独裁国家の王女に生まれたのでやりたい放題して生きていきます!〜周りがとんでもなさすぎて普通なのに溺愛されるんですが!?〜

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外交編:他国王族、リアナに接触す

第五節:頭脳派王子にオセロを差し出してみたら、想像以上に刺さった件

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ルシアン王子が来る日。

朝から私は、いつもよりちょっとだけ緊張していた。

前に母様から「この王子様は理論派で、人の本質を見るタイプ」と聞いていたから、
普通にお菓子を渡すだけじゃ、心の距離は縮まらないかもしれない。

(うーん……どうやって話そうかな……)

悩んだ末に、私はひとつのアイデアを思い出した。

 

「……“オセロ”、持ってこよう」

 

オセロ――黒と白の石を交互に置いて、挟んだらひっくり返す、ただそれだけの遊び。
でも、どこに置くかで形勢が変わって、頭を使う。

昔、異世界の記憶でふと見たあのゲーム。
シンプルだけど、負けても嫌な気持ちにならないし、なにより――“対等に向き合える”。

 

(勝ち負けじゃなくて、“楽しかった”って思ってもらえたら……うれしいな)

私は、自分で作った簡易版のオセロ盤と石を持って、応接間へ向かった。

 

 

* * *

 

ルシアン王子は、冷たい瞳のままそこにいた。

姿勢も姿も完璧。
礼儀も動きも隙がない。

けれど、表情には何の色もなかった。

(あっ……セシリアさんとはまた、全然違う……)

「ようこそ、ルシアン王子様。今日はお越しいただいてありがとうございます」

「……お招き、感謝いたします」

低く、無機質な返答。

挨拶を済ませたあとも、沈黙が続いた。
彼は、何かを測るように、こちらの視線をじっと見つめている。

(……え、こわい……)

(この人、ずっと“答え合わせ”してるみたい……!)

でも、怖がってばかりじゃいけない。
私は、おずおずと持参した木箱を開いた。

「えっと……よかったら、一緒に遊びませんか?」

ルシアンがわずかに眉を動かす。

「……遊び?」

「はい。“オセロ”という名前の遊びなんです。
この世界では、まだあまり知られてないと思いますけど……。
わたし、前に偶然考えついて、それからずっと作ってて……」

ルシアンの視線が、箱の中の盤面に向けられる。

黒と白の石が整然と並べられた簡易盤。
交互に置かれ、挟めば相手の石が裏返るというルール。

彼は無言のまま椅子に座り、じっと盤を見つめた。

「……単純なルールだ。だが……」

手元の石を指先で裏返す。

「ひとつ置くごとに、局面が変わる。全体を見通さねば、逆転される構造だ」

「はい、そうなんです。初めてやっても分かりやすくて、でも上手くなるとどんどん深くなるっていうか……」

私は、少し照れながら微笑んだ。

(こういう話なら、もしかしてルシアンさんとも通じ合えるかな……?)

でもその時、彼の表情がほんの一瞬だけ変わったのを見逃さなかった。

(……あっ、少しだけだけど、興味持ってくれた……!)

 

「……では、一局、付き合いましょう」

「はいっ!」

わたしが黒。ルシアンさんが白。

先手を取った私は、いつものように中央に一手置く。

……が。

五手目にはすでに、自分の石が囲まれていた。

(え……!?)

十手目には、ほとんどの石がひっくり返されていた。

(あ、あれっ……!?)

十五手目で、私はほとんど打つ場所を失っていた。

 

――結果。

「……完敗、です……」

私はうなだれた。

盤面は、見事に白に染まっていた。

「……リアナ殿下は、なぜこの遊びを提案されたのですか?」

ルシアンが、低い声で尋ねた。

「え? ……えっと……その、仲良くなれたらいいなって……」

「勝つ気は、なかった?」

「うーん……あ、そうかもしれません。
勝ち負けより、なんだか楽しくお話しできたらいいな~って……」

私は、少しだけ照れながら言った。

 

その瞬間、ルシアンの思考が止まったように見えた。

彼の瞳が、じっとこちらを見つめている。

(えっ……? な、なに……?)

怖い、とは違う。
でも、ものすごく“観察されている”気がした。

 

「……理解不能だ」

彼は、静かにそう呟いた。

 

(あれ? なにか怒らせちゃったかな……?)

「ご、ごめんなさい。負けちゃって、変でしたか……?」

「……いや、違う」

「……?」

ルシアンは立ち上がり、盤を見下ろしたまま言った。

「これは、優れた思考訓練だ。
論理的な構造、心理的な誘導、隠された先読み。
戦略の入門として、非常に完成されている」

 

「だが――そのゲームを“勝とうとせずに”私に渡した。
しかも、自然に。計算なく」

彼の目が、静かに揺れる。

「……やはり、君は――“異質”だ」

 

私は、何も答えられなかった。

ただ、ルシアン王子が今、
「勝ったはずなのに、なぜか敗北感がある」
――そんな顔をしていたことだけは、確かだった。
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