独裁国家の王女に生まれたのでやりたい放題して生きていきます!〜周りがとんでもなさすぎて普通なのに溺愛されるんですが!?〜

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外交編:他国王族、リアナに接触す

第四節:心を読むはずの私が、この子の“好き”に翻弄されてる

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「……あの、紅茶のおかわり、いかがですか?」

「……いただきます」

カップのふちから立ちのぼる甘い香り。
ほんのりバニラのような後味が、舌に残る。

カップを受け取ったセシリアは、そっと息をついた。

リアナと出会ってから、まだ二〇分ほどしか経っていない。
なのに――身体の力が、抜けている。

警戒も、読み合いも、駆け引きも、全部どこかへ溶けていく。

(なんで……?)

(この子、ずっと“普通”のことしか言ってないのに)

(それなのに――まるで、こちらの“飾り”をすべて脱がされていくみたい)

 

「セシリアさんは、お花、好きですか?」

「……花?」

「はい。王宮の中庭に、春のお花が咲き始めてて。
今日、ちょっとだけ咲いたんですよ。
よかったら、一緒に見に行きませんか?」

 

セシリアは、ほんの一瞬、言葉に詰まった。

(……花を見に行く?)

外交儀礼の最中に、こんな申し出を受けるなんて。
だが、リアナはまっすぐにこちらを見ていた。
本当に、“見せたい”という気持ちだけで。

それが、怖かった。

だって、“目的がない好意”に触れたのなんて、人生で初めてだったから。

(この子……私のこと、利用しようとも、探ろうともしてない)

(ただ、“一緒にいたい”って――それだけで)

 

「……案内、してくれるかしら?」

「もちろんです!」

リアナはぱっと笑顔になって、席を立った。

笑顔だけで、世界がちょっと明るくなった気がする。
そう思った自分に、セシリアはこっそり内心で驚いた。

 

 

* * * 

 

中庭に咲いたのは、薄紫色のクロッカス。

「このお花、ね。まだ寒いうちから顔を出すんですって」

「……へえ」

「強いのに、すごく優しい色してるんですよ。なんだか不思議ですよね」

リアナがしゃがんで、そっと花に触れる。
セシリアは隣に立って、その姿を見ていた。

(この子――ほんとうに、すごいわ)

(言葉も態度も、相手を包みこむように優しい。
なのに、媚びてない。気を遣っているわけでもない)

(これは……“本物”)

自分でも驚くほど、心が揺れていた。

「……貴女って、なんでそんなに自然に人に優しくできるの?」

思わず、口に出していた。

リアナは一瞬だけ目を見開いて――それから、小さく笑った。

 

「わたし、昔は……いろいろ大変だったから」

「……?」

「だから、人が困ってたり、悲しそうにしてると、なんか……気になっちゃうんです。
“ちょっとでも、楽になったらいいな”って」

「それだけ?」

「うん、それだけです」

あまりにも素直で、シンプルな答え。

それが、セシリアの胸の奥に、ズンと重く響いた。

 

(わたしは、いつも人を“読む”ことで防御してた。
騙されないように。踏み込まれないように。
だけど、この子は――違う)

(心を開いたまま、優しく笑える)

(“弱さ”を怖がらずに、強さにしてる……)

 

「……ありがとう」

「えっ?」

「そのクッキー、おいしかったわ」

リアナはぱあっと笑った。

「よかった~っ! また焼いておきますね!」

 

その言葉に、セシリアは小さく笑い返した。

気づけば、笑っていた。

こんな自然に、誰かに笑いかけるのなんて、いつぶりだろう。

(この子、やっぱり――読めない)

(でも、読まなくていい。“信じてもいい”って、思える)

 

ほんの少し、距離が縮まった。

自分の中の何かが、そっとリアナに触れようとしていた。

 

 

* * * 

 

その頃。

王都の東門――。

白い馬にまたがった騎士が、帝国の街並みに視線を向けていた。

第一王子、ルシアン・アスヴェルド。

冷徹で、論理的。
すべてを「無駄のない成果」で判断する男。

彼は帝都の空気を、肌で読み取っていた。

(静かすぎる……)

(だが、異常ではない。あまりに均整が取れすぎている。
まるで“すべてが制御された空間”だ)

「……これは、ただの謁見では終わらない」

その瞳は、真っ直ぐに王宮の尖塔を見つめていた。

 

その時、側仕えがふと尋ねた。

「殿下、第六皇女殿下について、何かお気づきの点は?」

ルシアンは、わずかに言葉を詰まらせた――が、すぐに口を開いた。

 

「……ひとつ、気に入らないことがある」

「と、申しますと?」

 

「……“皆が、笑顔で語りすぎている”」

 

ルシアンの中で、不明瞭な警戒と、名もなき焦燥が、静かに芽吹いていた。

そして、それが初めて彼に“予感”を与えていた。

 

――この国で、彼の“理屈”は通じないかもしれない。
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