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第一章⑨:私はただ、のほほんと生きたいだけ
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反省の場から数日が経った。
あれからというもの、私は“王女らしく生きる”ことにそれなりに気を配っていた。
言葉づかい。立ち居振る舞い。食事の仕方。
あまり人と話すことのなかった私にはなかなか大変だったけど、クラウスが付きっきりで教えてくれた。
そんなある日の朝。
私の部屋にて、クラウスから届けられた“家族の戦果報告”により——私は、完全に悟った。
「……で、父は?」
「第一王命として“王国会議”において予算案の再審議を提案。宰相派に真正面から切り込んでおります。
現在、王政復権の第一段階として、情報監察室の設立を進めております」
「うん、なるほど……そして母は?」
「社交界の中心を一日で掌握。
宰相派の貴族婦人たちとの会話において、三手先を読みながら法とマナーで全員論破。“微笑みの帝王”と呼ばれ始めております」
「……ラノベ読み込みすぎた人の成れの果てみたいな成果だね……。で、兄は?」
「自ら“影の情報網”を立ち上げ、王宮内の使用人からの情報を集約中。
その過程で“影の織糸”なる名称を口にしていたことを、侍女が報告しております」
「中二病、完全に再発してるじゃん……いや知ってたけど!」
「さらに弟君。軍部に単独で乗り込み、模擬戦でベテラン兵を瞬殺。
訓練場の将兵たちからは“殿下”ではなく“隊長”と呼ばれているようです」
「……あの子、本当に一番下なのにね……?」
私はふらっとベッドに倒れ込んだ。
天井を見上げる。豪華なシャンデリアが回ってる。目も回る。
(……全員、バケモンかよ……)
家族って仲は良かったけど、今までずっと「それぞれすごい人」だなって思ってはいた。
でも今はもう、そういうレベルじゃない。
みんなこの世界に来て、ガチで無双してる。
……一方私はどうか?
悪役令嬢ポジから反省の場でちょっと改心アピールした程度。
今後どうするの? 王女として政略とか、社交界とか、軍部とか?
無理だよ!!!!
「……私は……のほほんと生きると、決めました」
ぽつりと、口に出した。
「……観光だ。観光しかない」
意味が分からない。でも自分で言ってて妙に納得してしまった。
だって、この世界の町並みとか文化とか、正直ちょっと見てみたいじゃん?
でも一人で行くのはさすがに怖い。よし、護衛をつけよう。
「クラウス。ちょっと弟、呼んできて」
「……は?」
「町に出るの。護衛、お願いしたい」
「……お差し支えありませんか? 第二王子殿下は軍務で多忙かと」
「大丈夫。たぶん筋トレの合間に来てくれる」
根拠はない。でもなんとなく兄弟の顔が浮かんだ。
(たぶん、あの子なら「了解」って言って付いてきてくれる気がする)
* * *
そして数時間後。
私は旅人風のローブを羽織り、弟を連れて城下町へ向かっていた。
馬車の中で、私はちょっとわくわくしながら言った。
「えーっと、今日の目標は、おいしいパン屋さんと、可愛い雑貨屋さんを見つけることです」
「……了解。周囲の警戒は任せろ」
「ありがとう。でもなんか“警戒”って言われると、観光感ゼロだね……」
弟は淡々とした表情のまま座っている。
剣を背に、魔力の気配を絶えず探っているらしい。たぶん、本当に警戒中なんだと思う。
私の隣にいるのが最強の護衛って、考えてみればすごい安心感だよね……。
(うん、もういいや……家族みんなすごすぎて逆に開き直れるわ)
私はそう決めた。
この世界で、無理に背伸びして王女らしく生きるより、
この世界を、ちゃんと“好き”になってみよう。
そして、できることが見つかったら——そのときに、私も、前に出よう。
まずはパン屋さんからだ。
あれからというもの、私は“王女らしく生きる”ことにそれなりに気を配っていた。
言葉づかい。立ち居振る舞い。食事の仕方。
あまり人と話すことのなかった私にはなかなか大変だったけど、クラウスが付きっきりで教えてくれた。
そんなある日の朝。
私の部屋にて、クラウスから届けられた“家族の戦果報告”により——私は、完全に悟った。
「……で、父は?」
「第一王命として“王国会議”において予算案の再審議を提案。宰相派に真正面から切り込んでおります。
現在、王政復権の第一段階として、情報監察室の設立を進めております」
「うん、なるほど……そして母は?」
「社交界の中心を一日で掌握。
宰相派の貴族婦人たちとの会話において、三手先を読みながら法とマナーで全員論破。“微笑みの帝王”と呼ばれ始めております」
「……ラノベ読み込みすぎた人の成れの果てみたいな成果だね……。で、兄は?」
「自ら“影の情報網”を立ち上げ、王宮内の使用人からの情報を集約中。
その過程で“影の織糸”なる名称を口にしていたことを、侍女が報告しております」
「中二病、完全に再発してるじゃん……いや知ってたけど!」
「さらに弟君。軍部に単独で乗り込み、模擬戦でベテラン兵を瞬殺。
訓練場の将兵たちからは“殿下”ではなく“隊長”と呼ばれているようです」
「……あの子、本当に一番下なのにね……?」
私はふらっとベッドに倒れ込んだ。
天井を見上げる。豪華なシャンデリアが回ってる。目も回る。
(……全員、バケモンかよ……)
家族って仲は良かったけど、今までずっと「それぞれすごい人」だなって思ってはいた。
でも今はもう、そういうレベルじゃない。
みんなこの世界に来て、ガチで無双してる。
……一方私はどうか?
悪役令嬢ポジから反省の場でちょっと改心アピールした程度。
今後どうするの? 王女として政略とか、社交界とか、軍部とか?
無理だよ!!!!
「……私は……のほほんと生きると、決めました」
ぽつりと、口に出した。
「……観光だ。観光しかない」
意味が分からない。でも自分で言ってて妙に納得してしまった。
だって、この世界の町並みとか文化とか、正直ちょっと見てみたいじゃん?
でも一人で行くのはさすがに怖い。よし、護衛をつけよう。
「クラウス。ちょっと弟、呼んできて」
「……は?」
「町に出るの。護衛、お願いしたい」
「……お差し支えありませんか? 第二王子殿下は軍務で多忙かと」
「大丈夫。たぶん筋トレの合間に来てくれる」
根拠はない。でもなんとなく兄弟の顔が浮かんだ。
(たぶん、あの子なら「了解」って言って付いてきてくれる気がする)
* * *
そして数時間後。
私は旅人風のローブを羽織り、弟を連れて城下町へ向かっていた。
馬車の中で、私はちょっとわくわくしながら言った。
「えーっと、今日の目標は、おいしいパン屋さんと、可愛い雑貨屋さんを見つけることです」
「……了解。周囲の警戒は任せろ」
「ありがとう。でもなんか“警戒”って言われると、観光感ゼロだね……」
弟は淡々とした表情のまま座っている。
剣を背に、魔力の気配を絶えず探っているらしい。たぶん、本当に警戒中なんだと思う。
私の隣にいるのが最強の護衛って、考えてみればすごい安心感だよね……。
(うん、もういいや……家族みんなすごすぎて逆に開き直れるわ)
私はそう決めた。
この世界で、無理に背伸びして王女らしく生きるより、
この世界を、ちゃんと“好き”になってみよう。
そして、できることが見つかったら——そのときに、私も、前に出よう。
まずはパン屋さんからだ。
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