいる』

 

それらは、どこか理性的で、冷静で、説得力のある筆致で書かれていた。
誰が書いたのかも、どうやって配られたのかもわからない。

けれど確かに、それは届いた。
屋敷に、机に、寝室に、“自然に紛れ込むように”。

 

「まさか……あの可愛らしい皇女様が……?」
「いやでも、たしかに……出来すぎてると思ってたのよね」
「笑っただけで聖女なんて……子どもを持ち上げすぎじゃないかしら」

 

波紋は静かに、しかし確実に広がっていく。

 

一方、その渦中の人物――

私は、今日も元気に兄姉授業をこなしていた。
(泣きそうになりながら)

 

「リアナ、よく見て。この“毒入りの”お茶と、“毒抜き”のお茶、どちらが安全か分かる?」
「なんで“毒入り”を選択肢に含めるの!? 毒抜き一択だよ!!」

「暗号:いちばんやさしいのは“風”。さて、意味は?」
「うーん……ふわふわ……?」

「……よし、今日の石膏像は前回より精度が上がったな」
「彫刻の精度、求めてないの私だけだと思う……」

 

でも、今日の王宮は――なんとなく、いつもと違う気がしていた。
廊下を歩く使用人たちが、どこかよそよそしい。
お辞儀の角度が微妙に浅くて、笑顔が固い。

 

(……? なんか、変だな)

 

「リアナ様、今日のご機嫌はいかがでしょうか」
「うん、ふつうだよ?」

「……そ、そうですか。失礼いたしました」

 

(あれ、今、ちょっと目をそらさなかった?)

 

クラリス母のいる部屋に行けば、そんな空気は一掃される。
母はいつも通り、私を見て「ふふ、今日も可愛いわね」と笑ってくれるし、
兄姉たちも過剰なまでに構ってくれる。

 

でも――廊下の空気、侍女たちの声のトーン、外から聞こえてくる噂話。

 

(……もしかして、私、なんか言われてる?)

 

違和感だけが、じわりじわりと広がっていく。

 

夕方、部屋に戻ると、ゼクス兄が言った。

 

「リアナ、最近“風当たりが強くなった”と感じるかい?」
「えっ……うん、ちょっとだけ」

「ふむ。……君の周りで何かが動いている。そう感じているのは、僕だけじゃない」

 

そして、彼はそっと小さな紙片を差し出した。

 

そこには、見慣れない文字と印が刻まれていた。

 

「貴族たちにばら撒かれていた“手紙”の一部さ。……これは、僕が回収した」
「えっ……なにこれ……」

 

その紙には、こう書かれていた。

 

『女神の微笑みは、作られた幻想。目を覚ませ。』

 

 

(……は?)

 

(……なにそれ)

 

(私、ただ普通に暮らしてただけなんだけど!?!?)

目の前に置かれた手紙。
ゼクス兄が持ってきた“噂の手紙”の実物だ。

紙は上質で、文字も整っている。だが内容は――

 

『第六皇女の慈愛は演出である』
『民を操る偶像として育てられている』
『真実を知らぬまま、盲信するな』

 

……なるほど。

 

(いや、待って? なにこれ。マジで何これ!?)

(私、ほんっっっとうに何もしてないんだけど!?!?)

 

ゼクス兄は、淡々と告げた。

 

「王都の貴族の屋敷十数か所に、同様の手紙が届いている。しかも全部、送り主不明」

「これ、ただの嫌がらせとかじゃないよね?」

「うん。“計画性”がある。組織的なものだ」

 

兄の横顔は、芸術家らしい美しさを持ちながら、どこか冷たい。

「リアナ。君が“人の心を動かす存在”になったという証だよ」

「……心を動かす?」

「君の“普通”が、帝国にとって“異常”だった。その異常が、美しくて、優しくて、だからこそ――目障りなんだ」

 

(……ああ)

(そうか、私は――目立ってしまったんだ)

(やりたい放題“してるつもり”だったけど、周りから見たら、“変革”に見えてたんだ)

 

自由に生きるつもりだった。
好きなことをして、嫌なことはしない。
でも――

その“好き”や“普通”すら、この国では“革命”だったのかもしれない。

 

「でも……私、戦いたいわけじゃないよ?」

 

そう言うと、ゼクス兄はゆっくりと笑った。
それは、どこか寂しそうで、あたたかい笑みだった。

 

「君が戦わなくても、君の存在が“戦いの引き金”になる。……それが、“王族”というものさ」

 

(……王族って、めんどくさい……)

 

その夜。私は、久々にひとりきりで眠れなかった。

 

天井を見上げながら、思った。

(自由に生きたいだけだったのになぁ……)
(でも、もう、ただの“自由”じゃすまないのかもしれない)

 

でも――

 

「それでも、私は私のやり方で生きる」

 

静かにそう呟いて、目を閉じた。

 

次の日。

クラリス母に、こっそり聞いてみた。

 

「ねえ、母様……私、悪く言われてるって、知ってた?」

 

クラリスは、ティーカップを置いて、私を見た。

その表情は、少し驚いて、でもすぐに柔らかく微笑む。

 

「ええ、知ってるわ」

 

「……怖くないの?」

 

「いいえ。むしろ、“リアナがそこまで影響力を持つようになった”ことが、誇らしい」

 

「でも、どうして黙ってたの?」

 

「だって、あなたが“気づいた”時にこそ、あなた自身が一歩進めると思ったから」

 

私は、少しだけ黙ってから、笑った。

 

「ずるいよ、母様」

「ふふ、よく言われるわ」

 

(……でも、ありがとう。ちゃんと、信じてくれて)

 

そして、その日の夕方。

第一王子・シグルド兄が、ひとことだけ告げた。

 

「敵の尻尾をつかみ次第、叩き潰す。……それだけだ」

 

(うん、やっぱり家族、こわい)

(でも、ちょっとだけ……心強い)

 

 

──その頃、王都の外れ。
黒いフードを被った集団が、次なる作戦を練っていた。

 

「手紙は撒いた。次は“証拠”をでっち上げる番だ」

「宮廷内部に、“偽の協力者”を立てる」

「“神格化の裏側”を知る者が現れれば、民は疑い始める」

「揺らせ、“聖女”の足元を――」

 

陰謀は、静かに、しかし確実に動いていた。
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