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第三十三話:火の試練、始まる
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鉄と火と声のうねりが、空にまで届いていた。
《鉄環大市》最大の催し《武具試し》本戦。
その会場となるのは、街の北にそびえる、旧王国闘技場跡。
今は鍛冶師と武人たちのためだけに整備され、火と刃と勝負の神を祀る“熱の聖域”となっていた。
その巨大な円形競技場に、何千という観客が詰めかけていた。
石造りの観覧席は上段までびっしりと埋まり、魔声具を通して話される案内のたびに、地鳴りのような歓声が響いた。
緊張、期待、興奮。
すべてが煮え立ち、今日だけは“剣が打ち上げられる音”が、祝祭そのものだった。
俺とリノは、参加者口から会場の裏へと入った。
控えの通路は、石の冷たさと、武器の匂いが混ざって重たかった。
もうすでに十数組の参加者たちが控えていて、互いに目線をぶつけたり、静かに武具を整えたりしている。
そこに漂うのは、馴れ合いや感傷ではない。
“鍛冶師と使い手”という二人で一つの誇りが、この場に立たせているのだ。
リノは、浮かれた様子も気負いもなく、いつものように肩を軽く回していた。
「……すごい空気だな」
俺がぼそりと言うと、リノがふっと笑う。
「うん。でも、いい空気だ。どの武具にも“火の跡”がある。
みんな真剣に打ったって伝わってくる。……嫌いじゃないよ、こういう場」
まもなく、会場全体が沈黙に包まれた。
正面の高台に、重厚な装束を纏った主催審査団が現れる。
魔声具から響いたのは、老いたが張りのある男の声だった。
「――参集の皆に告ぐ。今より《武具試し》本戦を開始する」
観客が一斉に沸き立つ。
その中で、審査員の声は続いた。
「この試練は、鍛冶と武の融合により生み出された“武具”の本質を問う場である。
技術、精神、連携、意図。あらゆる観点から、“魂のこもった武”を見極める」
「競技内容は、三体の魔物との連続戦闘。
各組、鍛冶師と使用者の二人一組で、個別に戦闘空間に移送され、討伐までの“時間”と“評価”により順位を決定する」
広場の中央に、砂の塔のような大きな装置が立ち上がる。
それが、魔力砂時計──時間制限の象徴だった。
「二体を討伐し、上位成績を残した組のみが、決勝に進出できる。
進出組の上限は最大で三組。ただし、成績が届かぬ場合、その数は減る」
リノが横目で俺を見る。
「……つまり、“三枠”が保証されてるわけじゃないってことか」
「ああ。選ばれなければ、二体倒しても終わりってことだ」
「なるほど、燃えてくるな」
審査員の声がさらに続く。
「三体目の決勝魔物戦は、会場が変化し、全組が同時に戦闘する形式となる。
各組の戦闘区域は明確に分けられるが、同じ空間に立ち、同じ風を吸い、同じ魔物の威圧に晒される」
そして、締めの一言が静かに告げられる。
「以上をもって、《武具試し》本戦の概要と規定を伝達した。
各組、準備を整え、火に誠を刻め──
……それが、“武具師”としての証だ」
会場がどっと沸いた。
だが俺の胸に残ったのは、静かなざわめきだった。
想いを伝える。
鍛冶師にとって、それは刃の形や技術以上に大事なことだ。
《鍛眼》を得てから、俺はそれを知った。
だからこそ、これは──戦うためだけの試合じゃない。
「エントリーNo.07──鍛冶師ユルク=カナデ、使用者リノ。出場準備を」
静かに、俺たちの名前が呼ばれた。
リノは背筋を伸ばし、深呼吸一つ。
そして背中に手を当て、**《継炎の太刀》**の柄を確かめる。
「……じゃ、行ってくる」
「ああ。任せた」
交わす言葉は少ない。
だがこの静けさは、火を起こす前の炉のようだった。
リノの姿が転送陣に消え、
映像具に映し出されたのは、岩場と荒地が入り混じる、密閉された戦場。
その中央に、ひとつの影が現れる。
四肢を低く構え、背に鋭利なブレードを何本も生やした魔物。
甲高い音を響かせて、歩くだけで砂が刃のように舞い上がる。
――《刃蜥蜴(ブレード・リザード)》
初戦の相手にしては、重すぎる。
だがリノは、わずかに笑ったように見えた。
背中の太刀に手を添え、静かに抜き放つ。
刃が空を裂く音。
まだ炎は灯っていない。
だが確かに、戦う意志がそこにあった。
第一戦――開始。
《鉄環大市》最大の催し《武具試し》本戦。
その会場となるのは、街の北にそびえる、旧王国闘技場跡。
今は鍛冶師と武人たちのためだけに整備され、火と刃と勝負の神を祀る“熱の聖域”となっていた。
その巨大な円形競技場に、何千という観客が詰めかけていた。
石造りの観覧席は上段までびっしりと埋まり、魔声具を通して話される案内のたびに、地鳴りのような歓声が響いた。
緊張、期待、興奮。
すべてが煮え立ち、今日だけは“剣が打ち上げられる音”が、祝祭そのものだった。
俺とリノは、参加者口から会場の裏へと入った。
控えの通路は、石の冷たさと、武器の匂いが混ざって重たかった。
もうすでに十数組の参加者たちが控えていて、互いに目線をぶつけたり、静かに武具を整えたりしている。
そこに漂うのは、馴れ合いや感傷ではない。
“鍛冶師と使い手”という二人で一つの誇りが、この場に立たせているのだ。
リノは、浮かれた様子も気負いもなく、いつものように肩を軽く回していた。
「……すごい空気だな」
俺がぼそりと言うと、リノがふっと笑う。
「うん。でも、いい空気だ。どの武具にも“火の跡”がある。
みんな真剣に打ったって伝わってくる。……嫌いじゃないよ、こういう場」
まもなく、会場全体が沈黙に包まれた。
正面の高台に、重厚な装束を纏った主催審査団が現れる。
魔声具から響いたのは、老いたが張りのある男の声だった。
「――参集の皆に告ぐ。今より《武具試し》本戦を開始する」
観客が一斉に沸き立つ。
その中で、審査員の声は続いた。
「この試練は、鍛冶と武の融合により生み出された“武具”の本質を問う場である。
技術、精神、連携、意図。あらゆる観点から、“魂のこもった武”を見極める」
「競技内容は、三体の魔物との連続戦闘。
各組、鍛冶師と使用者の二人一組で、個別に戦闘空間に移送され、討伐までの“時間”と“評価”により順位を決定する」
広場の中央に、砂の塔のような大きな装置が立ち上がる。
それが、魔力砂時計──時間制限の象徴だった。
「二体を討伐し、上位成績を残した組のみが、決勝に進出できる。
進出組の上限は最大で三組。ただし、成績が届かぬ場合、その数は減る」
リノが横目で俺を見る。
「……つまり、“三枠”が保証されてるわけじゃないってことか」
「ああ。選ばれなければ、二体倒しても終わりってことだ」
「なるほど、燃えてくるな」
審査員の声がさらに続く。
「三体目の決勝魔物戦は、会場が変化し、全組が同時に戦闘する形式となる。
各組の戦闘区域は明確に分けられるが、同じ空間に立ち、同じ風を吸い、同じ魔物の威圧に晒される」
そして、締めの一言が静かに告げられる。
「以上をもって、《武具試し》本戦の概要と規定を伝達した。
各組、準備を整え、火に誠を刻め──
……それが、“武具師”としての証だ」
会場がどっと沸いた。
だが俺の胸に残ったのは、静かなざわめきだった。
想いを伝える。
鍛冶師にとって、それは刃の形や技術以上に大事なことだ。
《鍛眼》を得てから、俺はそれを知った。
だからこそ、これは──戦うためだけの試合じゃない。
「エントリーNo.07──鍛冶師ユルク=カナデ、使用者リノ。出場準備を」
静かに、俺たちの名前が呼ばれた。
リノは背筋を伸ばし、深呼吸一つ。
そして背中に手を当て、**《継炎の太刀》**の柄を確かめる。
「……じゃ、行ってくる」
「ああ。任せた」
交わす言葉は少ない。
だがこの静けさは、火を起こす前の炉のようだった。
リノの姿が転送陣に消え、
映像具に映し出されたのは、岩場と荒地が入り混じる、密閉された戦場。
その中央に、ひとつの影が現れる。
四肢を低く構え、背に鋭利なブレードを何本も生やした魔物。
甲高い音を響かせて、歩くだけで砂が刃のように舞い上がる。
――《刃蜥蜴(ブレード・リザード)》
初戦の相手にしては、重すぎる。
だがリノは、わずかに笑ったように見えた。
背中の太刀に手を添え、静かに抜き放つ。
刃が空を裂く音。
まだ炎は灯っていない。
だが確かに、戦う意志がそこにあった。
第一戦――開始。
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