極上Dr.の甘美な誘惑―罪深き深愛の果てに-(旧題:sinful relations)

雛瀬智美

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第二章「chain of love」

第26話「パーフェクト」(2)

駐車場で車を停めた蒼宙さんは、後部座席の扉を開いてくれる。
「人生、初合コンだ。どんな感じなんだろう?」
「そうだったんですね!」
 蒼宙さんは真ん中、両隣に私と陽香が歩いて行く。青とは同級生のはずだが、
 彼は別の意味で年齢が分からない。童顔なのだ。
「蒼宙さんってかわかっこいい人ですね」
「……陽香、的確な表現すぎる」
 蒼宙さんは口元を押さえて笑い、二人の手を両側から握った。
「不思議。異性なのに、何も気にならない」
「……そっか」
 よかった、とつぶやきエスコートしてくれる。店内に入ると参加メンバーが集まっていた。
「じゃあね。何かあったら呼んでね。あの人もすぐ来ると思うけど」
 蒼宙さんは、男性側の席に移動していった。
「20代でああいうかわいい系の俳優さん、いるわよね」
 この間会った時も思ったことだった。
「かわいいだけじゃない気がする。何となく」
 陽香がぼそっとつぶやいていた。
 女性側の席には、私と陽香の他に三人いた。
同じ部署の女性社員と、別の部署の女性社員、どちらも少し年上だ。
男性側のメンバーも20代の社員だった。
ちいさな集まりなので、合計十一名。蒼宙さんが来たから男性が六名になった。
幹事の男性は、知らないが、シャネ○の匂いを漂わせた人が女性の幹事だ。
「今日は来てくれてありがとね。あなたに会えてうれしいわ」
「……すみません。てお名前が分からなくて」
「春日佐緒里と申します。あなた方の部署で部長をしている春日学の妹です」
 この女性が怖いと感じたのは何故だろう。
優しげに微笑み強そうなお酒をあおっている彼女は、艶のある眼差しをしていた。
「二人は、アルコールは大丈夫なの? 私が頼んであげるわよ」
「せっかくですが、私は弱いのでオレンジジュースにしておきます。沙矢もそれでいい?」
 陽香は彼女の方を一瞥し、しっかりと宣言した。
「うん」
「あら。車で来てないなら飲んでもいいのに」
 そんなことを言い、佐緒里さんは三人分の飲み物を注文した。
「男性側の幹事は兄さんなんだけど今日は来ないの。
参加費用はいらないってどれだけ太っ腹なのかしら。あなたたち、感謝しなくちゃね」
「えっ。参加費はいらないんですか」
 驚きが口から出ていた。
陽香は一瞬、不快そうに眉をひそめた。
オレンジジュースのグラスを持つ。
「……この合コン、仕組まれてますよね」
「あまり勘がいい子は可愛くないわよ」
 部長の妹は、くすくすと笑い、席を立つ。
 その時、会場内にざわめきが広がる。
女性社員三人が、立ち上がり店内に入ってきた人物に釘づけになっている。
 その視線の先には、青がいた。
ダークグレーのスーツに同色のネクタイ、スラックスは今朝、見た姿と同じだった。
ひときわ目立つ長身は、歩幅も大きい。
「……沙矢、あなたの恋人の彼でしょ?」
 陽香が耳打ちする。
「……う、うん」
 青が会場に入りいよいよ本格的に合コンが始まった。
その場を動かない女性メンバーの中で、立ち上がった女性がいる。
――春日佐緒里。私はこの人の名前を忘れないだろう。
 佐緒里さんは、マイクを握りしめて挨拶をしていた。
「今日はご参加くださりありがとうございます。合コンではありますが、
あまり気負わずご自由に飲んで食べて楽しんでいただければと思います。
今日は春日学部長……兄の厚意で参加費も無料です」
 太っ腹な配慮に歓声が上がった。
 とりあえずお腹が空いていたので何か頼もうかとメニューを見ていたら彼がやってきた。
隣には、蒼宙さんの姿もある。
陽香は、口ではなく胸元を押さえている。
「どうしたの? 具合悪いなら早いけど帰る?」
「……ちょっと胸が苦しい。心臓に悪い合コンだわ」
 陽香はオレンジジュースを一気飲みした。
「陽香さん、初めまして。沙矢がお世話になっています」
 青は、陽香の手に名刺を差し出した。
「持ってたの知らなかった。私も名刺が欲しい」
 陽香が手にした名刺を二人で見つめる。
「……え、藤城さん?」
陽香が名刺と青を見比べていた。
名刺には、T大学付属大学病院医師・藤城青と書かれていた。
そういえば母も藤城の名字に反応していた気がする。
 きょろきょろと視線を泳がせる。
「名刺、いいな。四月になって作ったら沙矢ちゃんと陽香ちゃんにあげるね」
 蒼宙さんは、青の名刺を見てうらやましそうにしていた。
「付き合っている相手の名刺を欲しがるなんて、そんなに俺を独占したいのか?」
「……そ、そういうわけじゃなくて」
 女性陣がいなくなった席には、青と蒼宙さんが座った。
 私の隣には青が座り、陽香の二つ隣の席に蒼宙さんが座っている。
「幹事の女性、青を見てた気がするけど……」
「まったく気がつかなかった」
 青の発言は、私を安堵させた。
(他の女性を見て欲しくない)
 蒼宙さんが、口元に手を当てて笑った。
「やっぱりね」
「……ゲームが始まったみたいね。親しくなりたい相手はいないし、そろそろ帰ろうかしら」
 陽香は、ため息をついた。
「そうですね。せっかくですが我々は帰りましょう。どうせタダだしいつ帰ろうが自由なはずだ」
 来たばかりの青は、陽香に同意した。
 陽香は、佐緒里さんが話しかけてきた時から、様子がおかしい。
「時間が大丈夫だったら、少しお話ししたいことがあります」
 陽香は、意を決したように口を開いた。
 蒼宙さんも含めた四人は、席を立ち出入り口に向かおうとしている。
「藤城先輩、あなたに会えるとは思わなかったわ! 兄さんが主催してくれてよかった」
 チラ、と春日佐緒里さんが私を見て青に視線を向けた。
(何か、鋭い視線だった。敵意があったような)
「失礼ですが、どなたですか? 私は彼女に付き添って参加しただけです。
 茶番は、皆さんでどうぞ楽しんでください。失礼します」
 青はきっぱり言い放ち、私の腕を取った。私は陽香の手を握る。
「茶番って言っちゃったよ」
 蒼宙さんが小声で言う。私達はそのままお店を出た。
「雰囲気だけ、少し味わえたかな。僕にも青にも相手がいるからただの冷やかしだけどさ」
 駐車場に着くと蒼宙さんが小さく微笑んだ。
「今日はありがとう。愛璃にもよろしく伝えといてくれ。また来月、改めて」
「彼女だから今日は参加を許してもらえたわけだけどね」
 ひらひらと、手を振って車に乗り込む蒼宙さんに思わず声をかけていた。
「あの。実は旦那様が合コンに参加するのを許すなんて、理解ありすぎな奥様だと思ったんです」
「うん。その先は青に聞いてね。沙矢ちゃんも驚くかもよ」
 意味深な微笑みを残し車は去って行った。
「陽香さん、今日は沙矢と一緒にいてくれてありがとう」
「いえ。私も沙矢に付き合ってもらったから」
 申し訳なさそうな陽香に微笑みかける。
「お話は車の中で聞きますよ。ご自宅までお送りします」
「はいっ。ありがとうございます……青さま」
 さっきから青を様づけしているのが気になった。私は助手席、陽香は後部座席に乗った。
「お時間は大丈夫ならどこかカフェレストランでお口直しでもしますか?
沙矢の会社の方のご配慮で無駄金使わなくてすみましたし」
「陽香、時間が大丈夫そうなら一緒にご飯食べよう?」
「時間は大丈夫です。着いたお店でお話ししますね」
 陽香は、私に微笑み、青に返事をした。
車がたどり着いたのはこの間訪れたパスタと同じく全国チェーンだ。
多分、青は気を遣わないようにしてくれている。
 夜なので混んでいたが、待たずに席に案内してもらうことができた。
私と青は向かい合って座り、私の隣に陽香が座った。
ドリンクバーの所にある水を青が三人分取ってきてテーブルの真ん中に置いてくれる。
それを私が配った。
「ありがとう」
 陽香は一度うつむいた後、顔を上げた。
「今日の奇妙な合コンですが、男性側の幹事は、春日学という部長職の人です。
一応、上司なのでお膳立てされた集まりを断れませんでした。
沙矢と青さまに、来てもらって心強かったです」
「ああ……例のね。実は沙矢の成人式の日、東京駅でお会いしました。
沙矢を送るとか、気前のいいことを仰ってましたね。その部長の方」
 忌々しそうな青に、あの時の情景を思い起こす。青は静かに牽制していた。
感情を荒らげてはいないが、激怒していた。
「……顔を合わせてるんですね。今度は妹まで使ってくるとは相当イカれてるかもしれません」
 陽香の口から出た言葉を反芻する。
「本人が来ていても俺がいたら何も行動できなかったでしょう。
妹とやらが、馴れ馴れしく話しかけてきたのはぞっとしましたが……」
「青さまは、彼女のこと、知らないんですよね」
「知りません。沙矢の側でごまかしているわけではなく」
「……沙矢も青さまのパーソナルな部分を知らないみたいですしね。ありえなくもないですね」
 青は陽香に何も言わなかった。
 それぞれの頼んだメニューが運ばれてきて食べ始めると食事が終わるまで誰も口を開かなかった。
「妹を使って沙矢に探りを入れたのかもしれません。
同性なら親しくなくてもある程度は警戒がゆるみますよね」
「陽香さんの手を煩わせますが、一応警戒していただけると助かります。
沙矢にも注意しておきますので」
「もちろんです! 沙矢の為ですもの。引き受けましょう」
「頼もしいです。ありがとうございます」
「そういえば青さまって呼んでるの何で? 青、病院の先生だけど芸能人とかじゃないのよ」
 疑問をぶつけると陽香は肩を叩いてきた。
「青さまは青さまだからよ。後は本人に教えてもらってね。秘密だらけのパーフェクトスパダリに」
「スパダリ?」
 完璧の後が分からない。
 首をかしげていると、正面の人が吹き出した。
(失礼すぎる)
「二人ともそろそろ帰ろうか?」
 青が先に席を立ち、支払いを済ませた。
陽香は、青に頭を下げていたが彼は、爽やかに微笑んだだけだった。
陽香のアパートまで送り車に乗り込むと私は、疑問をぶつけた。
青も話をするためか車を出す様子はない。
「スーパーダーリン、まだ秘密があったのね」
「知ってるんじゃないか。いや、そんな大層な存在じゃない。
 陽香さんにも違うと言っておいてくれ」
 楽しげな青。どうやら、さっさと合コンを抜けられたのもよかったみたいだ。
「お母さんも、陽香も藤城の名前に反応してるの気になるんだけど」
「……日曜日にでも俺の実家に行くか。途中で病院の方にも寄ってやる。
俺の勤務先じゃなくて、実家が経営する方の」
「行く! ご実家も藤城総合病院も」
 私は青と上手くいくことしか頭になかった。
実家は総合病院だと、彼は伝えていてくれていてそれなら藤城総合病院だ。
青の名字は藤城(とうじょう)だから。


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